サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
火黒の話を聞き終えたあと、俺は自然と考えを巡らせていた。
エクスカリバー、堕天使コカビエル、そしてこの街で起き始めている異変。
どれも断片的だが、確実に同じ方向を向いている。
「……調べるしかないな」
そう口にすると、脹相が静かに頷いた。
弟を守るという意思が、その背中からはっきり伝わってくる。
その様子を見て、火黒は楽しそうに鼻で笑った。
「真面目だねぇ。動きが早いのは嫌いじゃねぇ」
そして、軽く伸びをすると、屋台から一歩離れる。
「俺は別行動だ」
「何か掴んでるのか?」
俺が聞くと、火黒は振り返り、意味深な笑みを浮かべた。
「面白い奴がいてな。
ちょっと観察しとく価値がある」
それだけ言い残し、火黒は夜の闇へ歩き出す。
敵か味方か、相変わらず分からない。
火黒の背中が闇に溶けていくのを見送りながら、脹相は一歩も動かなかった。
その視線は鋭く、明確な警戒を帯びている。
「……信用ならん」
低く吐き捨てるような声だった。
「弟。あの男は危険だ。
敵でも味方でもない者ほど、最も予測がつかない」
「だからって、放っておくわけにもいかないだろ」
俺が言うと、脹相は一瞬だけ黙り込み、すぐに結論を出した。
「二人きりで行動させるのは危険だ」
そう言って、彼は静かに手を上げる。
「来い」
次の瞬間、空気が歪み、屋台の影から巨躯が姿を現した。
黒い法衣に身を包んだ男――黒田坊だ。
「お呼びでしょうか、若」
「ああ」
脹相は火黒が去った方向を顎で示す。
「今から、あの男と行動を共にしろ。
目を離すな。だが、無理に止めるな」
黒田坊は一礼し、短く答える。
「御意」
そうして、音もなく夜の闇へ消えていった。
俺はその背中を見送りながら、胸の奥に小さな緊張を覚える。
信頼と警戒が、同時に動き始めた――そんな感覚だった。
黒田坊が闇へ踏み出そうとした、その直前だった。
脹相が低く声をかける。
「待て、黒田坊」
足を止めた黒田坊は、静かに振り返り、脹相の顔を見る。
その目はいつも通り無表情だが、問いを受け取る準備はできていた。
「……一つ、聞いておきたい」
脹相は一拍置き、言葉を選ぶように続ける。
「万が一だ。
あの男が弟に牙を剥く兆しを見せた場合――どうする」
空気が、わずかに張り詰めた。
屋台の灯りが揺れ、夜風が二人の間を抜ける。
黒田坊はすぐには答えなかった。
だが迷っている様子でもない。
「若の命が最優先です」
それは、即答だった。
「若が止めよと仰れば止め、
排せよと仰れば、その時は迷いません」
淡々とした声。
しかし、その中に揺るぎはない。
脹相はそれでも視線を外さず、さらに問いを重ねる。
「もし……若が決断を躊躇した場合は?」
黒田坊は、ほんのわずかに首を傾けた。
「その時は」
一拍。
「脹相殿のご判断にも、私は同意します」
その言葉に、脹相の眉がわずかに動く。
「若は、信じると決めた者を簡単には切り捨てません。
それが美徳であり、同時に危うさでもある」
黒田坊は一礼する。
「故に、若の傍には我らが必要なのです」
脹相は静かに息を吐いた。
「……分かっている」
短くそう答え、脹相は道を譲る。
「行け。
だが決して、目を離すな」
黒田坊は深く一礼し、影の中へ溶けていった。
残された俺は、そのやり取りを黙って聞きながら、胸の奥で小さく覚悟を固めていた。
次回の王は
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妖怪王
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怪獣王
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幻想王