アイエエエ!?センセイ!?センセイナンデ!?   作:湊咍人

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本編最終話になります


あまねく奇跡の始発点

 

「......なるほどな、未来の俺を助っ人として呼び出すとは。

 失敗しても"呼び出すこと"そのものが不可能だったというだけでリスクは無し、成功すれば───」

『───近い未来における生存を証明し、ここで死ぬという未来は否定される。先生にしては冴えたやり方だ』

"(......黒服とKeyに相談したのは黙っておこう)"

 

 おそらくというかほぼ確実に黒服とKeyの意見を取り入れたのだろうが、ここまでのリスクを背負う案をあの二人が提示するとは思えない。

 ......大人のカードの使用、それを前提とした計画など。

 

 となれば、それすら選択肢に含めた上で───覚悟を決めた上でこの場に居るのだろう。

 ここまでくれば認めるほかない。先生は間違いなく、先生として俺の想定を上回った。

 

『じゃ、サクっと終わらせるぞ』

「何をするのか分からんが俺の事だ、きっとロクでもないが有効な方法があるんだろう」

『よく分かってるじゃないか、流石俺だ』

「褒めるなよ、照れちまうだろ」

『「......HAHAHA!!」』

 

 ......どうやら、眩く光り輝いて全て丸く収まるみたいな甘ったれたハッピーエンドは用意されていないようだ。

 少なくともあとひと悶着、いやその程度で終わるのか?少なくとも俺が過去の俺に優しくする理由は微塵も無いが。

 

『っと......先に言っておかないとな』

「やっぱり何かあるのか......その顔、あからさまにロクなことを考えていない顔だな」

『鏡を見ながら悪だくみをしたことでもあるのか?これは先輩からの"忠告"だ』

「......一応聞いておこうか」

『ここから先は言葉を選んだ方が良い。()()はそれなりにご立腹だ』

「彼女......?」

 

 始めるぞ、と。

 

 目の前の"俺"は異能を発動する。 

 恐怖の介在は確認できない。純粋に神秘を用いて再現されたその能力の名は───

 

神秘再現(Mysteries Reproduce)───"偏在"」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......ここは」

 

 どこからともなく陽の光が差し込む電車。

 

 窓の外に広がるのは暁とも黄昏とも思える紫霞(しか)色の空と、それを反射する鏡面の水面。

 規則的に伝わる振動と穏やかな揺れが無ければ、動いているのかすら分からないほどにどこまでも広がっていた。

 

「お久しぶりですね。先生」

「......やっぱり、あんたか」

 

 あの時と同じ席で、同じ傷を負い。

 ───あの時とは違い、穏やかでありながらもどこか悲し気な瞳と声色で。

 

「ずっと、ずっと待っていました」

「......随分と長い間待たせちまったみたいだな」

「いいんです......必ず、ここに戻ってきてくれるって信じていましたから───」

 

 彼女の名前を、俺は知らない。

 俺が彼女を呼ぶ時には必然的に役職名で呼ぶことになる。

 

 キヴォトスにおいて名とは本質に直結する。

 

 俺のAnkyraíron(錨を上げる者)という名と同様に、呼ばれることでその本質は規定される。

 であれば彼女は個人ではなく、その役職に就き"超人"としての力を振るう存在でしかない。

 

 求められる仕事を果たす能力を持つ存在であれば誰でもいいのだ。少なくとも彼女と面識のある生徒以外はそう考えていただろう。

 

 ......彼女もまた、一人の生徒だというのに。

 

「......連邦生徒会長」

 

 そう彼女を呼ぶと、まるで俺は君を見ていないようで───かといってその呼称を拒むのは君が命を賭して果たそうとした役目を、俺に託したその願いすらも軽んじているようで。

 

 それを悲しい事だと、そう思い悩むことすら君への侮蔑でしかないと分かっていても考えてしまう。

 いつの日にか───君を、この列車から連れ出したいだなんて。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「......未来の俺は恐怖ではなく神秘を使っていた。箱舟の神(キヴォトス*テラー)という器は反転したはずだが、その上に露出した俺の存在が維持されていたのは何故なんだ?」

「あちらの先生───いえ、もう先生ではありませんね。西水チトセさんは先生としての人格を核としてその上から生徒のテクストを付加したんです」

「なるほどな。俺から諸々のテクストを引き剥がすんじゃなく、俺を構成する要素だけ回収したのか」

「理解が早くて助かります」

 

 俺を構成する要素は本来、古いものほど中心にある。

 

 中心にあるのが先生であった白上絲邦であり、その上に箱舟の神(キヴォトス*テラー)という器が形成されキヴォトスへと顕現した。

 後にAnkyraíron(錨を上げる者)や西水チトセといったテクストが重ねがけされ、そしてこの度全てが反転した。

 

 封印されることで中心核として安定していた"先生"のテクストを持つ白上絲邦の名前が表出することで、さながら靴下を裏返すように古いテクストから順に表層へと顔を出したという訳だ。

 

 表層に位置する白上絲邦の人格はまだしも西水チトセのテクストは回収不可能にも思えるが、あれはリソースさえあれば再現できる人工のテクストだ。

 そもそも───

 

箱舟の神(キヴォトス*テラー)という器は一応まだ残っている。異能の再現が可能なのはそういったカラクリか」

「その通りです。やっぱりあなたは変わりませんね、先生」

「いや、変わったよ。というか今後も変わっていかないとあいつらに合わせる顔が無い」

 

 大人のカードによって維持されていたのは他のテクストではなく恐怖を湛えていた器の方。それはあくまで器で、テクストの有無に関わらず中身が違っても存在できる。

 彼女の手によって作り出されたものであれば修復も改変もある程度可能だろう。或いは西水チトセというテクストも作り直したのではなく再利用されたものかもしれない。

 

 ......と、そこまで思索を巡らせた辺りで限界が来た。彼女の無言の圧に耐えかねて両手を上げる。

 

「......分かった。意図して話を逸らそうとしていたのは謝る」

「やっぱり......鈍感を装ってなんでも丸く収めようとすると、いつか女の子に刺されちゃいますよ」

「耳が痛いな」

 

 小首を傾げて浮かべた悲し気な笑みを前にしていつまでも煙に巻いているわけにもいかない。

 彼女もまた、俺が向き合うべき相手の一人なのだから。

 

「君は───どちらの連邦生徒会長なんだ?」

()()()()です。そちらの私はもう、役目を果たし終えましたから」

「そうか......」

 

 俺の選択は言うなれば、80点以上取れないが赤点は取らずに済む道を最初に選んだルートだ。

 失点を全て自分が背負えばいいと。そんな適当な計算と無駄に周到な準備で誰にも相談せずに突き進んだ結果がこれだ。

 

(......振り返ってみれば、リオに対して何か言える立場じゃなかったな)

 

 年齢も変わらないくせに偉そうに首を突っ込んで事態を掻きまわしただけ。解決できたのだって殆ど結果論で、自力で何とか出来る見込みがあった事例なんて片手で数えられるほどだった。

 

()()()()は、比較的上手くやれたほうだと思ってた......昨日までは」

「───今はどうお考えなのですか?」

「いいとこ65点くらいだな。俺はどうやら反省が苦手らしい」

「......私があなたにお願いしたことは、完璧に達成してくださりました。今後発生しうる問題への対応能力という意味では、それ以上に。

 ですが───」

 

 優しい彼女の事だ。俺を選んだのはキヴォトスを救うという目的の為だけではないだろうと思ってはいた。

 だが───こうして顔を合わせれば否が応でも己の過ちを直視せざるをえない。

 

「"あちら"の私は、酷く悲しんでいました。あなたの優しさはあまりにも不器用すぎたから......」

「......」

「こんなことは言いたくはありませんが、でもきっと誰かが言葉にして伝えないとあなたは気付けない」

「───頼む、言ってくれ。君にしか頼めない」

「おそらくあなたは───」

 

 ───あなた自身を、"要素"として捉えてしまっている───

 

「一定の仕事を行い、他者に働きかけ、存在の有無で状況を動かす。

 あなたは常に自身を俯瞰して観測しています。まるで───その場にあなたという存在の本質は居ないかのように」

「自分を勘定に入れなかったことが、俺の間違いだったのか?」

「いいえ、あなたはそもそもあなた自身を周囲の人と同じ人間として数えてすらいません。

 ずっと疑問だったんです。あなたがどうしてそこまで自身に無頓着で無関心なのか」

「それは───」

 

 俺の生い立ちによるものもあるだろう。生来の性分もまたあるだろう。

 だがそれらはあくまできっかけで、一番大きな理由はきっと───

 

「ようやく分かったんです。

 あなたの本質はあなたの中に無いのだと。あなたにとって一番大切なものは───」

「───ここ(キヴォトス)にある。そうだろ?」

「......だから私からはこれ以上は何も言いません。きっとあちらに戻ったら、先生やホシノさんから"お話"があるでしょうから」

「そりゃ参ったな。今の先生を口で丸め込める自信が無い」

「もう......他の子より先にここで私が刺しちゃいますよ」

 

 つんつんと口にしながら腕をつつかれる。

 ......その指先は注意深く観察しなくとも見て取れるほどに、弱々しく震えていた。

 

 車両が微かに揺れる。ふと連結部に目を向けるとその先は光に包まれていて───向こう側には、見慣れた人影がいくつかあった。

 どうやら迎えが来たらしい。もう少し言葉を交わしたかったのだが、これ以上言葉にしてもあやふやになってしまう気がした。

 

 本当に伝えるべき言葉は、きっとシンプルなはずだ。

 

「また来るよ。今度はもう少し真人間になって、君を───」

「───待ってます。ずっと......ずっと」

「......ありがとう」

 

 履き慣れた革靴の足音は一人分だけ。君は変わらず、去り行く俺を穏やかに見つめている。

 君を連れ出す機会は前回の俺には与えられなかったが、次こそは───

 

「───っと。聞き忘れていたことがあった」

「え、この流れでですか?」

「いやその......このキヴォトスに顕現した時、俺は一つもテクストを持たない箱舟の神(キヴォトス*テラー)でしかなかったろ?先生としてのテクストも名前が無くて機能不全状態だったし。

 ───なんで俺を信じられたんだ?君との会話も覚えていない俺が約束を守るだなんて」

「あなたという人は、本当に......」

 

 なぜか額に手を当てた彼女は恨みがましい目を向け、口を尖らせて連結部へと向かえと俺を手で促す。

 未来の俺が言っていたご立腹というのはこの事だったのか。

 

「......先生とホシノさんにしっかりお説教を受けてください」

「なんでさ......」

「次にこうしてお会いするときに同じような事を口にしないためです」

 

 怒っていますよ!と全身で示す彼女を前に俺にできるのは両手を上げて降参の意を示すだけ。

 何故怒られているか分からないまま謝ってもロクな目に遭わない事は身を以て学んだのだ。

 

「───何故だか俺の別れってのはことごとく締まらないものになるな」

「あなたに理由がある気がするんですけど......」

「なんのことやら......さてと───」

 

 さよならではない別れというのも随分と久しぶりだ。

 送る側でもなく去る側でもなく、送り出される側というのもまた。

 

 だから───君に伝えるのは、これだけでいい。

 

「───行ってくる」

「......はい」

 

 (白上絲邦)はこれからも生きていくことになるだろう。

 何か月、あるいは何年───それ以上生きることになるのなら身の振り方を考えなければならないが。

 

 だが、先生としての俺はここで終わりだ。名前を思い出した結果として得られたのは、輝かしい過去を取り戻す奇跡ではなく現在を受け入れる機会だった。

 それでいいのだ。人は変わっていくものなのだから。

 

 俺は俺として、どんな役割も持たない個人としてあいつらと共に生きていくのだろう。

 遠大な計画も壮大な目的も無い、一人の友人として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今までお疲れさまでした───先生」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これにて本編完結です

見切り発車で書き始めた割に81話という割と長めの内容になってしまいました
書きたいものだけ書いてきた暴走列車みたいな作品でしたが楽しんで頂けたのなら幸いです

あとは掲示板回やエピローグなどを書く予定です
ある程度時間が出来たらアビドス編や過去編なども書いてみようかなとか考えています

......普段は感想を書かないそこのあなた!!今日だけ書いてくださったら泣いて喜びますよ!!
あとまあ、そこそこ面白かったやんって方は評価とかも頂けると嬉しいです

次に書くかもしれないもの

  • アビドス編
  • アビドス(過去)編
  • エデン条約編の後
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