サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
宙に浮かぶコカビエルは、紅丸の姿を値踏みするように見下ろしていた。
その表情に、苛立ちよりも先に浮かんだのは――興味だった。
「ほう……面白い力だな」
羽を揺らし、愉快そうに笑う。
「名も知らぬ剣士よ。
その力、ただ守るためだけに使うには惜しい」
紅丸――拙者は、刀を下ろさぬまま一歩前へ出る。
「拙者の名は剣豪紅丸。
名を問う前に刃を振るうとは、堕天使も随分と無粋であるな」
「ははは! 気に入ったぞ」
コカビエルは両腕を広げる。
「どうだ?
戦争はいいぞ。血が流れ、世界が壊れ、力ある者だけが笑う」
「お主も分かっているはずだ。
この力は、争いを望んでいる」
一瞬、拙者は考える素振りを見せた。
そして――小さく鼻で笑う。
「確かに、戦は嫌いではない」
その言葉に、コカビエルの笑みが深まる。
「なら――」
「だがな」
拙者は刀を構え直し、切っ先を真っ直ぐ向けた。
「拙者が斬るのは、
戦を起こしたい者ではない」
一拍。
「斬るべきは、
守る者の前に立ちはだかる者のみ……の巻!」
空気が張り詰める。
紅丸の背後で、兵藤たちが息を呑んだ。
コカビエルは肩をすくめ、つまらなそうに言う。
宙に浮かぶコカビエルは、紅丸の構えを見て、ふっと嗤った。
まるで思い出したかのように、軽い調子で口を開く。
「そういえば、一つ教えてやろう」
その声音に、妙な余裕が混じる。
「聖書の神は――もう死んでいる」
その言葉が戦場に落ちた瞬間、周囲がざわめいた。
悪魔も、教会の者も、理解が追いつかず息を呑む。
絶望と動揺が、波のように広がっていく。
だが。
拙者――剣豪紅丸は、眉一つ動かさなかった。
「……それがどうした」
あまりに淡々とした返しに、コカビエルが目を細める。
「驚かんのか?」
「拙者は、神を見たことがない」
刀を肩に担ぎ、静かに言い放つ。
「生きているのか、死んでいるのか。
それすら分からぬ存在を突きつけられても、
今さら騒ぐ道理はなかろう」
「ほう……」
コカビエルは愉快そうに笑う。
「ならば問題ないな。
信仰が崩れ、嘆く者が生まれるのも、戦の彩りだ」
そう言って、彼は視線を下げた。
混乱の中で膝をつき、顔を伏せる者たち――
神の死を告げられ、心を折られた者たちへ。
光が、再び集束する。
「悲しむ者から壊れる。
それが一番、音がいい」
その瞬間。
「――待て」
拙者の声が、低く戦場を断った。
刀が鳴る。
一歩、踏み出す。
「神が生きていようと、死んでいようと、
それを嘆く心まで否定する権利は――お主にはない」
切っ先が、真っ直ぐコカビエルを捉える。
「拙者はな、
神のために斬るのではない」
一拍。
「今、目の前で涙を流す者のために斬る」
紅の気配が、剣から立ち上る。
「それを踏みにじろうとするなら、
お主が堕天使であろうと、神殺しであろうと――」
刀を構え、宣言する。
「拙者が、ここで斬る……の巻!」
コカビエルの笑みが、初めて歪んだ。
勧誘は終わり、言葉は尽きた。
戦場の緊張が張りつめる中、拙者は静かに妖怪ウォッチへと手を伸ばした。
カバーが開き、内部のスロットが露わになる。
「……時は来た」
三枚のメダルを、迷いなく装填する。
黒田坊、脹相、火黒。
それぞれの気配が重なり合い、ウォッチが低く唸った。
『チェンジフォーム!
妖怪HERO!
剣豪紅丸・纏!』
機械音声と同時に、紅い光が拙者の全身を包み込む。
鎧が鳴り、刀が共鳴する。
力が“纏われる”感覚が、骨の奥まで染み渡った。
拙者は刀を掲げ、声を張る。
「さぁ、無双の剣技を見よ!」
そして――叫ぶ。
「各々方! 準備はよろしいか!」
最初に応じたのは、重く静かな声。
「……ああ。弟のためなら、いつでもいい」
脹相の気配が弾け、彼の身体は血へと還る。
赤黒い血流は散ることなく渦を巻き、拙者の身体へ流れ込んだ。
血は皮膚を覆い、筋を作り、骨格を形成する。
液体は半固体へ、そして黒鉄のような質感へと変じていく。
――漆黒のフレーム。
装甲を持たぬ剥き出しの素体が、地を踏みしめる。
その一歩で、大地が低く軋んだ。
「クク……いいねぇ」
愉悦を含んだ笑い声。
「どこまで耐えられるか、楽しませてもらうぜ」
火黒が包帯を引き剥がす。
その下にあったのは肉体ではなく、無数の刀。
解き放たれた刃が一斉に殺到し、拙者のフレームへ突き刺さるように纏わりつく。
肩、背、脚――全身から刃が突き出し、異形の輪郭が膨れ上がる。
力が溢れ、さらに刀が増えようとする。
制御が、限界に近づいた――その時。
「問題ございません」
静かな声が、確かに場を制した。
「すべて――主の御心のままに」
黒田坊の法衣が影のように広がり、巨大化する。
それは衣ではない。結界であり、鞘であり、秩序そのもの。
法衣が異形を包み込み、外へ向いていた刃が次々と収まっていく。
刀は消えず、意味ある位置へと再配置され、確かな形を得た。
次の瞬間、拙者の身体は高く舞い上がり、そして一直線に地へ降り立つ。
膝と拳が地面に触れた刹那、衝撃が走り、地表に亀裂が広がる。
土煙が巻き上がり、戦場の視界を覆った。
やがて煙が晴れる。
そこに立つ武蔵紅丸の全身を覆う刀と装甲が、月光と火光を受けて鈍く輝いた。
磨き上げられた刃の艶が光を反射し、無機質で冷たい輝きを放つその姿は、まるで鋼鉄の巨兵――ロボットを思わせる威容だった。
拙者はゆっくりと立ち上がり、刀を構える。
「――メガトン級に全てを切り裂く!」
重く、確かな声が戦場に響く。
「武蔵紅丸!」
切っ先を敵へ向け、宣言する。
「いざ、陣情に勝負!」
光を反射する刃の輝きと共に、戦場の主は、完全にここに立っていた。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王