サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
会議室に流れ込んだ気配は、疑いようもなく悪魔だった。
魔力の質が、人のそれじゃない。
禍の団――人外。
その瞬間、空気が一段冷えた。
「……来たか」
黒江残月が、低く呟いた。
次の瞬間、彼の影が濃く沈み、床を這う霧が一気に広がる。
ミストシャドウ。
変身は合図じゃない。
処刑開始の宣告だ。
最初に動いた悪魔が、嘲るように笑った。
「人間が、何を――」
言葉は最後まで続かなかった。
影が跳ね上がり、悪魔の口を内側から貫いた。
喉笛を裂く音。
血が噴き出す前に、霧がそれを包み込み、床に一滴も落とさせない。
「――人の言葉を使うな」
ミストシャドウの声は、冷えていた。
だが、その奥に、はっきりとした怒りが滲んでいる。
「奪う側が、人を名乗るな」
二体目の悪魔が魔方陣を展開する。
光が走る。
だが、影が先に動いた。
床の影が悪魔の足を縫い止め、天井の影が首へと落ちる。
「俺は見てきた」
影の刃が、ためらいなく振り下ろされる。
首が落ちる。
再生する暇すら与えない。
「家族が殺されるところも」
「街が壊れるところも」
「泣き叫ぶ声も、全部だ」
怒号を上げて突進してきた悪魔を、ミストシャドウは正面から迎えた。
回避しない。
受け止める。
その拳を影で包み込み、肘から先をねじ切る。
「お前たちは、いつもそうだ」
影が伸び、背後からもう一体を貫く。
同時に、霧が視界を奪う。
完全な分断。
完全な殲滅。
「強い方が正しい」
「生き残った方が勝ちだと、そう言って――」
最後の悪魔が、命乞いをした。
人の言葉で。
人の顔で。
ミストシャドウは、初めて足を止めた。
そして、静かに告げる。
「だから、俺が否定する」
影が悪魔の心臓を貫いた。
一瞬。
それで終わりだ。
「人類の世界に、居場所はない」
会議室に残ったのは、血の匂いと沈黙だけだった。
建物は無傷。
一般人への被害、ゼロ。
徹底しすぎるほどの制圧。
拙者は、刀を握ったまま息を吐いた。
強い。
だが、それ以上に――重い。
「……それがお前の正義か」
ミストシャドウは振り返らない。
影の中から、怒りを押し殺したような声が返ってくる。
「正義じゃない」
「これは、決別だ」
その背中を見て、はっきり分かった。
この男は、怒りを燃料にして立っている。
人外すべてを憎みながら、それでも人類を守るために刃を振るう。
――同じ戦場に立っている。
だが、進む道は、決して同じじゃない。
影が悪魔の胴を断ち割った瞬間、ミストシャドウの動きがほんの一拍だけ止まった。
霧の中で、彼は低く吐き捨てるように言った。
「……泣き声が、嫌いだ」
悪魔の断末魔が途切れる。
続けて、まるで独り言のように。
「夜中に響くんだ」
「助けを呼ぶ声は」
影が床を這い、次の標的を捕らえる。
逃げようとした悪魔の足が、影に縫い止められた。
「守れると思ってた」
「鍵をかけて、電気を消して、じっとしていれば……」
言葉が、そこで一瞬詰まる。
だが、刃は止まらない。
「――甘かった」
影が喉を裂く。
血が霧に溶ける。
「人じゃないものは、約束を守らない」
「理屈も、情けも、通じない」
ミストシャドウの声が、ほんの僅かに震えた。
怒りではない。
抑え込んだ記憶の、軋む音だ。
「だから俺は」
「先に斬る」
最後の一体を影が貫いた後、彼はしばらくその場から動かなかった。
霧の向こうで、拳がわずかに握り締められる。
「もう二度と――」
「家族の席が、空くのは見たくない」
その一言で、全てが分かった気がした。
拙者は、それ以上、何も聞かなかった。
この男は、守れなかった過去を背負っている。
だからこそ、守るために躊躇しない。
人外を、排除する。
――それが、黒江残月という人間の在り方だ。
次回の王は
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妖怪王
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怪獣王
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幻想王