サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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復讐者と共に初開拓 Ⅲ

 駒王街の夜は、意外と深い闇に包まれていた。

 

 ジャンヌ・オルタが教えてくれたオカルトスポットの一つは、古い神社の裏手にある小さな森の中だった。昼間は散歩道として賑わう場所らしいが、日が落ちると人が寄りつかなくなるという。

 

「ふむ……確かに妙な気配がするわね」

 

「……本当に、こういうのもいるもんだなぁ」

 

 俺とジャンヌ・オルタは、特に気にせずに入っていく。

 

 カルデアでの日々において、このような場所での調査はかなり多く経験しており、同時に危険を察知する力も身についていた。だからこそ、ここに踏み込むことに躊躇いはなかった。

 

 木々の間を抜けると、小さな広場のような場所に出た。中央には古びた石碑が立っている。

 

「マスターちゃん」

 

「ああ」

 

 ジャンヌ・オルタが低く警告の声を上げる。俺も同時に気づいた。

 

 微かに漂う腐臭。

 

 そして──

 

「グルルル……」

 

 唸り声と共に、暗闇から一つの影が現れた。

 

 それは人間の形をしているようでいて、明らかに違っていた。

 

 四肢は歪に膨れ上がり、皮膚は腐ったように爛れている。目は血走り、口からは涎が垂れていた。

 

「……なんだこいつは?」

 

 俺は思わず呟いた。

 

「さあ? でも美味しくはなさそうね」

 

 ジャンヌ・オルタは口元に薄笑いを浮かべながら手に持った旗を構える。

 

「俺に聞くなよ」

 

 俺は肩をすくめる。

 

「でも……人を殺したのは間違いないわね。この匂い……鉄と腐敗が入り混じったような……」

 

 ジャンヌ・オルタの言葉に俺は眉をひそめる。

 

「けれど死体がないという事は」

 

「……そういう事ね」

 

 ジャンヌ・オルタがそう言うと同時に、異形の存在が吠えた。

 

「グギャアアアッ!!」

 

 耳をつんざくような咆哮と共に、それは俺たちに向かって飛びかかってきた。

 

「おっと」

 

 俺は咄嗟に後ろに跳ぶ。

 

「マスターちゃんは下がってて。これは私の獲物よ」

 

 ジャンヌ・オルタはそう言うと、黒い旗を振り回しながら異形の存在に向かっていく。彼女の動きは軽やかで、まるで踊るように敵の攻撃を避けていく。

 

「さあて、遊んであげるわ」

 

 ジャンヌ・オルタはニヤリと笑いながら黒い旗を振るう。

 

 すると旗の軌跡に沿って黒い炎が生まれ、異形の存在を襲う。

 

「ギャアアッ!!」

 

 異形の存在は黒い炎に焼かれながらも、なおも襲い掛かってくる。

 

「ほらほら、もっと頑張りなさいよ。こんなのじゃ物足りないわ」

 

 ジャンヌ・オルタは嘲笑うように言うと、今度は左手に持つ剣を抜き放った。

 

「さて、今度はこっちで遊ぼうかしら」

 

 ジャンヌ・オルタは剣を構えながら異形の存在に突進する。

 

 彼女の剣さばきは鋭く、異形の存在はあっという間に追い詰められていく。

 

「グ……グギャ……」

 

 異形の存在は苦悶の声を上げながら後退する。

 

「あらあら、もう終わり? つまらないわね」

 

 ジャンヌ・オルタは剣をくるくると回しながら言う。

 

「それとも……」

 

 彼女は急に動きを止めると、異形の存在を見下ろした。

 

「……まだ何か隠してるのかしら?」

 

 すると異形の存在が口を開く。

 

「オレハ……ワルク……ナイ……ワルク……」

 

「何言ってんの? もう一度言ってみなさいよ」

 

 ジャンヌ・オルタは不思議そうに首を傾げる。

 

「ヨクボゥ……カイホウセヨット」

 

「……何言ってんのかわかんないわね。言葉になってないわよ」

 

 ジャンヌ・オルタは呆れたようにため息をつく。

 

「でも……」

 

 彼女は異形の存在をじっと見つめながら言う。

 

「お前はもう、正気じゃないわね」

 

「マスターちゃん……このままじゃコイツから情報を聞き出すのは無理よ」

 

 ジャンヌ・オルタは俺に指示を仰ぐ。

 

「そうだな」

 

 俺は短く答える。

 

「このまま放っておくわけにもいかないし……やるしかないな」

 

 俺は決断した。

 

「わかったわ」

 

 ジャンヌ・オルタはニヤリと笑う。

 

「じゃあ……燃やしちゃうわよ?」

 

 俺は頷く。

 

「ああ」

 

 俺がそう言うと同時に、ジャンヌ・オルタが旗を振り上げる。

 

「さよなら、欲望の奴隷さん」

 

 ジャンヌ・オルタが呟くと同時に、異形の存在が黒い炎に包まれる。

 

「グギャアアッ!!」

 

 異形の存在は悲鳴を上げながら燃え盛る。

 

「アアア……アアア……」

 

 そして──

 

 異形の存在は灰となり、跡形もなく消滅した。

 

 俺とジャンヌ・オルタはしばらく沈黙する。

 

「……今の奴は何だったんだ?」

 

 俺は呟く。

 

「さあ? でも……人間ではなかったのは確かね」

 

 ジャンヌ・オルタは肩をすくめる。

 

「それにしても……この街、思ったより厄介な場所かもしれないわね」

 

 ジャンヌ・オルタの言葉に俺は頷く。

 

「ああ。もっと調べる必要がありそうだな」

 

 俺たちは踵を返し、その場を後にした。

 

(結局あの化け物は何だったんだ? そして……)

 

(あの『欲望』という言葉。それが鍵なのか?)

 

 俺の頭の中には様々な疑問が渦巻いていた。だが、今はそれよりも……。

 

(とりあえず家に帰ってシャワー浴びたい)

 

 俺はそっとため息をつく。

 

「マスターちゃん」

 

「ん?」

 

「お風呂入りたいわ」

 

 ジャンヌ・オルタが隣で同じことを考えていることに気づき、思わず苦笑いを浮かべた。

 

 不穏な空気は完全に払拭されたが、それでもジャンヌ・オルタの警戒心は緩んでいなかった。

 

「……マスターちゃん」

 

 ジャンヌ・オルタの声が低く響く。俺はすぐにその意味を理解した。背後から複数の人間の気配が迫っている。それもただの通行人ではない。

 

 次の瞬間、ジャンヌ・オルタは手にしていたマントを俺に向かって投げた。闇に溶けるような黒いマントが俺の頭に覆いかぶさる。視界が遮られ、鼻腔をくすぐるのはジャンヌ・オルタのマントに染みついた甘く香ばしいような不思議な匂い。同時に、彼女の冷たい手が俺の腕を掴み、ぐいっと引いた。

 

「ちょっと! 何するんだよ!」

 

「いいから黙って顔を隠してなさい」

 

 ジャンヌ・オルタの声は真剣そのものだった。俺は素直に従い、マントを引き下げて顔を完全に覆った。まるで覆面をした怪しい人物の完成だ。

 

 その直後、鬱蒼とした森の奥から複数の足音が響き渡った。足音は複数で、静かだが確かな意志を持ってこちらへと近づいてくる。草木をかき分けるような音も聞こえ始めた。

 

「……ここにいたのね」

 

 最初に響いたのは、凛としていて、どこか艶やかな女性の声だった。続いて複数の男女の声が続く。

 

「……あら?」

 

「なんだここは?」

 

「この匂い……何かあったみたいね」

 

 足音が止み、複数の視線が俺たちに突き刺さるのが分かった。マントの隙間からちらりと見ると、そこには駒王学園の制服を着た一団がいた。男子生徒二人に女子生徒三人。全員がどこか普通ではない雰囲気を纏っている。

 

(見覚えがあるような)

 

 俺の脳裏に先ほどのジャンヌ・オルタの言葉が蘇る。「欲望」。そして目の前の彼らからは、普通の人間とは違う、研ぎ澄まされた何かを感じる。

 

「あなたたち……ここで何をしていたの?」

 

 紅い髪の女子生徒が、尋ねた。

 

 それに対して、ジャンヌ・オルタは。

 

「さぁね、ただの怪物退治よ。まぁ、あんなのでも怪物と言えるかは微妙だけど」

 

「怪物退治?」

 

 紅い髪の女子生徒は興味深そうに言った。

 

「ええ、マスターちゃんの命令でね」

 

「マスター? どういう意味?」

 

 俺はジャンヌ・オルタに顔を隠されたままだった。

 

 だが、ジャンヌ・オルタが話をする度に。彼女の仲間は警戒する様子が伺える。

 

 その中で、ジャンヌ・オルタは太郎の顔を隠す手を離す。

 

 そして太郎とジャンヌ・オルタは並んで立ち上がり。

 

「マスターちゃんの正体は明かせないけど、私の名前だけは教えてあげる」

 

 彼女は挑発的に笑いながら名乗った。

 

「サーヴァント、アヴェンジャー、とりあえずは自己紹介しておくわ」

 

 駒王学園の制服集団とジャンヌ・オルタ、そして俺の奇妙な遭遇劇は、ここに幕を開けようとしていた。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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