アイエエエ!?センセイ!?センセイナンデ!?   作:湊咍人

74 / 85
チトセの名前に関する小ネタについて感想で正答が出たため解説

キーボード上のアルファベットとかな入力を対応させた通称「みかか変換」を行い、並び替えることで幾つかの英単語になります

西水チトセ→にしすいちとせ→idreasp

despair(絶望)
praised(賞賛された)
aspired(大志や理想を抱く、高みを目指す)

diapers(おむつ)は知りません()


悔己

 

 ◆

 

「......チトセちゃんはさ。アビドスに戻ってくる気はないの?」

「ないですねぇ......後輩ちゃん達から見た私ってかなりヤバい人でしょうし」

「その辺りはほら、おじさんがちゃんと説明するからさ......」

「うーん......」

 

 シャーレの仕事があるとか先生を放っておけないとか色々と言い訳は思いつくが、言い訳と形容している時点で建前に過ぎない。

 

 俺はもう、ホシノの傍に居るべき存在ではないのだから。

 俺が西水チトセとしてできる事はまだ多くあるが───彼女に対してはもう、十分だ。

 

 

 

 ここから先の未来、ホシノの人生に()()()()()のだから。

 

 

 

 別れは寂しいが───これもまた、運命というものだ。

 出番が終われば舞台を降りるのも役者の仕事なのだから。

 

 それに───

 

「ま、色々と手続きも面倒ですしこのままで。それにこうして毎日のように顔を合わせる訳ですし、わざわざ学籍を復活させる必要もなくないですか?」

「......うん、そうだよね。ごめんね、変な事聞いちゃって」

「いやいやこちらこそ。気を遣ってもらったのに申し訳ない......」

 

 ───アビドスの長として後輩を守り。大好きな先輩と共に仕事をこなし。

 大切な母校を守りつつも、こうして羽を伸ばして多くの生徒と関わり......ずっと、自然な笑顔が増えた。

 

 その姿をこうして見ることが出来た。

 たったそれだけで俺は───

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「......なぜ本気で抵抗しなかった、西水チトセ。

 お前の実力はこんなものではないはずだ。少なくとも報告では───」

「買いかぶりすぎですよ。それにほら、今の私って連戦に次ぐ連戦でボロボロですし」

「......」

 

 ......疲れた。

 

 もう取り繕うのも億劫で、表情を作るのも面倒で。

 両手を後ろ手に拘束された状態で、そのまま顔を伏せて休む。

 

 

 

 どうしてこうなった?

 

 

 

 原因なんていくつでも思い至る。

 

 倫理観に欠けた実験?ホシノに対して積み重ねた嘘と欺瞞?

 数え上げればキリが無いが、一つだけ確信を持って言えることがある。

 

 ......俺は、()()間違えた。それだけ。

 もうどうなってもいいと。そんな甘えた考えが脳裏を過るが───

 

(いや、まだアビドスの問題は解決していない。それにこの時期......もうすぐ()()が来る)

 

 ───まだ立ち止まるな。立ち止まるのは全ての役目を果たした時でいい。

 

 思考を止めるな、頭を回し続けろ。

 まだ俺にはやらなければならない事がある。

 

 ......しかし、先生か。

 

 思い出すのは一年にも満たない忙しない日々。

 己の無力と、生きる意味を同時に教わった......かけがえのない時間。

 

 何者にもなれなかった俺に与えられた奇跡と───それに縋った愚者の末路。

 望まれるがままに、望むがままに無計画に手を差し出し続けてきた結果。

 

(どんな先生か知らないが、()()()()()()()()()()()()()()())

 

 救った気になって勝手に満足して、責任も果たさずに一人で抱え落ちるような馬鹿は───たとえ死んでも直らないのだから。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「......おかえり、チトセちゃん」

「ただいま戻りました。───ヒナさんから聞いたんですか?」

 

 校門を潜り抜けた先。

 グラウンドの中央に一人佇むホシノの姿。

 

 ザラザラとした風が砂を巻き上げ、視界を遮る。

 霞んだ彼女の姿はどこか不安定で───俺との距離は、まるで精神的な断裂を目前に控えた関係性を示しているかのようで。

 

 ......あと一歩を踏み込むことが、できなかった。

 

「───言ってよ」

「......」

「勘違いだって、誤解だって言ってよ!!たった一言そう言ってくれれば私は、最後まで付き合うから!!」

「......私は───」

「ねえ、()()も本当は皆が言ってるほど酷い事じゃないんだよね!?チトセはそんなこと絶対に───」

「ホシノさん」

「......ねぇ、なんで───なんで否定しないの?」

「......ヒナさんやナギサさんが言っていることが、事実だからです」

 

 10回に及ぶ過負荷実験の実施。意図しない形とはいえ逃走中にやむをえず実施した11回目。

 

 申し開きのしようもなく、否定する余地もなく。

 それら全ては俺が行った。俺の意志で、彼女たちに向けてアツィルトの光を浴びせた。

 

 その選択が正解であったとは思えない。だが俺にとって唯一解であった。

 

 結果論とはいえこの実験を行わなければ俺は、神秘と恐怖に対し未知のままであり周囲の人間に致命的な害を及ぼす可能性が高かった。

 今後発生しうる一連の出来事において活動するためにも、それ以前に自身やアビドスの二人を守るためにも必要だった。

 

 

 

 ()()()()()

 

 

 

 いかに安全性を確保しても、与える苦痛をゼロに近付けたとしても。

 俺がやったことは結局───

 

「......私は非人道的な人体実験を繰り返し行い、敵対した治安維持部隊を攻撃しここまで逃げてきました。

 これは嘘偽りのない事実です」

「なんで......なんでそんな事したの!!どうして───どうして()()()私には何も言ってくれないの!!」

「それは───」

 

 銃口を向けられ、反射的にこちらも構えてしまう。

 

 常に身を投じてきた修羅場と、積み重ねてきた訓練の成果は明瞭だ。数年前まで銃など握ったことのない人間であった俺ですら───こうして意図せず脳の思考回路が戦闘状態に切り替わってしまうのだから。

 

「なんで───なんでッ!!」

「......ごめんなさい。話せません」

「───ッ!!」

 

 

 ......そこから先は、よく覚えてない。

 ただ気付けば俺は仰向けに寝転んでいて、ホシノは膝をついて肩で息をしていた。

 

「チトセ嬢、お迎えに上がりました」

「......黒服か」

「......ッ、どうしてここに───まさかっ!!」

 

 こちらは起き上がることもできず、ほんの少し顔を傾けて黒服の姿を捉える事しかできない。

 一方ホシノは特大の恐怖が込められた弾丸が直撃し、一時的に行動不能になっているだけ。

 

 ───あと十数秒あれば正常な状態に戻り、それで全て終わるはずだったのに。

 

「あなたの意志に関わらず───ここで"暁のホルス"に敗北し囚われるというのは計画から外れるかと思いまして」

「......ああ、そうだな」

「くっ......」

 

 黒服に抱きかかえられ、ゲートを潜る寸前。

 ───初めて見た、ホシノさんの頬を伝う雫が目に焼き付いて。

 

(......ああ、俺はまた)

 

 また俺は間違えてしまったのだと。選択を誤り彼女を悲しませてしまったのだと。

 それを、紛れも無い事実として否応も無く叩きつけられた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「......チトセ」

「そんな怖い顔して、どうしたんですか───ヒナさん?」

「抵抗しないで。ここには風紀委員と正義実現委員の主力が揃ってる」

「......ホシノさんですか?それとも逃げた子からのタレコミですか?」

「両方よ」

「さいですか......」

 

 過負荷実験を行っていた研究所が何者かに侵入されたのは一昨日の事。監視カメラの類は設置していなかったものの、侵入者の正体は容易に把握できた。

 脱出時の戦闘能力、被検体となっていた生徒一人を連れて悠々と撤退に成功したこと。

 

 アビドスの辺境という特異極まる場所に足を運ぶ存在となれば、該当者は自ずと一人に絞られる。

 

 追撃は可能だった。

 ヘリコプターによる対地攻撃、黒服による転移。

 

 手段はいくらでもあったが......少なくとも被検体となった生徒だけは連れ戻すことが出来た筈だ。

 ホシノ相手にそういった手段は通じないが、いくらでも言い訳の余地はあった筈だ。

 

 だが───有り体に言えば、ショックだった。

 一生明かすつもりはなかった。証拠も残さず必要なデータが集まれば研究所を丸ごと砂の海に沈め、実験の事実は墓まで持ち帰るつもりだった。

 

 ......少なくとも、ホシノにだけは露呈したくはなかった。

 

「......悪いんですけど、ここで捕まる訳にはいかないんですよね」

「そう......痛い目に遭わないと分からないみたいね」

「ええ、まさに今思い知ったところですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘は随分と長引いた。

 

 俺の行動パターンを熟知し、ゲヘナとトリニティが有する治安維持部隊の主力が多数参戦しヒナが指示を出し追撃し続ける。

 

 マシロ、イチカ、ハスミ、イオリ、チナツ。

 顔見知りを含め何十人も、あるいは何百人と行動不能にしても───まだ追撃の手は緩まらない。

 

 故に、油断した。数十分にも及ぶ戦闘の末、それに気付いた時にはもう遅すぎた。

 

(───まずい、ビルが───!!)

 

 地形上、攻撃を躱しつつ分断された相手を叩きやすいポイント。

 そこに聳え立つビルの基礎に当たる部分が流れ弾と戦闘の余波により、目の前で圧壊を始める。

 

 ビルに致命的な損傷が与えられ、対処不可能な状態になり倒れるまであと数秒といったところか。

 そこから先で何をしても焼け石に水。側面から回り込んでくる生徒を下敷きにし───状況次第では死者すら出かねない。

 

 今の俺にできることは一つ。

 ビルの崩落を、()()()()()()()()()()()

 

「......頼むッ!!恐怖再現(Terror Reproduce)、"不運"ッ!!

 ───()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 大型回転式拳銃(トーラス・レイジングブル)にありったけの恐怖を注ぎ込み、建築時の想定を遥かに超える圧力を受け今まさに圧壊せんとする柱に全弾叩き込む。

 

 ......ごっそりと神秘が持っていかれる感覚。紛れもなく"不運"が発動した証拠であった。

 これにより死者が出ることはない。生徒であれば命さえ落とさなければいずれ元通りに治る可能性が高く、そうでなくとも俺が裏からこっそり手回しして完璧に治療する。

 

 だが───

 

「───チトセ、あなた今、ビルを......」

「───ぁ」

 

 反対側から回り込み、銃声の発生源に駆け付けた彼女。

 

 つい先程まで俺を捕らえて離さなかった射線は、力なく地面を指し示していた。

 

「......ごめんなさい、ヒナさん」

「───待って、待って......チトセッ!!」

 

 ......結局、ビルの下敷きになった四名の生徒は生還し、俺の手回しを必要とすることはなかった。

 だがそれ以上に───何人もの生徒に治らない傷を植え付けたのは、間違いなく俺自身の手によるものだった。 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「......ホシノさんッ!!」

「分かってるッ!!」

 

 たのしいバナナとり型発信機。

 

 土曜日の昼、賞金首を狩り生徒会室に戻って涼んでいた俺達の耳に届いたのは、緊急時にのみ用いるそれが二つ同時にけたたましく鳴り響く音。

 

 ───即ち、ユメ先輩からの救難信号。

 

「場所は───クソッ、何キロあるんだこれ!!直線距離で30kmは越えてる!!」

「そんな───」

「おい黒服!!この後なら()()()()()()()()()()()()とっととゲート開け!!」

「クックック......承知いたしました」

「......黒服!?」

 

 手段を選んでいる場合ではない。

 

 昨夜はそのまま家に帰っており通話した後に寝た筈。

 遭難にしては距離が短いしモモトークでいいはず。水を持っていないにしても十分に普通の連絡手段で間に合うはず。

 

 ユメ先輩がどんな意図でそんな場所に居るのかも、なぜ救難信号を出すほどの危機に瀕しているのかも分からないが───やるべきことは一つ。

 

「ホシノさん、早くッ!!」

「───分かった、チトセを信じるよ」

 

 ゲートを抜けた先、砂で覆われた元オアシス近辺。

 

 そこに、()が居た。

 

「ホシノちゃーん!!チトセちゃーん!!たすけてー!!!」

「ユメ先輩ッ!!私たちの後ろに!!」

(クソッ、やはりビナーか!!)

 

 

 まるで世界の強制力だ。

 

 

 俺がどれだけ手を尽くそうともユメ先輩は幾度も危険な目に遭う。入念な準備と対策により大事に至ったことはないが───ついにこの日が来てしまった。

 

 勝てるか?俺とホシノとユメ先輩の、たった三人で。先生の指揮も無い、補給もなく地の利があちらにある状況で。

 ......いや、そもそも勝つ必要なんて無いんじゃないか?俺が殿(しんがり)を務めれば───

 

「チトセ、あの機械について何か知ってる!?」

「......第三セフィラ、理解(BINAH)の名を冠したデカグラマトンの預言者です。

 アビドスの砂漠化が悪化した原因であり、その戦闘能力は───「砂漠化が悪化した原因?」───あっはい。そうなんですけど......まさか」

「───殺るよ、チトセちゃん」

「正気ですかあんた!?」

「......ここでそのビナーって奴を仕留めたらさぁ!!」

 

 その横顔に滲み出るのは絶望でも怒りでもない。寧ろその正反対───希望に満ち溢れた、そのホルスの瞳が違いを痛感する静観の理解者を射抜く。

 

「アビドスも、少しは復興できるかもしれないでしょ!?」

「......(頭を抱える)」

「それに───」

「それに?」

 

 屈託のない笑みで、さもそれが当然であるかのように語り掛ける。

 その些細な奇跡を噛み締めるように、無垢な信頼を以て。

 

「───()()()()()()()、何だってできる気がするんだ!!」

「それ私も含まれちゃってる!?戦闘じゃあんまり役に立てないけど......」

「先輩は後ろで応援しててください(辛辣)」

「やっぱりぃ!?」

「......しゃーねぇ、本気(ガチ)でやったりますか!!」

 

 

 

 

 

 

 結論から言えば俺たちはビナーを撃破した。頑張れば意外と何とかなるものだ。

 勝利の代償も無くはないが、まあ無視できる範疇だ。

 

「......無視できる範疇、ですか。

 あなたの西水チトセという名前。生徒を模したテクストに綻びを生じさせるという危険極まりない行為により耐用時間は大きく縮まりましたがね」

 

 実験どころか仮説段階であった、意図してテクストに一時的な機能不全を発生させ存在を保ったまま恐怖を扱う技術。

 ......テクストに穴が開いて内面の恐怖が露出している状態、恐怖露出(Terror Exposure)とでも呼ぶべきか。

 

「まあそう言うな。実験段階だったがこれ無しじゃ勝負が決まらなかったんだからさ」

「......あと一年。それが現時点での、あなたの寿()()です」

「思ったよりも長いな......てかそんな事はどうでもいいんだよ、今回の経験を活かせばテクストを破壊せずに恐怖の力を扱えるかもしれないんだ!!」

「それは大変興味深いですが......」

 

 あと一年。

 

 春まで耐えれば先生が来る。

 アビドスの問題は先生の存在だけで解決できるところまで片付けているから、後は発生する些細な問題を逐次潰していくだけ。

 

 最大の鬼門であるエデン条約編を乗り越えさえすれば何とかなるはずだ。

 ......プレナパテスに類する存在が来なければ、という枕詞が付くことになるが。

 

(......いや、ベアトリーチェを抑えておけば色彩の襲来そのものも防げるかもしれない。その辺も努力次第だな)

 

 きっと何とかなるはずだ。

 ホシノとユメ先輩,それにノノミちゃんとシロコちゃんも居る。

 

 ───だから俺は、俺にできる事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




水着ナギサほんまに......この同人誌どこで買えますか?
公式......!?!?!?!?!?

次に書くかもしれないもの

  • アビドス編
  • アビドス(過去)編
  • エデン条約編の後
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。