サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
森の上空が一瞬で戦場に変わった。
黒い翼を広げたディオドラの眷属たちが、まるでファンキーな不良エンジェルみたいに旋回しながら魔方陣を展開してる。
「おっと……派手な花火大会の始まりかい?」
紫色の魔力弾が雨みたいに降り注ぎ、森の木々がボンボン焦げる。
だが――遅いねぇ!
俺はすでに木の幹を蹴り上げ、枝から枝へと“ワイルドジャンプ”。
二丁拳銃をクルッと回しながら構えた。
「さぁて、ダンスパーティでも始めるとしますか!」
パンッ!!
放った弾丸は魔力弾より速く、上空の悪魔の翼をかすめて飛ぶ。
「くっ……どこから撃ってきている!?」
「ハァイ、こっちだよ!」
だけどすぐに別の枝に移動。
位置を悟らせる暇なんて与えない。
パンッ! パンッ!
二発撃てば、眷属たちのフォーメーションが乱れ始める。
「右だ! いや左か!?」「くそ、位置が分からん!」
「オ〜ウ、ご苦労さん! 森は俺のワンダーランドなんだぜ!」
木々の影をすり抜けるように移動しながら、俺は軽快に笑う。
枝から枝へ、足音ひとつ立てずに飛び回る俺のスピードは――
まさに猫。
アメリカの荒野を駆けるワイルドキャットだ。
ディオドラだけが落ち着いた声を保とうとしていた。
「地上だ……位置さえ分かれば狙い撃てる。落ち着け!」
「じゃあ当ててみなよ! ほらッ!」
俺は真上に向けて、二丁拳銃をクロスさせるように連射した。
バババババッ!!
弾丸は木々の隙間を縫って四方へ散り、眷属たちの顔面の横をかすめる。
「うわっ!?」「ひっ……!?」
「どうした〜? 空のフライングモンキーズ!
そんな距離じゃ俺は捕まらないぜぇ!」
眷属の一部がキレて森へ突っ込んでくる。
「もういい! 下へ降りろ!!」
「追い詰めるぞ!!」
「ヘイヘイ、ノリが良いじゃないか! カモーン、ベイビー!」
ディオドラの焦り声が聞こえる。
「馬鹿者! それは相手の誘導だ!!」
遅いっての。
俺はニヤリと笑って、木の影に姿を消す。
「さぁ、ディオドラ軍団……
ワイルドボーイのジャングルへようこそ!」
二丁拳銃が月光を反射し、森の奥へと消えていく。
「森の中で迷子になった悪魔どもを、
ワイルドに狩り尽くすとしようか!」
――ここからが、本当のショータイムだ。
森の奥へ誘い込まれたディオドラの眷属たちが、羽音を立てて降下してくる。
空気がざわつき、木々が揺れた。
その中心に――黒田坊がいた。
闇に紛れるように立つ巨体。
呼吸ひとつ乱さず、ただ静かに獲物を待つ狩人の姿。
「……来たな」
黒田坊の声は低く、重い。
その一言に、森の空気が変わった。
眷属の一人が警戒して叫ぶ。
「なんだこいつ……? ただの僧兵か――」
その瞬間――黒田坊の法衣が大きく広がった。
バサッ!!
袖、裾、背の裂け目から、無数の刃が飛び出す。
日本刀、両刃剣、槍、鎌、鎖分銅、手裏剣。
種類も形状もバラバラな暗器が、“全方位”へ一斉に射出された。
「ぐあッ!?」「避け――!」
夜の森が金属音に染まり、悪魔たちは悲鳴を上げながら地へ落ちていく。
黒田坊は微動だにしない。
腕を振るうことすらせず、ただ淡々と武器を放つだけ。
だが――敵は近づけない。
「な、なんだこの攻撃密度……!」
「闇の中から……どこから来るかわからない!!」
黒田坊が低く呟いた。
「俺は、若と姫を護るために刃を振るう……
その覚悟が、貴様らごとき悪魔に劣ると思うなよ」
怒気を含んだ声とともに、第二波が放たれた。
鎖分銅が木々を切り裂き、槍が闇を貫き、手裏剣が雨のように飛ぶ。
逃げ道など存在しない。
眷属は抵抗する間もなく次々と倒れていった。
その様子を木の影から見ていた俺は、思わず呟いた。
「……さすがだな、黒田坊」
黒田坊は振り返らず、ただ一言だけ返す。
「当然でござる、若。俺は若の“影”よ。
護る時は、何千、何万の刃を振るうだけだ」
その言葉とともに、森の闇が完全に黒田坊の支配下に置かれた。
地上戦は――ほぼ黒田坊が制圧した。
黒田坊が次々と眷属を沈めていくその頃──
上空では異様な焦りが漂い始めていた。
「……何だ、この数の減りは……ありえない」
ディオドラの声が震えている。
さっきまで優雅ぶっていた仮面の下に、焦りが隠しきれていないのが分かった。
レーティング・ゲーム。
人数差は絶対的なアドバンテージのはずだった。
それが崩れている。
「……忌々しい僧兵め……予想外の戦力を……!」
ディオドラの視線が森の奥を鋭く探り始めた。
森全体が、静かに、わずかに震えているように感じられたその時──
「……いた」
ディオドラの声が低く、湿り気を帯びる。
森の奥、木々の隙間から──アヴィ先輩の姿が見えた。
ディオドラの目が、ぎらりと光った。
「勝利条件は“キングの撃破”……つまり──
アヴィ様を倒せば、私の勝ちだ」
その声音は、完全に“紳士”ではなかった。
恋慕でも、婚約者への気遣いでもない。
欲望と支配欲と、勝利への歪んだ執念。
「あぁ……アヴィ様。あなたさえ倒せば、すべて終わるのですよ」
ディオドラの背後に、巨大な魔法陣が展開される。
毒々しい紫の光が森全体を照らし始めた。
「アヴィ先輩……!」
俺の喉が勝手に叫ぶ。
その瞬間、ディオドラが手を突き出した。
「“王”を落とす……!
終わりだ、アヴィ・アモン!!」
魔力の奔流が森を焼くように走る。
方向は一直線。
完全にアヴィ先輩を狙い撃ちだ。
アヴィ先輩は一瞬、息を呑み、身体が固まっていた。
眷属を持たない“王”が最も脆い瞬間。
森が悲鳴を上げるように光が迫る。
「アヴィ先輩ッ!!」
俺は躊躇なく地を蹴った。
ディオドラの魔力弾がアヴィ先輩へ一直線に迫る。
しかしアヴィ先輩は――怯まなかった。
彼女は静かに一歩前に進み、ホルスターから小さなナイフを抜き取る。
武器としては貧弱。それでも、その手の震えは一切ない。
ディオドラが鼻で笑う。
「そんな刃で何をするつもりですか?
“才能がない”あなたが、私に抗うなど滑稽ですよ」
紫の魔法陣が輝き、森を焼く光が放たれる。
だがアヴィ先輩は落ち着いていた。
魔力弾が迫る瞬間、身体を低く沈め、
地面の根を蹴り、滑り込むように回避する。
「なっ……!?」
ディオドラの驚愕が森に響く。
アヴィ先輩は、呼吸を乱しながらもはっきりと言った。
「そうですよ、ディオドラ様。私は……才能なんてありません。
“盾”の血も、魔力の操作も、人よりずっと弱いです」
ナイフを構えたまま、彼女は続けた。
「でも……だからこそ、鍛錬だけは欠かしませんでした。
才能の代わりに、毎日走って、避けて、何度も転んで……
あなたに笑われても続けたんです」
次の魔力弾が来る。
だがアヴィ先輩は枝を蹴って跳ね、回避しながら間合いを詰めた。
「才能はなくても、努力することは誰にも邪魔できません!」
ナイフの切っ先がディオドラの仮面の横をかすめる。
その一撃に、ディオドラは本気で目を見開いた。
「……ま、待て……貴女が……私に触れた……?」
アヴィ先輩は肩で息をしながらも、しっかりとディオドラを見据えて言う。
「努力を嘲笑うあなたなんかのために……諦めてあげる理由はありません!」
その瞬間、ディオドラの表情にひびが入った。
怒りとも焦りともつかない、醜い感情が顔を歪ませる。
完全なる“隙”が生まれた。
俺は木の上で銃を構えながら、思わず笑みが漏れた。
「……やるじゃねぇか、アヴィ先輩。
才能がなくても、あんた……強ぇよ」
枝がしなる。
俺は次の一手を放つため、さらに加速した。
アヴィ先輩が決定的な隙を作ったその瞬間、
俺の身体はもう空へ跳んでいた。
木の幹を二つ蹴って反動を得た俺は、上空へ大きく跳躍する。
空気が切り裂かれ、ディオドラと視線が交差した。
『エクゼキュート!』
二丁拳銃を天に掲げると、銃身から黄金の光が吹き上がった。
弾倉が回転し、エネルギーが収束していく。
「なっ……ッ!? どこから湧いた……!」
ディオドラが動揺して声を上げるが、もう遅い。
俺は銃を向けて叫ぶ。
「これが俺のとっておき――
黄昏乱れ撃ち!!」
バシュゥゥッ!!
空に広がるように、光弾が一斉に乱れ飛ぶ。
無数の弾丸が流星群みたいに舞い、ディオドラ目がけて降り注ぐ。
ディオドラの表情が一変した。
「……防御魔方陣展開ッ!! 私を侮るなァ!!」
巨大な紫の魔法陣が盾のように前に出現する。
複数の層を重ねた、悪魔の防御術式。
たしかに防御は固い。
だが――
「ヘイヘイ! ワイルドボーイを甘く見るなよ!」
俺の黄昏乱れ撃ちは、単発の威力じゃねぇ。
“量”が――ケタ違いだ。
ババババババババババババッ!!!
弾丸が防御魔方陣にぶつかるたび、紫の膜が激しく揺れる。
「ぐっ……これだけの弾数を……!?
ありえ、な……ッ!!」
「アメリカンスタイルってのはなぁ!
細けぇ理屈より“勢い”と“ノリ”だッ!!」
俺はさらに撃つ。
森全体が光に染まり、魔法陣がきしむ音が響く。
そして――
バキィィィィィン!!
魔方陣が、割れた。
「ば、馬鹿な……! 私の防御が……この世界の人間風情に……!」
悲鳴を上げたディオドラに、最後の光弾が直撃する。
眩い閃光。
ディオドラの身体が弾き飛ばされ、翼が砕け、森の地面へ叩きつけられる。
地面がめくれ上がり、土煙が舞い上がった。
俺は軽やかに着地し、銃をクルッと回して腰に収める。
「ワイルドボーイ、ワイルドに勝利ってね」
煙の中で倒れ伏すディオドラは、信じられないという顔のままだ。
「……なぜ……なぜ私が……この私が……ッ!」
俺はニッと笑った。
「理由は簡単だぜ、ディオドラ。
あんたは“上から見てるだけ”だった。
でも俺たちは違う。
大切な仲間がいるから、全力で地面を蹴って戦えるんだ」
アヴィ先輩が胸に手を当てて、小さく息をついていた。
恐怖じゃない。
安堵と、誇りに満ちた顔。
勝負は――決まった。
レーティング・ゲーム、勝者は俺たちだ。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王