サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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復讐者の刀 Ⅷ

宙に浮かぶコカビエルは、紅丸の姿を値踏みするように見下ろしていた。

その表情に、苛立ちよりも先に浮かんだのは――興味だった。

 

「ほう……面白い力だな」

 

羽を揺らし、愉快そうに笑う。

 

「名も知らぬ剣士よ。

その力、ただ守るためだけに使うには惜しい」

 

紅丸――拙者は、刀を下ろさぬまま一歩前へ出る。

 

「拙者の名は剣豪紅丸。

名を問う前に刃を振るうとは、堕天使も随分と無粋であるな」

 

「ははは! 気に入ったぞ」

 

コカビエルは両腕を広げる。

 

「どうだ?

戦争はいいぞ。血が流れ、世界が壊れ、力ある者だけが笑う」

 

「お主も分かっているはずだ。

この力は、争いを望んでいる」

 

一瞬、拙者は考える素振りを見せた。

そして――小さく鼻で笑う。

 

「確かに、戦は嫌いではない」

 

その言葉に、コカビエルの笑みが深まる。

 

「なら――」

 

「だがな」

 

拙者は刀を構え直し、切っ先を真っ直ぐ向けた。

 

「拙者が斬るのは、

戦を起こしたい者ではない」

 

一拍。

 

「斬るべきは、

守る者の前に立ちはだかる者のみ……の巻!」

 

空気が張り詰める。

紅丸の背後で、兵藤たちが息を呑んだ。

 

コカビエルは肩をすくめ、つまらなそうに言う。

 

宙に浮かぶコカビエルは、紅丸の構えを見て、ふっと嗤った。

まるで思い出したかのように、軽い調子で口を開く。

 

「そういえば、一つ教えてやろう」

 

その声音に、妙な余裕が混じる。

 

「聖書の神は――もう死んでいる」

 

その言葉が戦場に落ちた瞬間、周囲がざわめいた。

悪魔も、教会の者も、理解が追いつかず息を呑む。

絶望と動揺が、波のように広がっていく。

 

だが。

 

拙者――剣豪紅丸は、眉一つ動かさなかった。

 

「……それがどうした」

 

あまりに淡々とした返しに、コカビエルが目を細める。

 

「驚かんのか?」

 

「拙者は、神を見たことがない」

 

刀を肩に担ぎ、静かに言い放つ。

 

「生きているのか、死んでいるのか。

それすら分からぬ存在を突きつけられても、

今さら騒ぐ道理はなかろう」

 

「ほう……」

 

コカビエルは愉快そうに笑う。

 

「ならば問題ないな。

信仰が崩れ、嘆く者が生まれるのも、戦の彩りだ」

 

そう言って、彼は視線を下げた。

混乱の中で膝をつき、顔を伏せる者たち――

神の死を告げられ、心を折られた者たちへ。

 

光が、再び集束する。

 

「悲しむ者から壊れる。

それが一番、音がいい」

 

その瞬間。

 

「――待て」

 

拙者の声が、低く戦場を断った。

 

刀が鳴る。

一歩、踏み出す。

 

「神が生きていようと、死んでいようと、

それを嘆く心まで否定する権利は――お主にはない」

 

切っ先が、真っ直ぐコカビエルを捉える。

 

「拙者はな、

神のために斬るのではない」

 

一拍。

 

「今、目の前で涙を流す者のために斬る」

 

紅の気配が、剣から立ち上る。

 

「それを踏みにじろうとするなら、

お主が堕天使であろうと、神殺しであろうと――」

 

刀を構え、宣言する。

 

「拙者が、ここで斬る……の巻!」

 

コカビエルの笑みが、初めて歪んだ。

勧誘は終わり、言葉は尽きた。

戦場の緊張が張りつめる中、拙者は静かに妖怪ウォッチへと手を伸ばした。

カバーが開き、内部のスロットが露わになる。

 

「……時は来た」

 

三枚のメダルを、迷いなく装填する。

黒田坊、脹相、火黒。

それぞれの気配が重なり合い、ウォッチが低く唸った。

 

『チェンジフォーム!

 妖怪HERO!

 剣豪紅丸・纏!』

 

機械音声と同時に、紅い光が拙者の全身を包み込む。

鎧が鳴り、刀が共鳴する。

力が“纏われる”感覚が、骨の奥まで染み渡った。

 

拙者は刀を掲げ、声を張る。

 

「さぁ、無双の剣技を見よ!」

 

そして――叫ぶ。

 

「各々方! 準備はよろしいか!」

 

最初に応じたのは、重く静かな声。

 

「……ああ。弟のためなら、いつでもいい」

 

脹相の気配が弾け、彼の身体は血へと還る。

赤黒い血流は散ることなく渦を巻き、拙者の身体へ流れ込んだ。

 

血は皮膚を覆い、筋を作り、骨格を形成する。

液体は半固体へ、そして黒鉄のような質感へと変じていく。

 

――漆黒のフレーム。

 

装甲を持たぬ剥き出しの素体が、地を踏みしめる。

その一歩で、大地が低く軋んだ。

 

「クク……いいねぇ」

 

愉悦を含んだ笑い声。

 

「どこまで耐えられるか、楽しませてもらうぜ」

 

火黒が包帯を引き剥がす。

その下にあったのは肉体ではなく、無数の刀。

 

解き放たれた刃が一斉に殺到し、拙者のフレームへ突き刺さるように纏わりつく。

肩、背、脚――全身から刃が突き出し、異形の輪郭が膨れ上がる。

 

力が溢れ、さらに刀が増えようとする。

制御が、限界に近づいた――その時。

 

「問題ございません」

 

静かな声が、確かに場を制した。

 

「すべて――主の御心のままに」

 

黒田坊の法衣が影のように広がり、巨大化する。

それは衣ではない。結界であり、鞘であり、秩序そのもの。

 

法衣が異形を包み込み、外へ向いていた刃が次々と収まっていく。

刀は消えず、意味ある位置へと再配置され、確かな形を得た。

次の瞬間、拙者の身体は高く舞い上がり、そして一直線に地へ降り立つ。

 

膝と拳が地面に触れた刹那、衝撃が走り、地表に亀裂が広がる。

土煙が巻き上がり、戦場の視界を覆った。

 

やがて煙が晴れる。

 

そこに立つ武蔵紅丸の全身を覆う刀と装甲が、月光と火光を受けて鈍く輝いた。

磨き上げられた刃の艶が光を反射し、無機質で冷たい輝きを放つその姿は、まるで鋼鉄の巨兵――ロボットを思わせる威容だった。

 

拙者はゆっくりと立ち上がり、刀を構える。

 

「――メガトン級に全てを切り裂く!」

 

重く、確かな声が戦場に響く。

 

「武蔵紅丸!」

 

切っ先を敵へ向け、宣言する。

 

「いざ、陣情に勝負!」

 

光を反射する刃の輝きと共に、戦場の主は、完全にここに立っていた。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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