サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
駒王街の夜は、意外と深い闇に包まれていた。
ジャンヌ・オルタが教えてくれたオカルトスポットの一つは、古い神社の裏手にある小さな森の中だった。昼間は散歩道として賑わう場所らしいが、日が落ちると人が寄りつかなくなるという。
「ふむ……確かに妙な気配がするわね」
「……本当に、こういうのもいるもんだなぁ」
俺とジャンヌ・オルタは、特に気にせずに入っていく。
カルデアでの日々において、このような場所での調査はかなり多く経験しており、同時に危険を察知する力も身についていた。だからこそ、ここに踏み込むことに躊躇いはなかった。
木々の間を抜けると、小さな広場のような場所に出た。中央には古びた石碑が立っている。
「マスターちゃん」
「ああ」
ジャンヌ・オルタが低く警告の声を上げる。俺も同時に気づいた。
微かに漂う腐臭。
そして──
「グルルル……」
唸り声と共に、暗闇から一つの影が現れた。
それは人間の形をしているようでいて、明らかに違っていた。
四肢は歪に膨れ上がり、皮膚は腐ったように爛れている。目は血走り、口からは涎が垂れていた。
「……なんだこいつは?」
俺は思わず呟いた。
「さあ? でも美味しくはなさそうね」
ジャンヌ・オルタは口元に薄笑いを浮かべながら手に持った旗を構える。
「俺に聞くなよ」
俺は肩をすくめる。
「でも……人を殺したのは間違いないわね。この匂い……鉄と腐敗が入り混じったような……」
ジャンヌ・オルタの言葉に俺は眉をひそめる。
「けれど死体がないという事は」
「……そういう事ね」
ジャンヌ・オルタがそう言うと同時に、異形の存在が吠えた。
「グギャアアアッ!!」
耳をつんざくような咆哮と共に、それは俺たちに向かって飛びかかってきた。
「おっと」
俺は咄嗟に後ろに跳ぶ。
「マスターちゃんは下がってて。これは私の獲物よ」
ジャンヌ・オルタはそう言うと、黒い旗を振り回しながら異形の存在に向かっていく。彼女の動きは軽やかで、まるで踊るように敵の攻撃を避けていく。
「さあて、遊んであげるわ」
ジャンヌ・オルタはニヤリと笑いながら黒い旗を振るう。
すると旗の軌跡に沿って黒い炎が生まれ、異形の存在を襲う。
「ギャアアッ!!」
異形の存在は黒い炎に焼かれながらも、なおも襲い掛かってくる。
「ほらほら、もっと頑張りなさいよ。こんなのじゃ物足りないわ」
ジャンヌ・オルタは嘲笑うように言うと、今度は左手に持つ剣を抜き放った。
「さて、今度はこっちで遊ぼうかしら」
ジャンヌ・オルタは剣を構えながら異形の存在に突進する。
彼女の剣さばきは鋭く、異形の存在はあっという間に追い詰められていく。
「グ……グギャ……」
異形の存在は苦悶の声を上げながら後退する。
「あらあら、もう終わり? つまらないわね」
ジャンヌ・オルタは剣をくるくると回しながら言う。
「それとも……」
彼女は急に動きを止めると、異形の存在を見下ろした。
「……まだ何か隠してるのかしら?」
すると異形の存在が口を開く。
「オレハ……ワルク……ナイ……ワルク……」
「何言ってんの? もう一度言ってみなさいよ」
ジャンヌ・オルタは不思議そうに首を傾げる。
「ヨクボゥ……カイホウセヨット」
「……何言ってんのかわかんないわね。言葉になってないわよ」
ジャンヌ・オルタは呆れたようにため息をつく。
「でも……」
彼女は異形の存在をじっと見つめながら言う。
「お前はもう、正気じゃないわね」
「マスターちゃん……このままじゃコイツから情報を聞き出すのは無理よ」
ジャンヌ・オルタは俺に指示を仰ぐ。
「そうだな」
俺は短く答える。
「このまま放っておくわけにもいかないし……やるしかないな」
俺は決断した。
「わかったわ」
ジャンヌ・オルタはニヤリと笑う。
「じゃあ……燃やしちゃうわよ?」
俺は頷く。
「ああ」
俺がそう言うと同時に、ジャンヌ・オルタが旗を振り上げる。
「さよなら、欲望の奴隷さん」
ジャンヌ・オルタが呟くと同時に、異形の存在が黒い炎に包まれる。
「グギャアアッ!!」
異形の存在は悲鳴を上げながら燃え盛る。
「アアア……アアア……」
そして──
異形の存在は灰となり、跡形もなく消滅した。
俺とジャンヌ・オルタはしばらく沈黙する。
「……今の奴は何だったんだ?」
俺は呟く。
「さあ? でも……人間ではなかったのは確かね」
ジャンヌ・オルタは肩をすくめる。
「それにしても……この街、思ったより厄介な場所かもしれないわね」
ジャンヌ・オルタの言葉に俺は頷く。
「ああ。もっと調べる必要がありそうだな」
俺たちは踵を返し、その場を後にした。
(結局あの化け物は何だったんだ? そして……)
(あの『欲望』という言葉。それが鍵なのか?)
俺の頭の中には様々な疑問が渦巻いていた。だが、今はそれよりも……。
(とりあえず家に帰ってシャワー浴びたい)
俺はそっとため息をつく。
「マスターちゃん」
「ん?」
「お風呂入りたいわ」
ジャンヌ・オルタが隣で同じことを考えていることに気づき、思わず苦笑いを浮かべた。
不穏な空気は完全に払拭されたが、それでもジャンヌ・オルタの警戒心は緩んでいなかった。
「……マスターちゃん」
ジャンヌ・オルタの声が低く響く。俺はすぐにその意味を理解した。背後から複数の人間の気配が迫っている。それもただの通行人ではない。
次の瞬間、ジャンヌ・オルタは手にしていたマントを俺に向かって投げた。闇に溶けるような黒いマントが俺の頭に覆いかぶさる。視界が遮られ、鼻腔をくすぐるのはジャンヌ・オルタのマントに染みついた甘く香ばしいような不思議な匂い。同時に、彼女の冷たい手が俺の腕を掴み、ぐいっと引いた。
「ちょっと! 何するんだよ!」
「いいから黙って顔を隠してなさい」
ジャンヌ・オルタの声は真剣そのものだった。俺は素直に従い、マントを引き下げて顔を完全に覆った。まるで覆面をした怪しい人物の完成だ。
その直後、鬱蒼とした森の奥から複数の足音が響き渡った。足音は複数で、静かだが確かな意志を持ってこちらへと近づいてくる。草木をかき分けるような音も聞こえ始めた。
「……ここにいたのね」
最初に響いたのは、凛としていて、どこか艶やかな女性の声だった。続いて複数の男女の声が続く。
「……あら?」
「なんだここは?」
「この匂い……何かあったみたいね」
足音が止み、複数の視線が俺たちに突き刺さるのが分かった。マントの隙間からちらりと見ると、そこには駒王学園の制服を着た一団がいた。男子生徒二人に女子生徒三人。全員がどこか普通ではない雰囲気を纏っている。
(見覚えがあるような)
俺の脳裏に先ほどのジャンヌ・オルタの言葉が蘇る。「欲望」。そして目の前の彼らからは、普通の人間とは違う、研ぎ澄まされた何かを感じる。
「あなたたち……ここで何をしていたの?」
紅い髪の女子生徒が、尋ねた。
それに対して、ジャンヌ・オルタは。
「さぁね、ただの怪物退治よ。まぁ、あんなのでも怪物と言えるかは微妙だけど」
「怪物退治?」
紅い髪の女子生徒は興味深そうに言った。
「ええ、マスターちゃんの命令でね」
「マスター? どういう意味?」
俺はジャンヌ・オルタに顔を隠されたままだった。
だが、ジャンヌ・オルタが話をする度に。彼女の仲間は警戒する様子が伺える。
その中で、ジャンヌ・オルタは太郎の顔を隠す手を離す。
そして太郎とジャンヌ・オルタは並んで立ち上がり。
「マスターちゃんの正体は明かせないけど、私の名前だけは教えてあげる」
彼女は挑発的に笑いながら名乗った。
「サーヴァント、アヴェンジャー、とりあえずは自己紹介しておくわ」
駒王学園の制服集団とジャンヌ・オルタ、そして俺の奇妙な遭遇劇は、ここに幕を開けようとしていた。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王