簡単な指揮であれば問題ないものの、ある程度厳しかったり規模が大きい戦闘であれば白上絲邦は躊躇いなく大人のカードを切り一時的に該当の脳領域を代替し指揮を行いました
末期には自身の寿命が少ない事を悟り、キヴォトスに存在する潜在的な脅威を全力で取り除いたためデカグラマトンを始めとする幾つかの問題は発生前に潰されています
ちなみに調印式にてサオリから何発も撃ち込まれたのは、空間把握能力の欠落により素早く退避できなかった事が原因です
原作と比較し相対距離が近すぎる故に合計4発の銃弾を受け、防弾チョッキを着用していなければその場で死亡していました
地形や建造物の構造を数値として暗記し行動するので一度でも訪れる事があればある程度自力で動けるものの、完全に初見だった古聖堂が瓦礫と化してしまった上にアロナは充電切れで落ちてサポートも無い状況では、ほとんど目隠しと同レベルです
「......ずっと、聞きたかったことがあったんだ」
永劫にも思える刹那。
行き場を失った左手がようやく時を取り戻し、半ば反射的に距離を取ろうとした動きを察してか。
顔を伏せたまま彼女は滔々と問う。
「君がシャーレに遺した疑似人格は、
何度も......何度も対話する中でようやく気付いたんだけどね」
「......分からない。あれは間違いなく俺と同質の思考を行うはずだ」
「そうだよね───その違いに、君は気付かないまま死んじゃったから」
大人のカードの過剰行使が俺の体を本格的に破壊し始めた頃、残された時間の中でキヴォトス各地に存在する問題の原因となり得る物を徹底的に解決しながら"それ"の準備を行っていた。
俺の死後───キヴォトスを守るためのシステムを。
ミレニアムが誇る二人の天才の力を借りて作り上げた疑似人格、損壊を免れた身体の一部を用いた生体認証システムの維持。
各校から選出された代表者と完全な中立を保つ第三者システムにより運営される「新しいシャーレ」は想定しうる限りの不確定要素を排除したはずだった。
しかし......疑似人格の不具合が存在したとなれば、話は別だ。
今ここに"あの"ホシノの記憶を持ったホシノが居るというのは、つまり───
「......大丈夫、君の疑似人格とシャーレのシステムは完璧だったよ。最初はどうなる事かと思ったけど、君が為した奇跡とその最期は皆の心にしっかり刻まれていた。
"先生が守ってくれた日常を私も守りたい"って、どんどん生徒が集まってさ......」
卒業した後の記憶はないからその先は分からないんだけどね、と。
そんな言葉とは裏腹に、未来を疑うような声色ではなく───もう交わることのないそれへと思いを馳せるように。
「ホシノ、教えてくれ......俺は一体何を間違えたんだ?」
「......君の唯一の誤算は、
君を喪った後のキヴォトスを見て、疑似人格ですら本来の方針をほんの少しだけど曲げる程度に───君は想われていたのにさ」
「それは......」
俺があいつらを想うように、あいつらも俺を想ってくれていたというのなら。
俺はきっと、いや間違いなく───与える側ではなく、奪う側になってしまった。
青春の一項に紛れ込んだ異物。好き勝手に振舞って、大人を気取って何もかもに首を突っ込んで、挙句の果てにその後に続く物語に影を落としただけ。
教え導く者として───先生として俺は不適格だった。少なくとも俺は、ハッピーエンドの前提条件をあいつらから奪ってしまった。
「すまない......俺の言葉は、お前たちにとって呪いになってしまった」
「呪いでも何でもよかったんだよ───君が残してくれたものなら、何でも」
「......本当に、苦労を掛けたな」
身長差から、顔を伏せたホシノの表情は全く読み取れない。
ただその感情は───震える声に乗せた想いだけは、痛いほど俺の鼓膜を揺さぶる。
「......疑似人格と君の違いは
多くの生徒を残して死んでしまったどこかの誰かを"大馬鹿野郎"って罵りながら、本人は絶対に口にしない過去や思いを暴露する程度にはね」
「そりゃ参ったな......お前らの事が大好きだってことがバレちまう」
「そんなこと最初から分かってるよ、もう......」
だからさ、と。
彼女は顔を上げた。再び顔を伏せ、胸元に頭を埋めるまでの刹那。
並々と湛えた涙が頬を伝っていた。溢れ出した想いと涙でくしゃくしゃになったその表情を目にするのは───二度目のことだった。
いや、きっとそれよりもずっと沢山の俺が知り得ない涙を流してきたのだろう。
これまでも。そしてこれからも。
「......分からないよ。なんで、なんでまた同じことをするの?どうして一緒に生きていけないの?
助けて欲しいだなんて、救ってほしいだなんて我儘言わないから!!ただ、傍に居てくれるだけで良かったのに───ッ!!」
「ホシノ......」
堰を切ったように溢れ出すその想いは、俺が全て受け止めるべきものだったはずなのに。
大人として、先生としてだとかの話じゃない。一人の人間として、俺は彼女に応えるべきだったのに。
「また最後まで格好つけて死んでいくの!?用意周到に自分が死ぬことを前提として生きてきたっていうの!?
また君だけが問題ごと消えて終わりだなんて、こんな───」
ついに両手で顔を覆った彼女は、絞り出すようにそれを口にした。
それは答えだった。
愚かで、独りよがりで、身勝手な俺に与えられた結末。
俺の行いは全て───彼女たちを間接的に傷つけるだけの自己満足に過ぎなかった。
「───こんな結末じゃ、君はいつまで経っても救われない......」
「......すまない」
馬鹿は死んでも治らないと言うが、二度死んでも無駄だった俺は真正の愚か者に違いない。
もう、時間は残されていない。
何かを遺すには遅すぎた。或いはとうの前に全て終わっていた。
今の俺にできることなんて、また呪いを刻むことだけだ。
ああ、でも───そういえば俺たちは。
「......君に、笑っていて欲しかっただけなんだ」
「───え?」
───ずっと、呪い合っていたのかもしれない。
「いつも、ずっと───君に笑っていて欲しかったんだ。
......できれば、俺の傍で」
「......なに、それ」
本当に酷い話だ。
「馬鹿みたいだよな。ああ、俺は馬鹿だったよ。お前に俺ができる事を探していたら、気付いた頃には手が届かない場所に居たんだ。
───もう、戻れなくなっていたんだ」
「ばか......本当に、ばかだよ君は。私はずっと、一緒に居てくれるだけでよかったのに......」
一緒に居たいと。傍で笑っていて欲しいと願っておきながら勝手に遠くへ行って戻れなくなって、挙句に傷つけて。
そんな俺なら、いっそ最初から居なければ傷つけずに済んだのに。
「馬鹿で、ごめん。傷つけてごめん。───傍に居てやれなくて、ごめん」
「遅いよ......ばか」
「......ホシノ」
どうせ呪うなら。触れようと手を伸ばしても傷つける事しか叶わないのであれば。
せめて君に忘れられない傷でありたいと願ってもいいだろうか。
───君に、覚えていて欲しいと願ってもいいのだろうか。
「───姿が変わっても、名前を忘れても......全部失っても、きっとまた会いに行くから。
だから───」
「......うん」
たったそれだけの話だったんだ。
論理的な建前も、露悪的な目的も自分の行いを言語化して説明するために張り付けただけのハリボテだ。
俺はずっと、それだけを望んでいた。見て見ぬふりをしていた、子供じみた我儘こそが俺の本当の願いだった。
「───その時はまた傍に居てもいいかな?俺の傍で......笑っていてくれるかな?」
「......ッ!!」
ふと、頬を伝うそれに気が付く。
ただ他人事のように、この体に涙を流す機能があった事に驚き───そして無造作に拭い取った。
「......あれ、おかしいな」
しかし、拭えども拭えども。
とうの昔に涸れ果てたと思い込んでいたそれは止まることを知らず。
「......なんだか、締まらない終わり方になっちまったな。
最期くらいは笑ってお別れがしたかったんだが───っと」
「───」
ぽすん、と。
小さな───抱き締めればこちらの腕が余る程度に細い体がこちらの胸に収まる。
囁くように、ぽつりと零したそれ。
「いかないで......」
「......ごめんな」
ホシノをしっかりと抱き寄せたのは、これが初めてのことだった。
キヴォトス最強の肩書を背負うにはあまりにも華奢で、それでいて俺よりも少しだけ温かい体を両腕に収める。
すすり泣く声も、肩の震えも収まるまで抱き締め続ける事すら叶わない。
それが、俺に与えられた最後の罰らしい。
「───時間だ」
「ぁ───」
腰に回された両腕をそっと解き、一歩分の距離を空ける。
......そうしないと、顔を見てお別れできないから。
「───
奇跡は終わる。
己の存在が急速に希釈されていくのを感じる。
この後に俺がどうなるかは分からない。ただ単純に消滅するのか、はたまたまたどこかで再び生を受けるのか。
行いを考えれば地獄行きも妥当だろうが、と益体も無い考えばかりが今際の際だというのに浮かんでは消えてゆく。
偶然にも水面に生まれた泡沫が弾けるような、そんな必然とも呼べる結末は───
"───待って!!"
思わぬ闖入者と、その右手に掲げられた一枚のカードによって引き延ばされた。
ホシノ→白上絲邦への二人称は「先生」もしくは「君」です(こだわりポイント)
ホシノから「君」と呼ばれることがどれだけの意味を持つのかチトセは全く理解していません
次に書くかもしれないもの
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アビドス編
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アビドス(過去)編
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エデン条約編の後