サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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本日から第四部、妖怪王編が開始します。今回の章での新たな試みに関しては、後に発表したいと思います。お楽しみに。


王と剣士と猫 Ⅰ

―――駒王街駅中央改札。

 

午後四時過ぎの人混みが押し寄せる中、俺は絶花の小さなキャリーケースを押しながら改札を抜けた。

 

「……うぅっ」

 

隣で絶花が小さく呻く。視線を感じてるんだろう。その長い睫毛が不安げに揺れている。

 

「気にすんなよ。お前の髪とか肌が良すぎるのが悪いんだ」

 

軽く言ってやると、絶花は耳まで真っ赤になった。

 

「そっそんなことない!ただ……知らない人ばかりで……怖くて……」

 

握りしめた拳がかすかに震えている。あぁ、この怯え方は昔から変わらない。人前に弱いんだよな。

 

「安心しろ。今日からこの街はお前の縄張りだ」

 

そう言いながらスマホでマップを開く。家までは徒歩二十分。途中で何か腹ごしらえしたいところだが……

 

駅ビルの食品売り場を横目に見る。駒王街名物『龍炎牛串』の看板が目に飛び込んできた瞬間、胃袋がギュルリと鳴った。

 

「太郎? どうかしました?」

 

絶花が不思議そうに首を傾げる。

 

「いや……ちょっと待て」

 

脳内で計算開始。

 

夕飯代節約→コンビニ弁当→寂しくなる。でも龍炎牛串→美味いけど高い。

 

結果、両方買うしかない。

 

「決めた。夕飯はコンビニ弁当にしよう。けど途中でお土産に買って帰る」

 

「えっと……私は甘いものがいいですね」

 

ふわりと微笑む。その顔を見てると少し安心する。

 

荷物を手早く分け直し、駅の南出口を目指した。

 

角を曲がって商店街へ入ると空気がガラリと変わる。祭りのような活気。けれど絶花は逆に表情が強張っていく。

 

「ねえ……本当にこっちであってるの」

 

「地図だと合ってるはずだ」

 

とはいえさっきから何度もスマホを落としかけてるあたり、俺も焦ってるかもしれない。

 

大通りの向こうに巨大なシュークリーム屋の看板を見つけた。絶花の喉がゴクリと鳴る音が聞こえた。

 

「休憩がてらあそこで食べていかないか?」

 

「!!!」

 

パァッと明るくなる瞳。さっきまでの暗さが嘘みたいだ。

 

「いいんですか!?ありがとうございます!」

 

勢いで俺の袖を掴む絶花。「痛ッ」と呟きつつも苦笑した。

 

あの中学を出て正解だったよな。教室で浮き続けるよりずっと―――

 

カランコロン♪

 

店に入るなり甘い香りが鼻腔をくすぐった。ショーケースにはカラフルなパステル系スイーツが宝石のように並んでいる。絶花の視線はすでに溶けかけていた。

 

「どれにする?」

 

「あっ……あの……全部……」

 

「落ち着けって」

 

メニュー表を指差す。

 

「ほら、新作『黄金のチョコボー』だって。試してみないか?」

 

「……! わっ分かった!」

 

注文して席につくと絶花は深呼吸した。

 

「なんだか……夢みたい」

 

窓の外を行き交う人々の波。俺たちと同じように新生活を始めた家族連れも見える。ふと自分の掌を見た。少し汗ばんでいた。

 

「実は俺もさ。初めての土地だし、少しワクワクしてる」

 

そう言うと絶花は驚いたような表情を見せたあと、照れくさそうに笑った。

 

夕暮れ迫る駒王街は意外と静かだった。昼間の喧騒が嘘のように引いている。アパートまであと数分───ってところで俺たちの足が止まった。

 

「お腹すきましたね……」

 

絶花が俯き加減に呟く。確かに昼飯から7時間近く経ってる。俺の腹も限界突破寸前だ。

 

「とりあえずコンビニで何か買い込むか」

 

「賛成です! 昨日見た焼き鳥弁当、まだ売ってるでしょうか」

 

「ん~売切れてたら俺の奢りで牛串追加だな」

 

「えぇ!? いいんですか!?」

 

嬉しそうな声とともに絶花の頭がふわっと跳ねた。……可愛い奴だ。俺の方が動悸で胸が苦しくなってくる。

 

そのとき───影が落ちてきた。

 

突然夜空を切り裂く羽音。街灯の柱に降り立った男は、仕立てのいいダークスーツに身を包み、羽織った漆黒のコートが蝙蝠のように広がる。

 

顔つきは脂ぎった中年。禿げかけたオデコに皺が刻まれていて……ハッキリ言って気持ち悪い。

 

「人間の坊ちゃん嬢ちゃん。悪いことは言わん。死になさい」

 

男は翼を広げて両腕を掲げた。空間がひび割れるように歪む。おそらく堕天使ってやつか? 派手な演出好きだなオイ。

 

「ひっ!?」

 

絶花が俺の袖をギュッと掴む。……ちょっとドキドキするな。

 

「さて坊主。その力……忌々しいほどに厄介だからここで消させてもらうぞ」

 

堕天使のおっさんは高笑いし始めた。傲慢なのは間違いなさそうだ。

 

だがまぁ───俺は思った以上に落ち着いていた。なぜなら今、もっと大事な問題がある。

 

「なぁ絶花。そいつに構ってる暇あるのか?」

 

「え? 太郎くんが助けてくれないんですか?」

 

「助けたくないわけじゃない。ただ腹減って集中できねぇ」

 

正直に言うと絶花はポカンとした顔をする。それから呆れたように息を吐いた。

 

「わっ私だって、あんな変質者は相手したくないんだけど」

 

「えぇでもぉ」

 

「貴様らっ、殺す」

 

そう、殺気を剥き出しにしている。

 

「・・・はぁ、仕方ない。絶花も疲れているし、俺がやるか」

 

「良いの?」

 

「こういう時も王の仕事だろ。という事で」

 

そう、俺は懐から取りだしたメダル。

 

そのメダルを構える。

 

「それは一体」

 

「お前の時間だ!ジバニャン!」『カモン!ゴースト!』

 

鳴り響く音声、それと共に。

 

妖怪ウォッチの文字盤から眩い光が迸る。その中心から、ぷにぷにとした小さな影が弾むように出現した。

 

「ニャフ~っ!久しぶりニャン、太郎~!」

 

赤い獣毛に包まれたジバニャンは嬉しそうに尻尾を揺らす。だがその目はすぐに警戒の色を帯びた。

 

「あれ? 新しいおウチに到着したんじゃないのニャン? なんでこんな危険そうなオッサンがいるニャン!?」

 

「悪いなジバニャン。引っ越し先への挨拶代わりに来てくれ」

 

俺は肩をすくめながら言った。

 

「おっと。まずはそちらの堕天使サマから退場願おうか。……頼むぜ」

 

「ニャッ!?」

 

ジバニャンの目が大きく見開かれる。

 

「ちょっちょっと待つニャン! オレっちが相手するのかニャ!?」

 

「他に適役いねぇだろ」

 

「無理無理! あんな殺気剥き出しなおっさんに正面から突っ込んだら即アウトニャン!」

 

ジバニャンは高速で横に逃げようとする。が、地面から伸びた幽体の鎖がジャリッと絡みつく。俺の妖怪ウォッチに組み込まれた拘束機構だ。……これもぬらりひょんのおっちゃんの改良のおかげなんだが、なんか申し訳なくなる。

 

「逃げるなよ。今日は初陣ってことで特別報酬出す」

 

「ほうしゅうって……まさかチョコボーにゃ!?」

 

「一週間分保証する」

 

「う……うぉぉ~!行くニャン! 行ってくるニャーン!」

 

単純な奴。まぁそういう所が可愛げなんだけどな。

 

堕天使は怪訝な顔でこちらを見下ろしていた。

 

「……貴様ら、式神使いか? まあいい。どちらにせよ塵芥にしてやる」

 

言い終わるなり黒い光刃を練り上げる。まるで裁断機みたいな殺気の塊だ。だが。

 

「行っけぇジバニャ~ン!!」

 

俺の掛け声と同時にジバニャンが宙へ跳躍。次の瞬間、赤い体毛を纏ったまま凄まじい速度で堕天使の懐へ突っ込み――

 

「ニャアァァァーッ! 必殺、百列肉球!!!」

 

くるりと宙返りしながら赤い旋風を巻き起こす。しかし……

 

ズバンッ!!

 

堕天使の振るった光刃がジバニャンを空中で一刀両断!?

 

「ニャ―――ッ!??」

 

「「あぁ、やっぱり駄目だったかぁ」」

 

俺と絶花はほぼ同時につぶやいた。

 

煙のように消滅していくジバニャン。完全にダウンだ。

 

「くっ……オレっち……まだまだレベル上がらないニャン……」

 

倒れたまま虚ろに呟くジバニャンに肩を竦める。

 

「仕方ない、ジバニャン、面倒だけど、一緒にやるか」

 

「最初から!そうするニャン!」

 

ジバニャンは、叫びながら、俺の方へと詰め寄る。

 

「何を言って」

 

そうしている間に、俺はもう一つのメダルを取りだし、妖怪ウォッチに装填する。

 

堕天使は何をするつもりか疑問に思っている最中。

 

「行くぜ!変身!」『Y!チェンジフォーム!妖怪HERO!剣豪紅丸!』

 

妖怪ウォッチから鳴り響く音声と共に、俺はそのままベゼルを回す。

 

『Y!Y!YYYYY!エスピー!』

 

妖怪ウォッチから溢れる翡翠色の光が螺旋を描いて渦巻いた。その中心に立つ太郎の肉体が粒子となって分解され始める。

 

「おおお……!」

 

堕天使の男が目を剥く。人間が物理法則を超越して溶解する光景は悪魔でさえ稀に見るものだ。

 

ジバニャンの魂魄もまた赤い炎となり、その流れに吸収されていく。

 

《ニャフフ……行くニャン!》

 

思念が共鳴する。

 

光は凝縮し、再構成される。まず現れたのは燃え盛る深紅の毛皮。次に黄金の瞳。腰には煌めく刀の鞘。

 

「拙者の名は——」

 

声は少年のものでありながら、どこか古武士のような貫禄を帯びていた。

 

「剣豪紅丸」

 

紅丸の身体から放たれる余波が風を起こし、街路樹に咲く早咲きの桜が千切れて舞い上がった。桃色の吹雪の中に佇むのは、白銀の袴に紅蓮の和服。頭からはピンと尖った猫耳。そして背後へ流れる二つの尾。

 

堕天使が本能的な嫌悪を覚えた。生物としての序列を超える匂いがする。

 

「クソッ! 身の程知らずがぁ!」

 

闇の鎌を振りかざす。しかし刃は虚空を薙いだだけだった。

 

既にそこに紅丸はいない。

 

「遅い」

 

声は堕天使の耳元。振り向く間もなく、耳を切り裂く感触。

 

「グギャアッ!!」

 

噴出した血飛沫さえ桜の花弁に変わり果てる。致命傷ではないが痛烈な牽制だ。

 

紅丸は鞘から“断絶丸”をゆっくりと抜いた。鈍い金属音と共に露わになるのは翡翠色の刃紋。

 

「赤く染まったこの身体。お主の血でさらに赤くなるの巻」

 

紅丸が冗談めいた口調で告げながら、刀の柄を握り直す。そして——

 

ブン!

 

音が遅れてやって来る。堕天使の左半身が紙のように切り裂かれた。

 

「ぐっ……あり得ぬッ!」

 

痛みより怒りで叫ぶ堕天使。背中の翼を展開させようとした刹那——紅丸の姿がかき消えた。

 

次に感じたのは首筋への灼熱。断絶丸が逆手に閃き、白刃が鎖骨を叩き折る。

 

「終わりぞ」

 

呟くと同時に紅丸は地を蹴り、弧を描くように堕天使の背後に回り込む。その軌跡を追うように桜の花弁が幾重にも舞い踊り、舞台装置のごとく戦場を彩った。

 

「お、おのれぇぇ!!」

 

堕天使は、そのまま吹き飛ばされる。

 

断絶丸を水平に戻し、“チン!”と納刀する。その音と共に戦いが終わりを迎える。

 

桜吹雪がようやく鎮まる。紅丸の紅い毛皮が朝陽を受け輝く。

 

「……終わったニャン?」

 

思念体となったジバニャンが遠慮がちに訊く。

 

「無論。帰還する」

 

紅丸は刀を帯に納めると踵を返した。そして待っていた絶花に向かい、丁寧に一礼する。

 

「姫君の御無事を確かめました」

 

「ひっ、姫……?」

 

絶花は硬直したまま耳まで真っ赤になり俯く。

 

そのまま、俺は紅丸の変身を解除される。

 

「なんだか、初めてやったけど、この合体、あんまり慣れないなぁ、どう思う絶花?」

 

「・・・少し良いかも」

 

「えっ?」

 

「何でもない!それよりも早く行こう!」

 

「あぁ、そうだな」

 

そうして、俺達は、そのまま、帰ろうとした。

 

けれど、その時。

 

「・・・あれが、唯我太郎。妖怪の王となる人物か」

 

そんな俺達を見ていた奴の存在に気づかず。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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