サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
会議室を満たしていた緊張が、突如として別の色へと変わった。
低く響く衝撃音。
結界の向こう側で、何かが力任せに叩きつけられた感触が、床を通して伝わってくる。
「ちっ、来やがったか……」
舌打ち混じりのアザゼルの声に、室内の空気が一斉に引き締まる。
「今の反応、予定外の事態か?」
黒江残月の問いは短く、だが鋭い。
「いや、予想はしてた。だがタイミングが最悪だな」
悪魔側の席がざわめいた。
リアスが即座に表情を引き締め、朱乃は笑みを消し、木場は無意識に剣の柄へと手を伸ばす。
天使側でもミカエルが静かに立ち上がり、事態を受け止める準備を整えていた。
「アザゼル殿、今の爆発は何だ?」
ミカエルの問いに、アザゼルは肩をすくめながら前へ出る。
「説明する。いいか、全員落ち着いて聞け」
その声音は軽い。
だが、冗談ではないことは誰の目にも明らかだった。
「今、結界の外から侵入してきた連中。あいつらは――禍の団だ」
「禍の団……?」
聞き慣れない名に、会議室の空気がわずかに揺れる。
「正式な組織ってわけじゃねぇ。
悪魔、天使、堕天使、人間、異端者……種族も立場もバラバラ」
「混成部隊、という事か」
黒江が即座に理解を示す。
「そうだ。ただし目的は一つ。世界を混乱させること」
「……和平を否定する存在か」
「その通り。三大勢力が手を取り合うなんて展開、あいつらにとっちゃ最悪だからな」
拙者は仮面の奥で、静かに息を吐いた。
争いを望む者が現れること自体は、想定の範囲内。
だが、この場を狙う理由は、それだけではない。
「指導者は誰だ」
「表に出てくるのは幹部連中だがな。
連中の中心にいるのは、過去の英雄や伝説に異常な執着を持つ連中だ」
「……歪んでいるな」
「歪んでるから厄介なんだよ」
アザゼルは一度、こちらへ視線を向けた。
「で、さっきの襲撃だが」
会議室に、嫌な沈黙が落ちる。
「これは宣戦布告だ。三大勢力に向けての、な」
ざわめきが広がる。
「和平を潰すために?」
「それだけじゃない。
この場に“目立つ存在”が集まってるのも、あいつらは見逃さない」
その視線が、はっきりと拙者へ向けられる。
「……拙者の事か」
「はっきり言うと、そうだ紅丸」
仮面の奥で、拙者は小さく笑った。
「コカビエルを倒した正体不明の剣士。
中等部で動いてる妙な生徒会長。
そして――」
アザゼルの言葉が、一拍置かれる。
「人間が妖怪と混じる、前例のない存在」
空気が、確実にこちらへと寄ってくる。
「俺たちを試しに来た、という事か」
黒江の声は冷静だった。
「試し、潰せれば儲けもの。
あいつらはそういう連中だ」
拙者の背後で、白織がわずかに重心を前へ移す。
無言だが、その姿勢は明確だった。
いつでも動ける。
「つまり、ここから先は――」
「会議どころじゃない」
アザゼルが即答する。
「和平を語る前に、生き残らなきゃならねぇ」
「……なるほど」
拙者は一歩、前へ出た。
まだ刀には触れない。
だが、覚悟は定まった。
「さぁ、どうする?」
アザゼルの視線が、会議室全体を見渡す。
「三大勢力の代表諸君」
そして、最後に。
「剣豪紅丸。お前の出番だぜ」
視線が集まる。
重みが増す。
拙者は猫侍の仮面の下で静かに息を整え、会議室に集う全ての顔を一度だけ見渡した。
刃を抜くべき時が、近づいている。
だがそれは、ただ斬るためではない。
――守る覚悟を示すために。
この混沌に、どう向き合うか。
それが今、問われていた。
結界の外側で、再び衝撃が走る。
会議室に集う視線が一斉にそちらへ向いた、その瞬間だった。
「……やれやれ」
静かに、だが確かな存在感を伴って、黒江残月が前へ出る。
その背中は、先ほどまでの“中等部生徒会長”のそれではなかった。
「紅丸」
低く呼びかけられ、拙者は仮面の奥で視線を向ける。
「お前には見せてなかったな、俺の姿をな」
そう言って、黒江は手首を掲げた。
そこに装着されているのは、見慣れぬウォッチ。妖怪ウォッチとは異なる、どこか無機質で異星的なデザイン。
次の瞬間。
『エイリアン・チェンジ……』
歪んだ電子音が響いた刹那、黒江の足元に落ちた“影”が不自然に膨れ上がった。
光源に従う影ではない。意思を持つかのように蠢き、床から立ち上がる。
黒い霧が噴き出す。
一気に黒江の全身を包み込み、輪郭を曖昧にする。
霧の中で、人の形が崩れ、引き伸ばされ、再構成されていくのが分かった。
『ミスト……シャドウ!』
音声と同時に、霧が爆ぜた。
そこに立っていたのは、もはや人ではない。
全身を覆う漆黒の装甲。
仮面のように無機質な顔、その奥から淡く光る双眸。
身体の境界は揺らぎ、時折、霧と影が混じり合う。
背後には巨大な影が浮かび上がり、翼にも、異形の残像にも見える不定形のシルエットを描く。
次の瞬間、ミストシャドウの姿が揺らいだ。
影が床を滑り、霧と共に掻き消える。
――いや、消えたのではない。
“溶けた”のだ。
会議室の壁際、天井、床。
あらゆる影が、彼の居場所になり得る。
低く、抑えた声が霧の向こうから響く。
「人々を守るためなら、俺はこの姿も使う」
それは宣言だった。
中等部生徒会長としてではない。
人類側に立つ者としての、覚悟の証明。
拙者は静かに刀の柄に手を添え、猫侍の仮面の奥で息を整える。
――なるほど。
確かにこれは、今まで見せられなかった“姿”だ。
だが同時に理解した。
この男もまた、迷いながら刃を握る者。
剣豪紅丸とミストシャドウ。
立場は違えど、守ろうとするものは近い。
禍の団の襲撃を前に、
三大勢力の会議室は、静かに戦場へと変わりつつあった。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王