サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
瞼を開くと、最初に飛び込んできたのは泣き腫らした絶花の顔だった。白い天井と消毒液の匂いが鼻腔をくすぐる。どうやら病院のベッドか。ゆっくりと体を起こそうとしたが、筋肉が軋むような痛みが走った。100年以上の特訓の代償か。
「……寝坊助。やっと起きた」
絶花の声は掠れていた。長い睫毛にはまだ涙の粒が光っている。
「ごめん。心配かけた」
「かけてないっ! ただちょっと、ビックリしただけだから!」
すぐに強がる。昔から変わらないな。思わず微笑むと、彼女は慌てて顔をそむけた。
「ばか。……マジで死んじゃうかと思ったんだよ?」
小さく呟かれた声に胸が締めつけられる。俺はムーンセルの中で何度も死に瀕した。それが現実に引き継がれていなくてよかった。
「約束したろ?俺は絶対に死なない」
「私にも守らせなさいよ」
絶花は俯いたまま拳を握りしめた。その指が細かく震えている。彼女もまた100年の特訓を体験したのだ。想像を絶する疲労が蓄積しているはずだ。
ふと気づけば、周囲には白野先輩やドラコー、アザゼル先生の姿があた。みな一様に安堵の表情を浮かべている。
「おかえり」
白野先輩が静かに告げた。その目には穏やかな光が宿っている。
「ただいま。特訓はどうでした?」
「言葉で表せないくらい過酷だった。だけど——」
「成長したってことですね」
頷く先輩の背後で、リゼヴィムが拘束されたまま寝かされているのが見えた。戦いはまだ終わっていない。
絶花が突然ベッド脇にひざまずいた。そして両手で俺の頬を強く押さえ込む。
「私はずっと隣にいるんだからね。勝手に離れるのは許さない」
真っ直ぐな視線が射抜く。怒りと喜びと安堵が入り混じった虹彩。
「うん。次は一緒に戦おう」
「当たり前」
彼女はようやく笑った。泣き笑いのその表情があまりにも眩しくて、俺は思わず目を細めた。
ムーンセルの無尽蔵な記録群を彷徨い続けた果てに辿り着いた真実は一つ。
絶花と生きて帰りたい。
それだけを胸に、俺は再び立ち上がることを誓った。
「そろそろ次の一手を考えないとね」
白野先輩が窓枠に肘をつきながら外を眺める。朝焼けが赤く空を染めていた。
「リゼヴィムは」
「…そうだね、結論から言うと、向こうはかなりヤバい事になっているよ」
「ヤバい事?」
その疑問に首を傾げる。
白野先輩の言葉を聞きながら俺は身震いした。冥界で起きている異変――それはベリルの仕掛けた本当の罠だった。
「聖杯戦争の仕組みを使って?」
問いかけに先輩が頷く。
「サーヴァント同士の戦いは最初から茶番だったの。ベリルはリゼヴィムが敗北することを計算に入れていた」
窓の外で街灯が暗く沈む。俺たちがここで休息している間に冥界ではすでに決定的な変化が始まっているらしい。
「時間が無いね」
白野先輩が呟く。その横顔には深刻な翳りが浮かんでいる。
「戦いはまだ序章に過ぎなかった」
俺は拳を握りしめた。病室の静けさが不釣り合いに感じるほど緊迫感が漂う。
「でも行くしかない」
絶花が立ち上がる。その瞳には迷いなど微塵もない。
「私たちはここまで来たんだから」
彼女の言葉に背中を押されるように俺もベッドから立ち上がった。
「未来を覆すために」
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王