サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
「本当にバカなのよねぇ……」
ジャンヌ・オルタは小さく呟いた。
目の前では太郎が得意満面の笑みで「王になる男」宣言をぶちかましている。
リアス・グレモリーが困惑した表情で「王……?」と聞き返している光景が滑稽すぎて笑ってしまいそうになった。
(カルデアでも同じだったわ)
脳裏に蘇るのは、第一特異点で出会った時。
その頃から太郎は。
「王になる以上は、国民全員を救う事が必須だっ」
そう豪語していた。
無論。
「あんたみたいなバカには無理だと思うわよ?それにあんたみたいなバカが王になるなんて誰も認めないわよ」
最初は何度も喧嘩したものだった。
ジャンヌ・オルタにとって王といえば聖女を火刑に追いやった狂気の権化。
そんなものに憧れる男など最低最悪のバカにしか見えなかった。
だがカルデアでの日々を重ねていく内に少しずつ変わっていった。
例えば特異点オケアノスで海賊船に乗った時。
「絶花が友達作りやすいようにするために海賊共に友達の大切さを説教してくる!」
(ほんとにもうっ!)
太郎はいつも自分の理想ばかり押し通す。
相手がどんなに強くても、どんなに理不尽でも怯まない。
それがどれだけ危険な行為か分かっていないのだ。
何度私がフォローに入って命拾いしたことか。
一度はカルデア内の食堂で料理人に文句をつけに行こうとした時も。
(あの時は流石に私も止めに入ったけれど)
だが止めても止めても太郎は走り続ける。
まるで止まる事も知らない暴れ牛のように。
(だからこそなのよねぇ……)
ジャンヌ・オルタは無意識に自分の右手を見つめた。
令呪が刻まれている左腕じゃない。
ただ握りしめただけの右手だった。
グランドオーダーの旅路の中で何度思った事か。
―こいつと一緒にいると退屈しない―
それは間違いなく真実だった。
ジャンヌ・オルタというアヴェンジャーという存在にとっては新鮮すぎる経験ばかり。
それは紛れもなく――
(……バカだけど面白い奴よ)
「そういえば昔……」
ふと口に出した言葉がきっかけとなり思い出されるエピソード。
それは、サーヴァント・サマー・フェスティバルが終わり、砂浜で2人で歩いていた時。波音に混じりながら尋ねた質問。
「ねぇマスター?ずっと気になってたんだけどさ……なんでそんなに王を目指してるの?」
その問いかけに太郎は真面目な顔をして答えた。
「んー……やっぱそれが俺の使命だと思うからかなぁ」
(やはり予想通りの回答)
半ば諦め気味に耳を傾けると続いて太郎はこう続けた。
「王になりたいのは……結局絶花のためなんだけど……あいつは普通の女の子なのに強くなりたいと思ってる。だけど本当は……俺はあいつにもっと笑っていてほしいんだ」
「……は?」
思わず眉をひそめた私に対し太郎は照れくさそうに頭をかいた。
「だからさぁ……王になれればみんなが豊かになって楽しく過ごせる国になるわけでしょ?そしたら絶花も安心して友達作って遊べるって思うんだよね〜」
「……」
完全な沈黙が訪れた。
冗談で言っているわけではない事くらい表情からわかる。
そしてその理由があまりにも子供っぽくて素朴すぎる事に衝撃を受けた。
(なんていうか……この男……ほんとに単純というか純粋というか)
呆れを通り越して笑いすらこみあげてくる。
「ふっ……あんたって本当に大バカよ」
「えぇっ!?なんでぇ!」
抗議する声を無視して海の方へ歩き始めた。
後ろからは慌てた様子の足音が近づいてくる。
振り返らずに言った。
「まっ……私はそんな馬鹿げた理想に付き合うのも悪くないと思ってるけどね」
「そうなのか?さすがは今年、数々の同人誌を一緒に作っただけはあるな」
「今すぐ燃やされたいわけね?」
その後しばらく続く太郎の謝罪タイムの中でも私の胸には確かな温もりがあった。
「そうやって付き合い続けて気がつけば、まさかの別世界とは」
ジャンヌ・オルタは溜息混じりに呟いた。
しかし彼女の目には決して否定的な色はなく――どこか楽しげな輝きさえ宿っていた。
(まぁ……このバカを見守るのが私の役目になったんだからしょうがないわね)
「地獄の底まで付き合わせるなんて約束もしたし……」
太郎が高らかに宣言している前で彼女は小さく呟く。
それはまるで誓いのように厳かで優しい響きを伴っていた。
(でもこのバカのおかげで……きっと楽しい未来になるでしょうね)
そう思うと自然と笑みが零れる。
ジャンヌ・オルタという復讐者の笑顔は――今まで彼女が浮かべてきた中で最も穏やかで暖かいものだった。
そして。
「だからこそ、あんたの前で悪魔だろうと天使だろうと燃やし尽くしてやるわ」
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王