サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
屋上のフェンスにもたれかかりながら、俺は空を見上げていた。
事件が終わった翌日の放課後。風はやけに穏やかで、昨日の修羅場が嘘みたいだ。
「……あの、本当にありがとうございました!」
突然、目の前でアヴィ先輩が深々と頭を下げた。
「え、えっ!? せ、先輩、そんな……!」
絶花が慌てて両手を振る。まるで謝られる側の経験値がゼロみたいな反応だ。
「本当にです。太郎君も、絶花ちゃんも……私一人じゃ、絶対に無理でしたから」
俺は腕を組んだまま、いつもの調子で答える。
「礼を言われるほどのことはしてない。頼まれたからやった。それだけだ」
我ながら偉そうだとは思うが、事実でもある。
絶花が横から小声で言ってきた。
「太郎、もう少し言い方ってものが……」
「事実を述べただけだ」
アヴィ先輩は一瞬ぽかんとしたあと、くすっと笑った。
「ふふ……太郎らしいね」
その後、話題は自然と“あの婚約”の件に移った。
「正式に、完全破棄になったよ!」
アヴィ先輩は晴れやかな顔でそう言った。
「おお、それはめでたいな」
「よ、良かったです……!」と絶花も胸を撫で下ろす。
どうやらディオドラは、今回の一件で相当立場が悪くなったらしい。
才能がないと見下していた相手――つまりアヴィ先輩に、真正面から負けた。
その結果、“アスタロト家の面汚し”として、家からも派閥からも徹底的に締め上げられている、という噂だ。
「……あの人、大丈夫なんでしょうか」
絶花が少し不安そうに言う。
俺は即答した。
「気にする必要はない」
「でも……」
「自業自得だ。努力を嘲笑った結果、努力した人間に負けただけだ」
アヴィ先輩も、こくりと頷く。
「私も……同じ意見です。少し可哀想だとは思いますけど、間違っていたのはディオドラだったから」
その言葉は、驚くほどはっきりしていた。
もう、婚約に怯えていた頃の先輩じゃない。
「というわけで!」
アヴィ先輩は両拳をぐっと握りしめる。
「今日も一日、頑張ります! 部活も、勉強も、遅刻しないのも!」
「最後のは特に重要だな」
俺が言うと、
「うっ……が、頑張ります!」
絶花が吹き出す。
「ふふ、じゃあ私、先輩としてもっとしっかりしないとですね!」
「無理はするな」
「はい! ……ほどほどに!」
屋上に、三人分の笑い声が響いた。
どうやら、この学園の日常は――今日も平和らしい。
その頃――俺達がいない街。
薄暗い地下礼拝堂のような空間で、ディオドラ・アスタロトは一人、床に膝をついていた。
高価だったはずの衣服は乱れ、仮面は砕けて足元に転がっている。
「……ありえない……」
震える声が、何度も同じ言葉を繰り返す。
「才能がない女に……盾も扱えない、落ちこぼれに……この私が……」
拳が床を叩く。
鈍い音が響き、指先から血が滲んだが、ディオドラは気にも留めなかった。
脳裏に浮かぶのは、ナイフを構え、怯まずに立っていたアヴィの姿。
努力を語り、自分を真正面から否定した言葉。
「……許さない……」
憎悪が、ゆっくりと、しかし確実に心を侵食していく。
「アヴィ・アモン……貴様さえいなければ……」
その時だった。
「――面白い感情だ」
背後から、低く愉しげな声が響いた。
ディオドラがはっと振り返る。
そこには、闇と同化するような“影”が立っていた。
姿は曖昧で、性別も年齢も判別できない。ただ、その存在だけが異様に“濃い”。
「誰だ……?」
「名乗るほどの者ではない。ただ……敗北を噛みしめる者に、道を示す者だ」
影は、ゆっくりとディオドラに近づく。
「力を奪われ、誇りを踏みにじられ……それでも、まだ終わりたくないだろう?」
ディオドラの呼吸が荒くなる。
「……終わるものか……私は……私は……!」
「ならば、選べ」
影が囁く。
「正義に見捨てられた者の居場所を。
憎しみを力へと変える“渦”の中へ――」
その言葉と同時に、影は闇に溶けるように消えた。
地下に残されたのは、歪んだ怒りと、行き場を失った野心だけ。
ディオドラは、ゆっくりと立ち上がる。
「……次は、必ず……」
その呟きは、後の事件の始まりである。
次回の王は
-
妖怪王
-
機械王
-
怪獣王
-
幻想王