サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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王と剣士と猫 Ⅸ

割れたステンドグラスの隙間から月光が零れ落ちる。その銀の粒子が粉雪のように降り積もる聖堂で、俺は二つの凶器を構えたまま立っていた。

 

「聖母の微笑……まさか本物か」

 

火縄銃の銃口を微塵も揺らさず定めながら、紅丸としての口調で呟く。堕天使が得意げに掲げる緑の宝玉からは淡い魔力波が放射され、床に倒れたはぐれ悪魔祓いの傷痕をみるみる塞いでいく。

 

「フフ……見てみなさい。この聖なる輝きを。あなたみたいな野蛮な猫又ごときが触れていい代物じゃないわ」

 

紫紺の翼を広げた女堕天使は唇を歪めて嗤う。その指先が宝玉に触れるたび、掌から漏れる光が細胞レベルで修復を促す様子が透けて見える。

 

「不死身よ、私は。どれだけ傷つけようと即座に治ってしまう。貴様の刀も銃弾も無意味! これが……神に選ばれし者の証!」

 

勝ち誇った宣言に反応するように、俺は──

 

ふっと肩の力を抜いた。

 

安堵の吐息が自然と漏れる。それが意外だったのか、堕天使の笑みが僅かに硬直した。

 

「……安心したぞ」

 

「なんですって?」

 

「貴殿がそう言うなら」

 

火縄銃の安全装置を解除する金属音が聖堂に冷たく響く。

 

「拙者も手加減せずに済む」

 

引き金に指をかける。

 

銃身が描く水平線の先は──

 

堕天使の翼根部一点のみを照準。

 

バンッ!

 

雷鳴のような発射音。

 

魔力装填の銃弾が流星のように軌跡を描く。

 

それは堕天使が反応する遥か以前に

 

右の翼の付け根を焼き貫いた。

 

「ぐあっ!?」

 

灼熱の激痛が走る。鮮血が翼膜を染める。

 

それと共に、もう片手にある刀で反対側の翼も斬り落とす。

 

だが──すぐに翼の輪郭が光に包まれ再生が始まった。砕けた骨が結合し、羽がふわっと元通り広がる。

 

「ハッ! 言ったでしょう? なんどやっても──」

 

嘲笑が途切れる。

 

俺が再び火縄銃を構えたからだ。

 

「よかった。ちゃんと治るようだな」

 

「……え?」

 

「再生するなら遠慮は不要だ。幾度でも、壊してよいということであろう?」

 

銃口が今度は心臓部へ向けられる。

 

バンッ!

 

再度の轟音。

 

胸部を穿たれた堕天使は宙に鮮血を撒き散らし落下しかけるが──

 

即座に致命傷が閉じる。

 

しかし間髪入れず、紅丸の身体が弾丸と化して肉薄。

 

残る左翼の根本を袈裟懸けに切り落とす。

 

「ひっ……!」

 

再生。

 

切断面が泡立つように繋がり、禍々しい緑の光が皮膚を覆う。

 

だが、その光が完治する直前。

 

紅丸の刀が再び振り下ろされる。

 

翼を削ぎ落とす。

 

再生。

 

斬り捨て。

 

治癒。

 

斬り刻む。

 

治癒。

 

「やめっ……やめなさい!」

 

叫びながら堕天使が魔法陣を展開しようとする。

 

しかし紅丸は一切の慈悲を抱かず跳躍し

 

杖ごと堕天使の右腕を肘から薙ぎ払う。

 

鮮血。

 

再生。

 

火縄銃。

 

大腿部を撃ち抜く。

 

治癒。

 

「こんなはずじゃ……! こんなのおかしいっ!」

 

泣き叫ぶ堕天使に向かい、俺は冷ややかに告げる。

 

「大丈夫だ。貴殿は死なない。治るのだろう? ほら……何度でもな」

 

俺は火縄銃をホルスターに戻す。

 

代わりに両手で握るのは──翡翠色の妖炎が燃え盛る「断絶丸」。

 

「痛いのは嫌か?」

 

刃先に灯る燐火が堕天使の顔を青白く照らす。

 

「だがな、貴殿が見下した民達は、そのような絶望の中でも殺されたのだ。ならば、彼らの仇討ちとして、痛みを延々と与えるのも一興だろう」

 

刃が月光に煌めく。

 

断絶丸が一閃。

 

翼も肉体も等しく切り裂く。

 

だが治癒は続く。

 

無敵が枷となり、死に損ないの刑罰を味わうだけだ。

 

「やめてぇ……お願い……!」

 

涙と鼻水でグチャグチャになりながら懇願する堕天使。

 

「案ずるな。もう無駄な治癒はない」

 

「……まっ待ってくれ! そうだ!取引を……っ」

 

哀願を聞き流し、一拍。

 

『ヱクキューション!』

 

紅丸の体内で妖気が火花となって弾けた。

 

「──ッ!」

 

断絶丸の柄を握り締めた瞬間──

 

炎。

 

刃の奥深くから赤黒い焔が噴出した。

 

刀身全体が真紅の奔流に飲み込まれ、鍔元から切先までが轟々と燃え滾る。

 

紅丸の怒りそのものだ。

 

「怒髪天──」

 

大地を蹴る。

 

砂礫を撒き散らし紅丸が疾走する。

 

紫電が走るように堕天使へ詰め寄り、炎がその軌跡を赤々と焦がす。

 

「──横一文字斬りッ!!」

 

叫びと同時。

 

裂帛の刃が迸る。

 

横薙ぎの一閃──

 

翡翠色の妖炎が視界を焼くほど眩く閃いた。

 

ズガァァァンッ!!

 

爆裂する音圧。

 

横一文字の軌跡を炎が疾駆する。大気を灼き尽くす轟音が耳を劈く。断絶丸が空気の壁を切り裂く刃鳴りが鋭く鋭く響き渡る。

 

紅丸の赤い影が残像すら残さず堕天使の傍らを駆け抜けた後には──

 

裂けた肉体。

 

真っ二つに斬り裂かれた堕天使の姿があった。

 

炎の弧がまだ空中に漂い、斬撃の威力の凄まじさを物語る。空気が歪み、微かに震えている。

 

紅丸が止まる。

 

振り返ることなく肩で荒く息をつく。刀身に残るわずかな余熱が妖気の欠片をゆらめかせる。

 

「……峰打ちでござる」

 

低く呟く声が血塗られた聖堂に響いた。

 

そうしていると、こちらに近づく影が見える。

 

「あなたは一体何者」

 

そう尋ねてきたのは、先程までの悪魔の上司だと思われる人物。

 

故に。

 

「拙者は剣豪紅丸、いずれ妖怪達を統べる王となる者である」

 

そう、紅丸としての名を明かす。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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