サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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復讐者と共に初開拓 Ⅵ

俺は少女を抱えながら家路についた。ジャンヌ・オルタは俺の後ろを歩いていて時折不機嫌そうにため息をついている。

 

「なぁ、ジャンヌ・オルタ」

 

「何よ」

 

「さっきの家で一体何があったんだ?」

 

ジャンヌ・オルタは足を止め、肩越しに俺を見た。その表情は暗く、いつもの挑発的な笑みは消えている。

 

「……マスターちゃんは見たことある?」

 

「何を?」

 

「人が壁に張り付けられてるの」

 

ぞっとした。冗談かと思ったが、彼女の目は真剣だった。

 

「冗談だろ?」

 

「冗談だったらよかったわね」

 

ジャンヌ・オルタは再び歩き出す。俺も慌てて後を追う。

 

「詳しく話せよ」

 

「気が進まないわね。あんたがショック受けても知らないわよ?」

 

「それでも聞きたい」

 

しばらく沈黙が続いた後、彼女は渋々話し始めた。

 

「あの家に入った時、まず感じたのは血の臭いよ。それも新鮮な」

 

ジャンヌ・オルタの声は低く抑揚がなかった。

 

「奥の部屋に行ったら……壁一面に死体が張り付いてたわ。それもね……」

 

彼女は一度言葉を詰まらせた。

 

「上下逆さまで」

 

「・・・そういうのは、向こうでも見た事あるだろ?」

 

「えぇ、でもあれは異常だったわ。それに……」

 

ジャンヌ・オルタは眉をひそめた。

 

「神父がいたのよ。それも普通の神父じゃない。狂気じみた目をした奴が」

 

「神父?」

 

俺は思わず足を止めた。教会の神父がそんなことを?

 

「ああいうのは初めてよ。まるで悪魔みたいだったわ」

 

「そして、彼女もいたのか?」

 

俺は腕の中の少女を見た。彼女はまだ気を失ったままだ。

 

「ええ。部屋の隅で震えてたわ。あの子だけは無事だった」

 

ジャンヌ・オルタはふっと息を吐いた。

 

「だから連れ出したの。あのまま放っておいたら殺されてたでしょうね」

 

「でもさ……それって誘拐じゃ?」

 

「誘拐? そうかもしれないわね」

 

ジャンヌ・オルタは肩をすくめた。

 

「でもあの子を助けるにはこれしかなかったのよ。それに……」

 

彼女は足を止め、俺をじっと見つめた。

 

「マスターちゃんならきっと同じことをしたでしょ?」

 

「まぁ……そうかもな」

 

俺は苦笑した。確かに彼女を放っておくことはできなかっただろう。

 

「それで? 民家を燃やしたのは?」

 

「証拠隠滅よ。それに……」

 

ジャンヌ・オルタの目が冷たく光った。

 

「あの場所にいるだけで危険だったの」

 

その言葉に含まれる意味を深く考える暇もなく、突然少女が小さく呻いた。

 

「ん……ぅ…」

 

彼女の瞼が微かに震え、ゆっくりと目を開く。焦点の合わない瞳が虚空を見つめ、やがて俺の顔を捉えた。

 

「ここ……は…?」

 

か細い声が夜の闇に溶け込む。

 

「ここは……?」

 

少女の瞳が俺を捉えた。その瞬間、彼女の目が大きく見開かれる。

 

「ひっ……!」

 

悲鳴を上げて身を縮める彼女は周囲を見渡す。

 

その様子を見たジャンヌ・オルタは眉をひそめた。

 

「何をそんなにビクビクしてるのよ」

 

苛立ちを隠そうともせず、少女を睨みつける。

 

「わ、わたし……」

 

少女はますます縮こまる。その様子はまるで小さな動物のようで、俺は思わず苦笑した。

 

(ジャンヌ・オルタの態度はまずいな。彼女を怯えさせているだけだ)

 

俺はなるべく優しい声で話しかけた。

 

「大丈夫だ、俺は君を傷つけるつもりはない」

 

「……え?」

 

「君がいた場所は……少し危険だったからね」

 

言葉を選びながら話す。あの惨状を直接伝えるのは憚られた。

 

グランドオーダーでは多くの人々と接してきた。時には傷つき、時には絶望している者たちと。そんな経験から自然と身についたのだろうか。

 

「とりあえず、話を聞きたいだけだから」

 

少女はまだ混乱しているようだが、少しだけ緊張が解けたように見えた。

 

ジャンヌ・オルタは腕組みをしながらそっぽを向く。

 

「別に助けるつもりじゃなかったわ。ただ……」

 

言い淀む彼女に俺はそっと耳打ちする。

 

(こういう時は素直に言った方がいいぞ)

 

「……うるさいわね」

 

小声で反論する彼女だが、目は少女を見ている。

 

俺は改めて少女に向き直った。

 

「名前は? 君の名前を教えてくれるかな?」

 

少女は少し躊躇った後、小さな声で答えた。

 

「アーシア……アルジェントです」

 

「アーシアか。良い名前だね」

 

俺は微笑んだ。

 

「俺は……そうだな」

 

(さすがに本名はマズイ。それにマスターである事を隠すべきだろう)

 

グランドオーダーでは偽名を使うことも多かった。その時の習慣が自然と出てきた。

 

「マスターでいいよ。それで彼女は……」

 

「アヴェンジャー。それ以上でも以下でもないわ」

 

ジャンヌ・オルタがぶっきらぼうに答える。

 

アーシアはまだ不安そうだが、少しずつ俺たちに慣れてきているようだ。

 

「あの……私、どうしてここに……?」

 

「・・・聞きたい事があってね、あの家で、何が起きたのか」

 

その言葉で、アーシアが思い出したように口を手で塞ぐ。

 

「私はっ」

 

その言葉と共に、アーシアは、語り始めた。

 

その過去を。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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