サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
「まったく……引っ越し早々に面倒な事になるなんて聞いてなかったぞ」
マンション入り口で鍵を開けながらぼやく。
絶花が後ろから覗き込んで来た。
先日の一件もあり、忙しい事もあり、そのまま放置していた。
靴を脱いでリビングに踏み込んだ瞬間、先客の唸り声が響いた。
「ぐぅっ……離せ……下等な餓鬼どもが……」
リビングの床に転がるのは昨晩捕獲した堕天使。
両脚は膝から下が断裂し自重で潰れかけている。翼も根本から砕けていて這うことさえできない。
俺は無言でロープを巻き直した。出血は止まっている――正確には止めたのだ。
「で?」
テーブルにつき肘を乗せる。絶花が淹れてくれたコーヒーが湯気を立てる。
「……死を以て償え」
堕天使は血走った目で睨みつけながら呪詛を吐く。
俺はカップを傾けながら答えた。
「生憎そこまでの慈悲はないな」
すると背後でジバニャンの影が震えた。
「太郎……まさか……こいつを……?」
「もちろん」
俺はソファに寝そべるメダルの束をチラつかせる。
「拷問だ」
その三文字を言い放った途端、堕天使の呼吸が荒くなった。
「……正気かッ!? !」
「いきなり殺してきた奴から情報を取るのは当たり前だろ。さてっと」
俺は、その手に持ったメダルを、そのまま妖怪ウォッチに装填する。
「戦の時間だ!ちびノブ!」『カモン!ゴースト!』
妖怪ウォッチが唸りを上げる。
リビングの空間が歪み、紫色のオーラが渦巻く。
「まさか!あいつらを呼ぶつもりかニャン!?」
ジバニャンが身構える。
オーラが弾けた。
そこには大量に居たのに、全員が沈黙。
「「「「………………………ノブ?」」」」
赤い兜をかぶり黒い陣羽織をまとったミニサイズの武者たち。それが二十匹ほど群れてピョコピョコ蠢いている。全長は三十センチ程度で目玉が飛び出しそうなくらいデカい。
「なっなんだ、こいつらは」
「ちぶノブだ」
「ちっちびノブ」
堕天使の質問に対して、俺はわざわざ答えた。
「なんなんだ、それは」
「さぁ?」
それに対して、絶花もまた首を傾げる。
「さぁだと」
「こいつら、いまいちよく分からないニャン。ある日、太郎がなんかお腹を空いていた所をおにぎりを渡したら、家臣になった奴ニャン」
「そいつは本当に生物なのか?!」
堕天使はますます困惑する。
「いやいやいやいや!生物かって言われてもな!オレっちだって会ったときはビビったニャン! いきなり道端から生えてきたと思ったらおにぎり食べて喜んでたの見て腰抜かしたくらいニャン! しかも食い終わったら自分で分裂しやがって増える増える増えまくりニャン!」
「いやぁ~それがな、おにぎりを渡したらいきなり頭下げて「殿♡」とか言われてよ。そのまま拝謁モードに入ったんで放置してたら勝手に行列できてさ。気づいたら部屋が埋まってたんだよね。それで追い出そうにも消えなくて。だから「まぁ害ないしいいか」って養ってるわけ。ははっ」
俺は笑うが、堕天使はまだ納得いかない顔をしている。
「要するに貴様もわからないという事か」
「その通りニャン。そもそもコイツら「ノブゥゥ~」以外喋らねぇし」
ジバニャンが投げやりに言う。実際問題、ちびノブはコミュニケーション能力が著しく低い。
唯一確かな情報といえば……。
「こいつらの好物は塩むすび。特に梅干し入りが至高らしい。ただし飽きると「ノブ(海苔だけ)」「ノブノブ(漬物添え)」と要求内容が変わる。あと最近は味変求めて「卵かけ塩おにぎり」を欲しがり始めたな。財布が痛ぇよホント」
堕天使は口を開けたまま固まっている。
一方で絶花は興味津々な目つきでちびノブを眺めていた。
「……可愛い」
ぽつりと呟く絶花。まさかお前もその沼にハマるのか……。
「ちっちょっと待て……つまり貴様らはこれをペットどころか軍団扱いして使役するつもりだと……?!」
「おう。ちなみにリーダー格はこいつ。メカノッブだ」
俺が指差した先。ほかのちびノブより一回り大きな黒いボディに金色の装飾。
胸には「超AI搭載」の文字プレートが光っている。
「おい、どう見ても無限に湧くGみたいだが……戦力として有効なのか?!」
「知らねぇよ。でも最近じゃお掃除してくれるし可愛いじゃん? さあ、拷問の時間だ!」
堕天使はあまりにも困惑してしまった。
「とりあえず、お前ら!こいつから吐かせられるだけの情報を吐かせろ!吐かせた奴には、どうやらこの駒王街にあるおにぎり屋のおにぎりを一つ、好きなのを選んで買ってやろう!」
「「「ノッブーーー!!」」
俺がおにぎり屋で有名なおにぎり屋さんをあげると、そのままちびノブ達は一斉に歓声を上げた。
そうして、ちびノブはその堕天使に近づく。
「ぐぎゃああああ!?」
堕天使の悲鳴がドア越しにリビングを震わせる。
俺は廊下に出ると背後の惨劇を遮るようにドアを閉めた。
「大丈夫なのかよアレ……」
ジバニャンが青ざめた顔で俺を見る。
「おにぎり一個で全力出すのがアイツらの可愛いとこだろ?」
肩をすくめて答えると、奥から絶花が心配そうに近づいてきた。
「太郎くん……さっきの天使さん……死んじゃわない?」
「大丈夫だって。ちびノブどもは殺しはしないさ。そういう教育してるからな」
半分嘘だ。アイツらに命令すれば簡単に命を奪える。だが今は情報が必要なだけ。
「よかった……」
ほっとした表情を浮かべる絶花。柔らかい輪郭の顎が俺を見上げてくる。こういう無防備な仕草がまた危うい。
「まぁ明日も学校だからな」
壁のアナログ時計は二十三時を指している。
「あっ本当だ!」「さっさとやるぞ」
「うっうん!」
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王