サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
アーシアが語った過去。
彼女はキリスト教会の修道院で育ち、幼い頃から清貧と奉仕の精神を叩き込まれてきたらしい。
『神様は全ての人を平等にお救いになります』
そう信じて疑わず、その教えの通りに尽くしてきた。
アーシア・アルジェントは生まれつき『聖母の微笑』という神器を持っており、治癒の力を有していた。どんな重傷患者でもたちどころに癒してしまう奇跡の力だ。
最初は教会内で重宝された。すぐに噂が広まり、地方貴族たちが次々と治療を求めに訪れるようになった。やがて彼女は正式に聖女として認められ、多くの信徒から崇められる存在となった。
太郎は静かにその話を聞いていたが、心中穏やかではなかった。
(……グランドオーダーでも似たようなケースは何度も見てきた)
偉大な功績を上げても些細なきっかけで立場を追われる者は多い。特に権威主義的な組織では顕著だ。
問題はその後だった。
数年前のある雨の夜のことである。
森の中で瀕死の重傷を負っていた一人の男性悪魔を見つけてしまったのである。
悪魔とはいえ苦悶に喘ぐその姿を見て見ぬフリなど出来なかった。
「あの時は……どうしても放っておけなくて……」
涙声でそう言うアーシア。
躊躇なく治癒の力を行使したのである。
だがこれが決定的に運命を変えた。
現場を目撃した者がおり教会上層部へ報告されてしまったのだ。
翌日から彼女の周囲は一変した。
昨日まで『聖女』と呼び慕っていた僧侶たちが一斉に掌を返したように蔑む目で見るようになったのである。
“魔女”
“悪魔を癒した裏切り者”
“主への背信行為”
次々と浴びせられる罵詈雑言。
必死で弁明しようとしたが誰も耳を貸さなかった。いや……そもそも彼らの耳には届かないよう巧妙に情報統制されていたのだと思う。
結局「異端審問」という名目の裁判が開かれ即座に『破門宣告』が出された。
住んでいた修道院はもちろん身寄りもないため完全に天涯孤独となってしまったのである。
途方に暮れているところを偶然通りかかった天使に拾われることとなる。
……そんな過去を聞き終えた太郎の表情は微妙なものだった。
教会の杜撰な管理体制も然ることながらそれ以上に気になったことがある。
それはすぐ隣にいる少女───ジャンヌ・オルタだ。
「……………」
(明らかに機嫌が悪いな)
アーシアと目が合う度に露骨に顔を逸らす。
最初は人見知りとか警戒心とかそういう類いだと思っていたのだがどうやら違うらしい。
明らかに憎悪に近い感情を持っていることが伺える。
「……あの……アヴェンジャーさん? もしかして何か気に障ったのでしょうか……?」
アーシア自身もそれに気づいたらしくおずおずと尋ねた。
すると案の定ジャンヌ・オルタの柳眉がピクリと動く。
「別にィ?」
「アヴェンジャー」
「・・・別に、ただあんたの性格は私が大嫌いな奴、そっくりなだけ」
その言葉には明らかな棘があった。太郎は内心で溜息をつく。やっぱりか。
ジャンヌ・オルタが嫌悪感を露わにする理由───それは恐らく。
(ジャンヌ・ダルク……本物の聖女と重ね合わせてしまっているんだろう)
ジャンヌ・オルタ。
彼女の過去、特異点となった歴史の中においてジル・ド・レェによって生み出された存在。
それが彼女だった。
けれど、様々な偶然が重なって、彼女は確かな存在となった。
「まぁまぁ落ち着けって。アーシアさんはそんなに悪い人じゃないだろうしさ」
「……ふん」
納得できない様子ながらも引き下がるジャンヌ・オルタ。どうやら今はこれ以上の揉め事は起こしたくないという判断なのだろう。
そこで話題を変えようと太郎が口を開きかけたその瞬間だった────床に転がる何かを発見したのは。
それは筒状の物体だった。表面には英字で注意書きのようなものが印刷されている。
(閃光手榴弾!?)
気づいた時にはすでに遅かった。眩い光と共に耳を劈く破裂音が室内に響き渡る。
同時に強い衝撃波が三人を襲った。
「ッ!!」
咄嵯に動いたのはジャンヌ・オルタだった。反射的に黒い旗を構える。
幸い太郎にまでは危害が及ばなかったものの目を開けることができないほどの光量だ。とてもではないが視界確保は不可能だった。
「アーシア!?どこだ!?」
「……いません!攫われました!!」
パニックになりかけながらも叫ぶ太郎。言われてみれば先ほどまで居たはずの気配がない。どうやら光に紛れて連れ去られたようだ。
「くそッ……!」
悔しさを込めて舌打ちする太郎。こんな簡単な罠に引っかかるなんて自分でも情けなくなる思いだった。
とはいえ今は嘆いている場合ではない。一刻も早く奪還しなくてはならない。
(敵の目的は最初からアーシアだったのか……?)
そうなると考えられる犯人は限られてくる。
第一容疑者はもちろん───
「行くわよマスターちゃん」
太郎と同じことを考えていたらしく既に戦闘態勢に入っていたジャンヌ・オルタが言った。
しかし今の太郎にとって気になるのは別のことであり───
「行くってどこへ?」
「決まってるでしょう。あの子が連れていかれた先よ」
太郎の疑問を一刀両断する。
そして太郎の方を振り返ることなく歩き出した。
「ちょっと待ってくれよ」
慌てて追いかけようとする太郎だったがふと思い立ちジャンヌ・オルタの袖を掴む。
「何よ邪魔しないで頂戴」
「ひとつ訊いてもいいか?」
「……手短になさい」
鬱陶しそうにしながらも立ち止まってくれるあたりやはり根っこは優しい女性なのだと思わされる。もっとも本人に言えば猛烈に否定されるであろうことは容易に想像できたが。
ともあれ今はそれよりも重要なことがあるのだ。
「さっきの話さ、まさか本気で同情とかそういう感情じゃないよね?」
ジャンヌ・オルタにとってアーシアのようなタイプの人間など相容れない存在であろうことはこれまでの態度から明らかだった。ましてやその理由があの手の正義感丸出しの台詞では余計なお世話としか思えないのではないだろうか?
「……………本当にマスターには、そういうところは好きになれないわね」
ポツリと言った。しかしその声音には不愉快そうな響きはなかった。
むしろどこか嬉しそうですらあった。
「勘違いしないで。私はあの小娘の性格が気に食わないだけ。それ以上でも以下でもないわ」
ハッキリと言い切った。
ならば尚さら腑に落ちない点がある。
「だったらどうして協力してくれるんだ?もし邪魔だと思っているなら見捨てる選択肢だってあったんじゃないか?」
「お人好しのマスターから出るとは思えないくらい非情なセリフね」
呆れたように言うジャンヌ・オルタ。しかしすぐに表情を引き締めて続けた。
「でもね……私だって伊達に復讐者のクラスで長いことやってるわけじゃないのよ」
つまりどういうことかというと───
「あの子の中にある矛盾。あれだけは見過ごせなかったのよ」
矛盾。
それを聞いて太郎はピンときた。
アーシアの言動。そこに潜むちぐはぐさ。
「・・・あの言動は確かにあいつに似ているわ。けれどね、本当は普通の女の子なのよ。なのにそれを押し殺して自分を犠牲にしすぎている。あの子の在り方は見ていて腹が立つほどイライラする」
太郎は思わず黙ってしまう。そう言われてみれば確かに思い当たる節はあるような気がする。
ジャンヌ・オルタの場合彼女の場合はその“優しさ”というものを過信しているところが災いしているのだろう。
「要は自己防衛本能が欠如してるわけ。自分の幸せのために他人を蹴落としても誰も困らないでしょうに何故それを選ばないのか理解不能なのよまったく……!」
吐き捨てるように言う彼女こそまさに他人を顧みない極端な思想の持ち主ではあるまいなのかと言いたくなるところだがまぁそれはそれとして。
「ようするに普通の女の子のように振る舞いたい彼女を助けたいって事か」
「・・・あぁもぅっ!マスターってなんでそうなのよ!」
羞恥心を煽られて頭を抱えるジャンヌ・オルタ。
この様子だと自分の感情を整理できてないのだろう。
「あのね。誤解しないでほしいんだけど。ただ単にムカつくだけ!」
必死になって否定する姿から、微笑んでしまう。
「・・・だから、力を貸して、マスター」
「何を言っているんだ、貸す訳ないだろ」
俺はそう言い。
「マスターとサーヴァント、力を十全に発揮するのは、力を合わせて。そうだろ」
その言葉にジャンヌ・オルタは目を見開いて驚き。だが、すぐに理解したように頷く。
「そうね、だったら、行きましょうか、マスター!」
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