サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
先日の教会の戦いから翌日の屋上。
その昼に、俺は中等部の屋上にて待ち合わせをしていた。
相手は、黒江 残月。
彼の噂は中学に入った当初から聞いていた。
曰く、“この学園の裏番的存在”
曰く、“学園最強の称号を持つ”
そんな人物が何故、俺を呼び出したのか不明だ。
いや、大体予想は出来る。
先日の教会での出来事に関する事だ。
「やっと来たか」
黒江 残月はこちらを睨む。
「少し寝坊した」
素直に謝罪しつつ彼の正面に立つ。
お互い視線を交わすことはない。
ただ風だけが吹き抜けていくだけだった。
しばらくの沈黙の後に先に口を開いたのはやはり彼の方だった。
「今日呼び出したのは他でもない」
「先日、俺が仕留めた堕天使達に関して何か言ってくると思ったけど違ったみたいだな」
「あぁ。今回に関しては感謝してるぐらいだ」
意外な回答に驚いたが平静を装うことに努めた。
正直言えばこの学園には多くの種族が暮らしている。もちろん中には危険思想を持つ者も少なくはないだろう。
だがそれでも……
「……そうか」
小さく呟いた後続けて言った。
「だったら俺達は同志となるのか?」
その問いに対して奴は首を横に振った後で言った。
「いいや違う。“味方”でもなければ “敵”でもないんだ」
そして更に言葉を続ける。
「ただ単純に利害関係が一致しているだけだ」
つまり協力関係を結ぶと言うことなのだろう。
まぁ当然と言えばその通りかもしれない。
何せこの街では最近になって頻繁に事件が起きているという情報もあるくらいだし……。
それだけに油断できない状況なのだと言えるだろう。
それにまだ何も決まっていないという状況の中で迂闊に行動するのは危険すぎるというものだろうからな。
ああ、そういうことかと。なるほどなるほど。
「君が言いたいことは分かったよ。つまり俺が会長に聞きたいのはこういうことだ」
残月がフェンス越しに僕を覗き込んでくる。
「なぜ君は敵を殺さない?」
「それはつまり君が『全部殺せ』と言いたいからか?」
「もちろん俺だって好き好んで殺したいわけじゃない。だけど害獣は排除するのが当然だろう?君のやり方では中途半端だ。その中途半端さが将来大きな禍根を残すんじゃないのか?」
「途中で面倒臭くなって帰る奴の言い分みたいだな」
「面倒臭いとかではなく効率の問題だ。一度敵と認めたなら徹底的に潰さないと」
僕は苦笑する。
「それってつまり鍋か?」
「鍋……?」
「例えばそこに煮えた鍋があってさ。蓋を開けたら中から湯気が出てきて熱い汁が溢れそうになったらどうする?蓋を閉めるか蓋を捨ててしまうか?俺は蓋を閉める派。会長は蓋ごと鍋をひっくり返す派」
「回りくどい例えは止せ。何が言いたいんだ」
「簡単だよ。蓋を捨てれば中の汁は冷めるけど鍋は使い物にならなくなる。一方蓋を閉めればいつか汁は落ち着く。俺は後者を選ぶ」
「その結果煮詰まって蓋自体が腐ったらどうする」
「まぁそういうこともあるかもしれない。でも少なくとも腐るのが確定してるわけじゃない。それに」
ここで僕はちょっと間を置く。
「腐るかどうかは蓋じゃなくて汁次第だろ?」
「……話がずれているぞ」
「ずれてないさ。君は敵を“害獣”として一律に見ている。でも悪っていうのは生き物と同じで種類があって性格もある。たとえば狂暴な山猫と家猫がいるだろ?君は両方まとめて駆除しようとしてる。でも俺は場合によっては躾ければ良いと思ってる。問題はそこだ」
「悪は悪だ。躾ければ良いというのは甘すぎる」
「じゃあ逆に聞くけど君のいう“悪”を判定するのは誰?」
残月が初めて少しだけ黙った。
「君自身じゃないのか?」
「俺自身と決めつけるのは危険だな」
「では誰が?」
「この世の全人類が共通して悪と認める存在だけを駆除すればいいんじゃないの?」
「そんな存在はいない」
「だから困るんだよ」
僕は首を振る。風が襟元を通っていった。
「例え百人が悪だと言っても一人が許せばそれは許されて然るべきじゃないか。百人対一で十対九百でも変わらない。少数意見も大事にするべきだ。俺はそれくらい緩くていいと思う」
「……結局何が言いたい?」
「要するにさ」
僕は視線を斜め上に向けた。
「悪を判断するのは今すぐじゃなくてもいいんじゃないかってこと」
「何故だ」
「未来の自分が判断しても良いって話だよ。今はとりあえず保留。でも未来の俺がやっぱり殺すべきだと思うならその時に殺せばいい。殺さないって思ったならその時はそのまま蓋をしておく。どうせ決めるのは自分の意思なんだから」
残月が眉間に皺を寄せる。
「では仮に“今”この瞬間に明らかに害を与える悪がいたらどうする?」
「そりゃその時は迷わず蓋を捨てるよ」
「じゃあ君は矛盾してないか?」
「矛盾もまた人生の醍醐味だよ」
「意味不明だ」
「分かってる」
僕は肩を竦めた。
「要するに俺は殺せるのに殺さないのが一番面白くないんだよね。殺すべき時に殺さなかったことを悔やむ人生より、殺したことを後悔する方がマシじゃないか?」
「君の言っていることの大半は理解できない」
「それでいいんだよ。理解は求めない」
僕は笑った。
「会長が納得できないならそれでいい。俺は俺のやり方でやる。徹底的にやるならそれも邪魔しない。ただお互いに足を引っ張らない範囲で自由にやろうって話だ」
風が強くなりフェンスがかたかたと揺れた。
残月が一度だけ小さく舌打ちをする。
「ならば」「…」
それと共に、その腕にある時計。
それは、俺の持つ妖怪ウォッチによく似ている。
だからこそ、俺は。
「「召喚」」
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王