サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
淡い光が差し込む廊下の先から、静かに足音が近づいてきた。
まるで舞踏会にでも向かうかのような気品をまとい、男が現れる。
彼は軽く胸に手を当てると、芝居じみた優雅さで一礼した。
「初めまして。ディオドラ・アスタロトと申します。以後、お見知り置きを」
その声音には柔らかさがあるのに、どこか湿った底知れなさが混じっている。
絶花は一歩だけ後ろに重心を引いた。
(……誰? こんなタイプ、今まで会ったことないんだけど)
微笑んでいるのに目の奥が笑っていないように見えて、胸の奥に小さな警戒心が灯る。
一方、太郎は腕を組んだまま、ディオドラを頭からつま先までジロッと値踏みした。
「……なんだよ、やたら丁寧なヤツだな。胡散臭ぇ」
彼の正面切った一言にも、ディオドラは微笑みを崩さない。
むしろ楽しんでいるような気配すら漂わせた。
「ふふ、誤解なさらず。私はただ、あなた方に敬意を示したいだけですよ。
――もちろん、これから長く良い関係を築くためにも」
その言い回しがまた絶妙に怪しい。
絶花は心の中で呟く。
(……うん、やっぱりこの人、何か裏がありそう)
太郎も鼻で笑い、
「言っとくが、俺はそういう“丁寧なだけの野郎”は信用しねぇからな」
と釘を刺した。
だが、ディオドラは深い笑みを浮かべたまま、まるでその反応さえ計算済みのように言った。
「それでも構いませんよ。いずれ、私という人間を知っていただければ――
必ず、評価は変わりますから」
その言葉は、丁寧でありながら、どこか底冷えする響きを含んでいた。
絶花の首筋に、ぞわりとした感覚が走った。
絶花の肩がほんのわずかに強張ったのを見て、俺は自然に前へ踏み出していた。
まるで自分の影が勝手に動いたみたいに、絶花の前に立って――盾になるように。
ディオドラの視線が俺に向く。
相変わらず上品ぶった微笑みだが、あの目は冷たい。ぞくりとするぐらい。
「……ふむ。ずいぶんと積極的に出られますね、太郎さん」
「当然だろ。アヴィ先輩に相応しくねぇ男を、黙って通すわけにはいかねぇ」
真正面から言ってやった。
こういう時だけは妙に口が回る。桃井タロウ並みに。
ディオドラの微笑みがわずかにひび割れた。
その手で触れた仮面――ただの飾りか、素顔の一部を覆うためのものか――がカチャリと音を立てる。
「……アヴィさんに相応しくない、ですか。それはまた手厳しいご意見だ」
声は穏やかだが、仮面の奥の瞳が一瞬だけ三日月のように細くなった。
次の瞬間、ディオドラはゆっくりと首を傾け、まるで教会で祈りを捧げる神父のような静けさで言った。
「ですが――あなた、人間ですよね?」
その言い方には、砂を吐くほどの軽蔑が、甘い香水のように隠されていた。
「人間風情が、何を語るというのです?」
絶花の肩がビクッと跳ねる。
黒田坊ですら、空気の変化に気づいて息を呑んだ。
俺はと言えば――むしろスッと腹の底が冷えた。
「あぁ、そういうタイプか。
仮面だけ立派で、中身は安い優越感でできてるってやつだな」
ディオドラの目がわずかに見開かれた。
人間にここまで言い返されたことなんて、きっと一度もないのだろう。
「……あなたは、自分が何と口をきいているか理解していますか?」
「理解してるよ。媚びへつらうつもりもねぇ。
アヴィ先輩を利用しようとする奴なら、なおさらだ」
「・・・そうですか」
そうして、奴は離れた。
「・・・悪いな、俺、あいつ嫌いだわ」
「・・・うぅん、今回は私も太郎と同意見だよ」
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王