サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

563 / 703
妖怪と宇宙人と三大勢力会議 Ⅲ

 会議室を満たしていた緊張が、突如として別の色へと変わった。

 

 低く響く衝撃音。

 結界の向こう側で、何かが力任せに叩きつけられた感触が、床を通して伝わってくる。

 

「ちっ、来やがったか……」

 

 舌打ち混じりのアザゼルの声に、室内の空気が一斉に引き締まる。

 

「今の反応、予定外の事態か?」

 

 黒江残月の問いは短く、だが鋭い。

 

「いや、予想はしてた。だがタイミングが最悪だな」

 

 悪魔側の席がざわめいた。

 リアスが即座に表情を引き締め、朱乃は笑みを消し、木場は無意識に剣の柄へと手を伸ばす。

 天使側でもミカエルが静かに立ち上がり、事態を受け止める準備を整えていた。

 

「アザゼル殿、今の爆発は何だ?」

 

 ミカエルの問いに、アザゼルは肩をすくめながら前へ出る。

 

「説明する。いいか、全員落ち着いて聞け」

 

 その声音は軽い。

 だが、冗談ではないことは誰の目にも明らかだった。

 

「今、結界の外から侵入してきた連中。あいつらは――禍の団だ」

 

「禍の団……?」

 

 聞き慣れない名に、会議室の空気がわずかに揺れる。

 

「正式な組織ってわけじゃねぇ。

 悪魔、天使、堕天使、人間、異端者……種族も立場もバラバラ」

 

「混成部隊、という事か」

 

 黒江が即座に理解を示す。

 

「そうだ。ただし目的は一つ。世界を混乱させること」

 

「……和平を否定する存在か」

 

「その通り。三大勢力が手を取り合うなんて展開、あいつらにとっちゃ最悪だからな」

 

 拙者は仮面の奥で、静かに息を吐いた。

 争いを望む者が現れること自体は、想定の範囲内。

 だが、この場を狙う理由は、それだけではない。

 

「指導者は誰だ」

 

「表に出てくるのは幹部連中だがな。

 連中の中心にいるのは、過去の英雄や伝説に異常な執着を持つ連中だ」

 

「……歪んでいるな」

 

「歪んでるから厄介なんだよ」

 

 アザゼルは一度、こちらへ視線を向けた。

 

「で、さっきの襲撃だが」

 

 会議室に、嫌な沈黙が落ちる。

 

「これは宣戦布告だ。三大勢力に向けての、な」

 

 ざわめきが広がる。

 

「和平を潰すために?」

 

「それだけじゃない。

 この場に“目立つ存在”が集まってるのも、あいつらは見逃さない」

 

 その視線が、はっきりと拙者へ向けられる。

 

「……拙者の事か」

 

「はっきり言うと、そうだ紅丸」

 

 仮面の奥で、拙者は小さく笑った。

 

「コカビエルを倒した正体不明の剣士。

 中等部で動いてる妙な生徒会長。

 そして――」

 

 アザゼルの言葉が、一拍置かれる。

 

「人間が妖怪と混じる、前例のない存在」

 

 空気が、確実にこちらへと寄ってくる。

 

「俺たちを試しに来た、という事か」

 

 黒江の声は冷静だった。

 

「試し、潰せれば儲けもの。

 あいつらはそういう連中だ」

 

 拙者の背後で、白織がわずかに重心を前へ移す。

 無言だが、その姿勢は明確だった。

 いつでも動ける。

 

「つまり、ここから先は――」

 

「会議どころじゃない」

 

 アザゼルが即答する。

 

「和平を語る前に、生き残らなきゃならねぇ」

 

「……なるほど」

 

 拙者は一歩、前へ出た。

 まだ刀には触れない。

 だが、覚悟は定まった。

 

「さぁ、どうする?」

 

 アザゼルの視線が、会議室全体を見渡す。

 

「三大勢力の代表諸君」

 

 そして、最後に。

 

「剣豪紅丸。お前の出番だぜ」

 

 視線が集まる。

 重みが増す。

 

 拙者は猫侍の仮面の下で静かに息を整え、会議室に集う全ての顔を一度だけ見渡した。

 

 刃を抜くべき時が、近づいている。

 だがそれは、ただ斬るためではない。

 

 ――守る覚悟を示すために。

 

 この混沌に、どう向き合うか。

 それが今、問われていた。

 

 結界の外側で、再び衝撃が走る。

 会議室に集う視線が一斉にそちらへ向いた、その瞬間だった。

 

「……やれやれ」

 

 静かに、だが確かな存在感を伴って、黒江残月が前へ出る。

 その背中は、先ほどまでの“中等部生徒会長”のそれではなかった。

 

「紅丸」

 

 低く呼びかけられ、拙者は仮面の奥で視線を向ける。

 

「お前には見せてなかったな、俺の姿をな」

 

 そう言って、黒江は手首を掲げた。

 そこに装着されているのは、見慣れぬウォッチ。妖怪ウォッチとは異なる、どこか無機質で異星的なデザイン。

 

 次の瞬間。

 

『エイリアン・チェンジ……』

 

 歪んだ電子音が響いた刹那、黒江の足元に落ちた“影”が不自然に膨れ上がった。

 光源に従う影ではない。意思を持つかのように蠢き、床から立ち上がる。

 

 黒い霧が噴き出す。

 一気に黒江の全身を包み込み、輪郭を曖昧にする。

 霧の中で、人の形が崩れ、引き伸ばされ、再構成されていくのが分かった。

 

『ミスト……シャドウ!』

 

 音声と同時に、霧が爆ぜた。

 

 そこに立っていたのは、もはや人ではない。

 全身を覆う漆黒の装甲。

 仮面のように無機質な顔、その奥から淡く光る双眸。

 身体の境界は揺らぎ、時折、霧と影が混じり合う。

 

 背後には巨大な影が浮かび上がり、翼にも、異形の残像にも見える不定形のシルエットを描く。

 

 次の瞬間、ミストシャドウの姿が揺らいだ。

 影が床を滑り、霧と共に掻き消える。

 

 ――いや、消えたのではない。

 “溶けた”のだ。

 

 会議室の壁際、天井、床。

 あらゆる影が、彼の居場所になり得る。

 

 低く、抑えた声が霧の向こうから響く。

 

「人々を守るためなら、俺はこの姿も使う」

 

 それは宣言だった。

 中等部生徒会長としてではない。

 人類側に立つ者としての、覚悟の証明。

 

 拙者は静かに刀の柄に手を添え、猫侍の仮面の奥で息を整える。

 

 ――なるほど。

 確かにこれは、今まで見せられなかった“姿”だ。

 

 だが同時に理解した。

 この男もまた、迷いながら刃を握る者。

 

 剣豪紅丸とミストシャドウ。

 立場は違えど、守ろうとするものは近い。

 

 禍の団の襲撃を前に、

 三大勢力の会議室は、静かに戦場へと変わりつつあった。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。