サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
武蔵紅丸の名乗りが戦場に響いた直後、コカビエルは一瞬だけ目を細め、次の瞬間には判断を終えていた。
「……なるほど。力だけの化け物ではない、か」
その声には嘲りよりも明確な警戒が混じっている。
だからこそ、彼は遊ばなかった。
背中の翼が大きく広がり、空気を強く叩く。
次の瞬間、コカビエルの身体は地上から離れ、一気に高度を取った。
夜空を背負うように浮かぶ堕天使。
その姿だけで、地上に立つ武蔵紅丸との決定的な差が生まれる。
「まずは距離だ」
コカビエルはそう呟き、両手を広げた。
その掌に眩い光が収束していく。
一本や二本ではない。
無数の光が槍の形を取り、次々と形成されていく。
神性を帯びた光の槍。
触れれば肉体はおろか魂さえ穿たれる破壊の象徴だ。
「消えろ」
その一言と同時に、光の槍が一斉に放たれた。
空から降り注ぐ破滅の雨。
槍は音速を超えて地面へと叩きつけられる。
ドォン、ドォンと連続する爆音が戦場を揺らし、着弾のたびに地面が抉れ、岩と土が高く舞い上がった。
武蔵紅丸が立っていた場所一帯は、瞬く間に光と爆煙に包まれる。
「――終わりだ」
コカビエルはそう判断するにはまだ早いと理解していながらも、一切の手を緩めなかった。
彼は分かっている。
武蔵紅丸がこれまで相対してきた敵とは明確に違う強者であることを。
だからこそ、高度、射程、魔力という自分の利を最大限に活かし、徹底的に叩く。
さらに光が集束する。
次の槍、その次の槍。
まるで夜空そのものが武器になったかのように、光の雨は止むことなく降り注いだ。
やがて戦場は完全に土煙に覆われ、視界は完全に閉ざされる。
地上の様子はもはや見えず、武蔵紅丸の姿も気配もすべてが爆煙の奥へと消え失せた。
「……姿が見えんな」
コカビエルは翼を羽ばたかせながら上空で静止する。
その表情に慢心はない。
「だが、空を取った以上、こちらが有利だ」
空からの一方的な攻撃、接近を許さず、位置も掴ませない。
それは数多の戦争を経験してきた堕天使が選んだ、最も合理的で、最も残酷な戦い方だった。
土煙の奥で何かが軋む音がした。
次の瞬間、爆ぜるように地面が割れ、土煙を引き裂いて巨大な腕が突き出す。
「メガトンパンチ!」
宣言と同時に放たれた一撃は、ただの拳ではなかった。
魔剣の装甲で巨大化した右腕が、砲弾のような速度と質量で空を裂き、直線的にコカビエルへ迫る。
常識外れの射程と威力に、コカビエルは目を見開きながらも即座に翼を打ち、紙一重で回避した。
「……地上から、腕を飛ばすだと」
嘲りではない。
そこにあったのは、確かな驚愕だった。
だが、それで終わりではない。
避けたはずのコカビエルの背後、土煙の中から影が躍り出る。
武蔵紅丸の背中から大量の血が噴き上がり、それが噴射炎のように収束し、凄まじい推進力となって身体を押し上げていた。
空を飛ぶのではない。
血を撃ち出し、無理やり距離を潰す。
「なっ――」
コカビエルが振り返った、その瞬間にはもう遅い。
武蔵紅丸は空中で身体を捻り、重力と推進力を乗せて脚を振り下ろす。
踵落とし。
装甲に覆われた踵が、隕石のような勢いで叩き込まれた。
衝撃が空間を歪め、衝突点から衝撃波が広がる。
「ぐっ……!」
コカビエルの身体が大きく吹き飛ばされ、空中で体勢を崩す。
武蔵紅丸は、空中に留まることなく血の噴射を止め、再び地へと落ちていく。
重力に従いながらも、その姿に一切の隙はない。
空を取れば有利。
その常識を、今の一連の動きが完全に否定していた。
武蔵紅丸は、飛ばない。
だが、届く。
斬るためなら、空さえ踏み潰す
空中を舞っていた分離状態の腕が、まるで意思を持つかのように軌道を変え、武蔵紅丸の元へと引き寄せられる。
金属と刃が噛み合う重い音と共に、両腕は完全に再接続された。
そのまま武蔵紅丸は空中で体勢を整え、両手を前に構える。
次の瞬間、前腕部の装甲が滑るように展開し、内部から異質な形状が露わになった。
――銃身。
しかも一本ではない。
左右の腕それぞれから、幾重にも重なった銃身がせり出し、回転しながら固定されていく。
「……マシンガン、だと?」
困惑を隠せないコカビエルの呟き。
だが、直後に彼は理解する。
それがただの兵器ではないことを。
銃身を形作っているのは、全て“刃”だった。
魔剣が分解され、再構築され、撃発機構として組み上げられた異形の武装。
「魔剣を……弾にまで使うだと……!」
理解した瞬間、既に遅い。
轟音。
武蔵紅丸の両腕が火を噴く。
放たれたのは光ではない。
刃の形を保ったまま高速回転する“魔剣弾”の嵐だった。
空間を切り裂きながら飛翔する無数の弾丸が、面となってコカビエルへ降り注ぐ。
一発一発が斬撃であり、破壊であり、呪いそのもの。
「くっ……!」
コカビエルは翼を打ち、防御魔方陣を展開するが、次々と弾かれ、削られていく。
防御を抜けた弾丸が掠るだけで、翼の羽根が裂け、装甲のような肉体に傷が刻まれる。
逃げ場はない。
回避しても追い、距離を取っても届く。
それは銃撃でありながら、完全に剣の間合いだった。
武蔵紅丸は、空中に立つように血の噴射で姿勢を制御しながら、なおも引き金を引き続ける。
(まさか、魔剣創造によるほぼ無制限の武器の生成に、血液操作による身体能力の向上と武器の威力、そして最後の奴によって、武器を剣以外にも生成する事が出来るっ、こんなのっは)
武蔵紅丸は空中で銃身を収束させるように両腕を閉じた。
魔剣で構成されていたマシンガンは分解され、刃へと還元されていく。
次の瞬間、両手には二振りの刀が握られていた。
紅く、黒く、艶やかに輝く刀身。
そこへ最大出力の魔力が一気に流し込まれる。
刃の輪郭が揺らぎ、空間そのものが切り裂かれる前兆のように歪んだ。
「――終いと致そう」
武蔵紅丸は静かに構え、深く踏み込む。
両腕が大きく振りかぶられ、交差する軌道を描いた。
「エクスブレイク」
放たれた斬撃は二条。
だが、それは単なる斬撃ではなかった。
X字に交差する魔力の刃が、空間を割きながらコカビエルへと突き進む。
「くっ……!」
コカビエルは即座に翼を広げ、防御魔方陣を最大展開する。
光の壁が幾重にも重なり、正面から迎え撃つ構えを取った。
だが、斬撃は止まらない。
防御魔方陣は一枚、また一枚と紙のように切り裂かれ、光が砕け散る。
衝突点で爆発的な衝撃が生じ、凄まじい土煙が一帯を覆い尽くした。
轟音の中で、コカビエルの身体が弾き飛ばされる。
空中で力を失い、そのまま意識を手放した。
土煙が渦を巻く中、戦場は静まり返る。
そこに立っているはずの武蔵紅丸の姿は、もうなかった。
紅い刃も、重厚な装甲も、まるで最初から存在しなかったかのように消え去っている。
残されたのは、崩れた地面と、倒れ伏す堕天使。
そして――確かにここで一つの戦いが終わったという、静かな余韻だけだった。
次回の王は
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