サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

550 / 707
兵器と僧侶の戦争 Ⅹ

屋上のフェンスにもたれかかりながら、俺は空を見上げていた。

事件が終わった翌日の放課後。風はやけに穏やかで、昨日の修羅場が嘘みたいだ。

 

「……あの、本当にありがとうございました!」

 

突然、目の前でアヴィ先輩が深々と頭を下げた。

 

「え、えっ!? せ、先輩、そんな……!」

 

絶花が慌てて両手を振る。まるで謝られる側の経験値がゼロみたいな反応だ。

 

「本当にです。太郎君も、絶花ちゃんも……私一人じゃ、絶対に無理でしたから」

 

俺は腕を組んだまま、いつもの調子で答える。

 

「礼を言われるほどのことはしてない。頼まれたからやった。それだけだ」

 

我ながら偉そうだとは思うが、事実でもある。

絶花が横から小声で言ってきた。

 

「太郎、もう少し言い方ってものが……」

 

「事実を述べただけだ」

 

アヴィ先輩は一瞬ぽかんとしたあと、くすっと笑った。

 

「ふふ……太郎らしいね」

 

その後、話題は自然と“あの婚約”の件に移った。

 

「正式に、完全破棄になったよ!」

 

アヴィ先輩は晴れやかな顔でそう言った。

 

「おお、それはめでたいな」

「よ、良かったです……!」と絶花も胸を撫で下ろす。

 

どうやらディオドラは、今回の一件で相当立場が悪くなったらしい。

才能がないと見下していた相手――つまりアヴィ先輩に、真正面から負けた。

その結果、“アスタロト家の面汚し”として、家からも派閥からも徹底的に締め上げられている、という噂だ。

 

「……あの人、大丈夫なんでしょうか」

絶花が少し不安そうに言う。

 

俺は即答した。

「気にする必要はない」

 

「でも……」

「自業自得だ。努力を嘲笑った結果、努力した人間に負けただけだ」

 

アヴィ先輩も、こくりと頷く。

 

「私も……同じ意見です。少し可哀想だとは思いますけど、間違っていたのはディオドラだったから」

 

その言葉は、驚くほどはっきりしていた。

もう、婚約に怯えていた頃の先輩じゃない。

 

「というわけで!」

アヴィ先輩は両拳をぐっと握りしめる。

 

「今日も一日、頑張ります! 部活も、勉強も、遅刻しないのも!」

 

「最後のは特に重要だな」

俺が言うと、

 

「うっ……が、頑張ります!」

絶花が吹き出す。

 

「ふふ、じゃあ私、先輩としてもっとしっかりしないとですね!」

 

「無理はするな」

「はい! ……ほどほどに!」

 

屋上に、三人分の笑い声が響いた。

どうやら、この学園の日常は――今日も平和らしい。

 

その頃――俺達がいない街。

 

薄暗い地下礼拝堂のような空間で、ディオドラ・アスタロトは一人、床に膝をついていた。

高価だったはずの衣服は乱れ、仮面は砕けて足元に転がっている。

 

「……ありえない……」

 

震える声が、何度も同じ言葉を繰り返す。

 

「才能がない女に……盾も扱えない、落ちこぼれに……この私が……」

 

拳が床を叩く。

鈍い音が響き、指先から血が滲んだが、ディオドラは気にも留めなかった。

 

脳裏に浮かぶのは、ナイフを構え、怯まずに立っていたアヴィの姿。

努力を語り、自分を真正面から否定した言葉。

 

「……許さない……」

 

憎悪が、ゆっくりと、しかし確実に心を侵食していく。

 

「アヴィ・アモン……貴様さえいなければ……」

 

その時だった。

 

「――面白い感情だ」

 

背後から、低く愉しげな声が響いた。

 

ディオドラがはっと振り返る。

そこには、闇と同化するような“影”が立っていた。

姿は曖昧で、性別も年齢も判別できない。ただ、その存在だけが異様に“濃い”。

 

「誰だ……?」

 

「名乗るほどの者ではない。ただ……敗北を噛みしめる者に、道を示す者だ」

 

影は、ゆっくりとディオドラに近づく。

 

「力を奪われ、誇りを踏みにじられ……それでも、まだ終わりたくないだろう?」

 

ディオドラの呼吸が荒くなる。

 

「……終わるものか……私は……私は……!」

 

「ならば、選べ」

 

影が囁く。

 

「正義に見捨てられた者の居場所を。

憎しみを力へと変える“渦”の中へ――」

 

その言葉と同時に、影は闇に溶けるように消えた。

 

地下に残されたのは、歪んだ怒りと、行き場を失った野心だけ。

 

ディオドラは、ゆっくりと立ち上がる。

 

「……次は、必ず……」

 

その呟きは、後の事件の始まりである。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。