サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
「ふん。なら好きにしろ」
残月が右手をゆっくりと掲げた。その指先に青い光が宿る。
「だったらここでどちらの考えが正しいか示せばいい」
「おいおい何をする気だ?」俺は反射的に身を引いた。
次の瞬間だった。屋上の空気が揺れる。残月の背後に巨大な円筒形の影が現れた。
「召喚」
目の前の景色がぐにゃりと歪み、次元が裂けるように何かが飛び出してきた。黒くて重厚な装甲に覆われた人型の物体だ。肩には巨大なミサイルポッドが積まれている。
「ドルル。出番だ」
ドルルと呼ばれたソイツは一言も発しないまま無言で構えた。
心の中で悪態をつきながらも俺は手首を返しウォッチを起動させる。
「来いよ――黒田坊!」『カモーン!ゴースト!』
叫んだ瞬間。霧のような靄が湧き上がり黒い法衣姿の巨漢が現れた。黒田坊はいつもの無表情で両手を合わせると一礼。
「お呼びにございますか、若」
「ああ。残念だけど」
俺はフェンスの方に一歩退く。
「どうやらこっちの生徒会長さんは戦争を起こすつもりらしい」
屋上に不釣り合いな兵器群が並ぶ光景。
黒田坊の両腕が大きく開かれる。法衣の裾が舞い、内側に仕込まれた大量の暗器が鈍い光を放った。一秒でも早く距離を詰めようとするその巨躯が地を踏み抜く。
ドォン―――!
地面が呻くような轟音と共に屋上のコンクリートが放射状に罅割れる。振動は塔屋の金属パネルをガタガタと共振させ、フェンスの支柱が痙攣した。それでも黒田坊は全く減速しない。前方へ伸ばした脚がまるでスプリングのようにしなり、次の瞬間には倍の速度で前進する。
「――弾幕を形成しろ」
残月の無感情な命令。ドルルの肩部ポッドが重々しく旋回し、ミサイルベイが開放される。内部で圧縮されていた複数の砲弾が火薬室で唸りを上げた。一瞬の間もなく白い噴煙と共に八発の小型巡航ミサイルが扇状に吐き出される。
「!」
黒田坊は左右へ目玉を転がし、“予測する”。三発は回避不能、四発は誘導可能なコース、一発は空中炸裂――視界一杯に拡がる飛翔体は全て計算済みだった。
最初の一発が空気を裂きながら到達する直前――黒田坊の胴体が瞬きひとつする暇なく捻じ曲がる。
バキン!
胸部中央から“鋼鉄の爪”のような形状の暗器が飛び出し、直撃寸前のミサイルを受け止め粉砕。至近距離での炸裂を紙一重で避け、更に炸薬を“喰らう”ようにしてその衝撃を吸収する。
続けて二発目が迫る。黒田坊は左腕を大きく振り抜き、袖口から飛び出した大型の槍を投擲。“槍”が回転しながらミサイルの弾頭へ突き刺さり空中で爆散。黒煙を裂くようにして飛沫が散り、破片が屋上のフェンスをガラスのように砕き割った。
三発目――回避不能と判断した黒田坊は咄嗟に両膝をつき地面を叩く。体当たりする形でミサイルを“受け止め”、床へ埋まり込むような格好で被害を抑える。衝撃で制服の黒布が焼き切れ、筋肉質の上腕が露出した。
四発目と五発目が同時に来た。空中で急旋回するミサイルを視線だけで捉えた黒田坊は腰帯に手を滑らせ――。
「展開!」
腕から光の薄膜が出現。極薄の障壁が飛来物を迎撃し弾き飛ばす。表面温度が急激に上昇しバチバチと火花が弾けた。黒田坊は障壁越しに見た六発目へ照準を合わせる。
「――砕く」
低く呟くと同時に障壁ごと左拳を突き出す。拳は光膜を貫通し飛行中のミサイルへ正拳。金属同士がぶつかる硬質な音が炸裂し――。
ボシュン!
ミサイル内部の推進燃料が連鎖的に破裂。膨大な熱風が吹き上がり屋上を包む。黒田坊の法衣が風圧で捲れ上がり、黒髪が激しく靡いた。
残る七発目。黒田坊はもはや正面から受けるつもりもない。僅かに身を屈め、加速。一直線にドルルへ突貫する。同時に脚裏の特殊靴底が摩擦熱で発火。オレンジ色の残光を引きながら屋上を疾走し、わずか五秒で五十メートル超の距離をゼロに詰める。
「……接近」
残月の呟きと共にドルルの背面ハッチが解放される。中から四基の自律迎撃ユニットが射出。空中で四つの方向に分散し、黒田坊を取り囲む。
ユニットが一斉にエネルギー砲を照射開始。四条の青白い光線が交錯し黒田坊へ直撃――したはずが。
シュゥゥゥウッ!
突如空間が歪む。黒田坊の背後から出現した巨大な“影”が光線を完全吸収。直後、影は触手状に分岐し四方へ襲いかかりユニットを串刺しにする。
ギィン!
ユニットが短絡し火花を散らす。黒田坊はその隙を逃さない。影を足場にして跳躍しドルルの懐へ飛び込む。
「撃破」
黒田坊が振り下ろした黒い法杖がドルルの胸甲に接触する寸前――。
ズザッ!
ドルルの前面装甲が左右にスライドし内部機構が露出。収納式の大型カウンターを発動させ、法杖を受け止める。
衝突。凄まじい金属音と火花。衝撃がドルルのフレームを震わせ、屋上の梁さえ軋ませる。
「押し返せ」
残月の指示によりドルルが逆に力を加える。甲高い悲鳴を上げる黒い装甲板。法杖を挟み込んだカウンターが徐々に押し戻し――。
カシャン!
突如内部で炸薬が作動。黒田坊の法杖が無理矢理“引き千切られた”。
「――ッ」
黒田坊は即座に左手で暗器の槍を回転させ防御体制へ。その瞬間、ドルルの副砲が閃光と共に火を噴く。
ズガン!
目を焼くような光の中、黒田坊の左肩が派手に爆ぜる。赤黒い火花と血飛沫が四散しフェンスを汚す。
「撤退準備」
黒田坊は一気に後方へ飛び退く。吹き出した血液が空中で黒い霧となり凝固、硬化。即席の盾となる。
ズシン……
ドルルが一歩踏み出し重低音を響かせる。傷一つない鉄色の装甲が陽を反射し鈍く輝いた。
「――互角か」
残月が小さく呟く。
「それにしても、いきなりなんだ?こんな戦いをして」
「…力を確かめただけだ。まぁ、それだったら、簡単には殺されないだろうな」
「ふぅん、あっそ」
「若、そんな軽く許しても良いのですか」
そうしながら、俺の方に黒田坊を見つめる。
「それに、戦いが始まる直前に、この場で結界みたいなのを作ったから少なくとも人の為に考えているのは間違いないからな」
周囲を見つめると、そこにはゆっくりと再生される光景。
「そういう事だ」
それと共に、俺達は互いにその場を離れていく。
「それにしても、こちらに来てからも、大変そうですが」
「まぁ、色々とな」
次回の王は
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