アイエエエ!?センセイ!?センセイナンデ!?   作:湊咍人

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チトセの名前に関する小ネタのヒントをちびちび小出しにしていきます

・チトセの名前に意味はありますが漢字に意味は無いです


聖者の行進(When the Mistaken Go Marching In)

 

 

 

「───チトセ嬢の正体は、一種の()()です」

 

 

 

 可能性が高いとはいえ、あくまで推定の域を出ませんが───そう前置きして語られた言葉は、咀嚼しようにも形を捉えることすら叶わなかった。

 

"......ごめん、もう少し順番に説明して"

「これは失礼しました。先生にも理解できるように順を追って説明しましょう」

 

 どこからともなく取り出したタブレット端末と、それに表示された複数の図表。

 ......さてはこいつ、私が理解できないことを予期して分かりやすいパ〇ポ作りやがったな。

 

「......先生は"世界五分前仮説"というものをご存じですか?」

"まあ、流石に?"

 

 もし世界が五分前に形作られた物であったとして、それを否定することは不可能であるという話だ。

 あらゆる過去の記録、今までの生における記憶が全て五分前に作られたとすれば私たちにそれを否定する術はない。

 

「……仮に、そうですね、たとえば今から五分ほど前に全世界が崩壊していたとして、或いは更に遡って数か月前の時点で世界そのものが巻き戻されていたとしても――我々の現時点の知覚、あるいは記録上、それを確かめる手段というのは存在しないわけです」

"つまり、この世界がループしていると?そんなラノベみたいな......"

「確かに現段階で提示できる証拠そのものは、正直なところ決定打には欠けます。ただし全くの空論というわけでもなく、いくつかの観点から――たとえば関連する傾向や過去の事例といったものからは、少なくともこの説を否定するに至らないのです」

 

 ほんの少しではあるものの興奮した様子の黒服を前にたじろいでしまうが......確かに研究者としては興奮せざるを得ないだろう。

 

 ここはキヴォトス。ある種の奇跡と特異現象が入り乱れる世界だしあり得てもおかしくはないと思うけど......

 

"それがチトセとどう関係するの?もしかしてループの記憶持ちとか......いや普通にありえそうだけども"

「少なくともこのキヴォトスにおいてチトセ嬢は()()()と言って差し支えは無いでしょう。

 ......話を戻しますか。チトセ嬢はループする者ではなく、そのループにおける副産物のような存在であると考えています」

"副産物......?"

 

 画面をスワイプし、フリー画像を組み合わせたかのような......明らかに子供向けの図表が表示される。

 これどう考えてもバカにされてるよな?本当に頭に来ますよ!!

 

 階段の踊り場に置かれたグラス。そこから伸びる影が床に投影され、生徒という形をとっている。

 ......これはうん、説明を前提とした図表だからね。この時点で理解できないのは私がバカだからじゃないよね?

 

「これが極めて簡略化したキヴォトスの構造です」

"これが!?"

 

 どどどどういうことだってばよ!?私が今まで見てきたキヴォトスはアレか!?水槽に浮かぶ脳が見てた幻......ってコト!?

 

「高次元に存在する神格を神秘が満たし、投影された影が低次元の箱庭───キヴォトスにおいて生徒という形をとる。

 故に生徒の本質は身体ではなく、より高次の存在であるヘイローに宿ります。身体はヘイローを支える柱、とも解釈することも可能ですがね」

 

 故に生徒の死は肉体の損壊に引っ張られるものの、先立つのはヘイローの破壊。

 睡眠という無意識状態においてヘイローが発現しないのは、高次元における休息と死の状態を低次元に投影された影において判別する術を持たないからとか。

 

 まあ正直よく分かってないんだけど()

 

「つまり───」

"ちょいちょい黒服さんや、話が脱線しすぎじゃない?"

「......これは失礼しました。チトセ嬢の話に戻りましょうか」

 

 このキヴォトスの構造に問題は無いものの、ループを実際に行うにあたって一つの問題が生じるのだという。

 

 おそらく連邦生徒会長その人が構築したシステムには、避けようもない構造的欠陥が存在するのだと。

 

「恐らくは私が用いる疑似高次元干渉(Imitation higher-dimensional interference)と類似したシステム、エントロピーの増大という本来不可逆であるはずの時間の矢を高次元からの干渉で疑似的に逆転させているのでしょうが......」

"分かるように説明して!!"

「......チェスで進めた駒を、一つずつ元に戻していくようなものです。ルール上不可能ですが、ルール外の力でそれを行うことで疑似的に死者の蘇生すら可能にする奇跡です」

 

 ですが......と区切る。

 本来不可能であるはずの奇跡、それにも唯一の欠陥が存在するのだと。

 

「この疑似ループにも唯一、完全に巻き戻すことができない不可逆な変化が存在します」

"......それは何?"

「私やループの実行者と同次元にて発生する、神格の根本的で不可逆な変化。

 ───即ち、反転(テラー化)です」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

"テラー......恐怖だっけ?チトセが使う力もそれだった気がするけど"

「ええ、その認識で問題ありません。

 ......テラー化とは神格そのものに生じる器の()()のようなもの。些細な変化ですが同次元である以上我々には手が出せず、その影である生徒としての姿はまさに()()と呼ぶにふさわしい劇的な変化を齎します」

 

 ......ん?

 

 でもテラー化した生徒が出た上でループしちゃったら、不可逆である以上次のループで最初からテラー化した状態から開始しちゃうんじゃない?

 つまり私はまだ一度もループしていない?あるいは───

 

「───完全でなくとも、テラー化は元の姿に戻す方法が存在する。そう考え至ったのでは?」

"......つまり、あるんだね?"

「ええ、推論に推論を重ねることになってしまいますが......」

 

 そこからの説明はクッソ長いうえによく分かんなかったので端折るんだけど、なんかテラー化した生徒の神格を保ったまま次元を一つ落とすことで疑似高次元干渉の適用範囲内にするとかなんとか......

 情報を保ったまま存在する次元を一つ下げるだけだから神格が落ちることは無いとか、なんかよく分かんないけど居場所が変わるだけで大きな変化は無いっぽい。

 

 こいつずっと枕詞に「なんか」って付けてんな。バカがよ......

 

「ある日を境に一部生徒の神格が存在する次元が一気に落ちる現象が確認されまして。あくまで推測にはなりますが、その日を境にしてループが始まったと考えられるかと」

"なるほどねぇ......で、チトセとはどう関わりがあるのさ。これ何回目?"

「これは失礼を......先生に理解できるよう説明するのであれば、この程度の寄り道は許容して頂かなければ───」

"どういう意味だコラ"

 

 気を取り直して......と一息置き、お冷を流し込む。

 そういえばこの人普通に水も酒も飲んでるし焼き鳥も食ってたな。どうなってんだよその口。

 

「さて、ここからが本題になります」

"前座と言うには割とボリュームのある内容だった気がするけど......"

「それでは、チトセ嬢の正体と予想される現象とは何であるかについてお話しましょう。

 存在の可能性が提唱されたのはループ説が唱えられてからおよそ一か月後、チトセ嬢がゲマトリアに入る少し前になります」

 

 その現象の名は───

 

「───聖者の行進(When the Mistaken Go Marching In)。我々はそう呼んでいます」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「先程述べた通り、テラー化した生徒も存在する次元を落とすことで疑似的に巻き戻すことは可能です。

 ですが、その全てが再利用される訳ではありません。神格に深く刻み込まれた絶望、祈り───次のループに持ち越されることも無く、誰にも届かない声。

 神格の抜け殻、恐怖の残滓......それらは切り捨てられ、キヴォトスに影響を与えぬよう「混沌の領域」という特異な空間に隔離され、澱として沈殿していったのです」

"......それは、どうなるの?"

「ある程度の試行でループを抜け出すことが出来れば、この澱が悪影響を齎すことはありません。

 ですがもし、その澱が「混沌の領域」を満たしてしまえば───キヴォトスは未曽有の大災害に見舞われ、表現を選ばないのであれば"ゲームオーバー"となるでしょう」

 

 混沌の領域とキヴォトスに直接的な繋がりは無く、時間軸や次元単位で断絶が存在している。

 それでも、幾千或いは幾万の試行の末にその断絶すら打ち砕くだけの澱が蓄積してしまえば───もう終わりなのだと。

 

「ですが、それすらも予期されていたのです。言うなれば箱舟(キヴォトス)の自動救済機構、この世界線における最後のチャンスなのですよ」

"......どういうこと?"

「完全に詰みであった状況を逆手に取り最後にして最大のチャンスを生み出す逆転の発想!堆積しキヴォトスへ氾濫する澱へテクストを与え単一の存在に凝縮し、この行き詰まった世界に突破口を開く存在を作り出す!

 ......我々はキヴォトスの破壊という結末を予期した段階で思索を止めてしまいましたが、いやはやここまで大胆な策を講じるとは───!!」

 

 なんか変なスイッチ入っちゃった......

 ってことはつまり、チトセがその自動救済機構ってことなの?

 

 ───じゃあ、チトセの人格はどこから来たの?

 

「......とはいえ、このキヴォトスに顕現した初期のチトセ嬢に与えられたのは最低限のテクストのみ。

 連邦生徒会長から名を受け取る前であり、私と共に"西水チトセ"という名を作る前───以前の名すら忘れ、その場から動く事すらできない地縛霊のような状態でしたが......」

"ガチ?その状態のチトセに会わなくてよかった......"

 

 間違いなく奇声を上げながら逃げ出しちゃうもん......ほんとごめん、ガチで幽霊とか無理なんだわ。

 何だろう、居るのか居ないのか分かんないあの不安定さと唐突にやる気出してくる感じが生理的に受け付けないんだよね。

 

「......と、話が逸れてしまいましたね。

 紆余曲折ありましたが今のチトセ嬢にはテクストが幾重にも塗り重ねられ、複数の名を持ち無敵にも近い状態です。

 連邦生徒会長からは〔錨を上げる者(Ankyraíron)〕、かの神聖十文字(デカグラマトン)からは第十一セフィラ〔知識(Da'at)〕の名を賜り、【喪われし声を継ぐ無冠の王】という異名すら授かった」

"アンキュライロン?ダアト?なにそれしらんこわ......"

 

 めっちゃカッコいい響きだけど全然意味が分からないよ......

 

「チトセ嬢とテクストの強度で勝負が成立するのは、恐らく暁のホルスを筆頭とした最強格の一部のみでしょう。

 ......しかし、その強さ故に明確な弱点が存在する。そのために先生をお呼びしたのです」

"......その、弱点っていうのは?"

 

 

 居住まいを正し、それを告げる。

 心のどこかでは理解していた、チトセが抱える懊悩の正体。

 

 ......突きつけられるのが、それを言葉にしてしまえば彼女がどこかに行ってしまいそうで触れられなかったそれ。

 

 

「───有り体に言ってしまえば、()()

 チトセ嬢を守り、そして縛る過去の鎖こそが最大の弱点であり......原理上は最強であるはずの彼女における、唯一のアキレス腱(致命的な急所)です」

 

 

 

 

 

 

 




伏線回収ドカモリマシマシ一丁上がり!!

次に書くかもしれないもの

  • アビドス編
  • アビドス(過去)編
  • エデン条約編の後
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