サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

566 / 709
妖怪と宇宙人と三大勢力会議 Ⅵ

黒江残月が一歩前に出る。その背後、影が揺らいだ。

霧のような気配の中から、長身の男が現れる。

無精ひげを生やし、どこか達観した眼差し。

纏う雰囲気は荒事慣れしていながら、どこか人情味が滲んでいた。

 

「……やれやれ。随分と若いのに、随分と重たい覚悟を背負ってるじゃねぇか」

 

低く落ち着いた声。

阿伏兎は肩に担いだ傘を軽く叩きながら、黒江の横に立つ。

 

「お前さんが言ってた相手は……あの和風の猫侍かい」

 

視線が剣豪紅丸――太郎へと向けられる。

その目には敵意よりも、戦場に立つ者への評価があった。

 

黒江は短く答える。

「油断しないで。あいつは強い」

 

阿伏兎は小さく笑う。

 

「分かってるさ。上がチャランポランだと、下がしっかりするもんだ。

……っと、今は逆か」

 

そして一歩前に出て、静かに告げた。

 

「人を傷つけたくない。人を殺したくない。

この地球ではな。だが戦場では、そんなもの通じない」

 

その言葉は黒江に向けた確認であり、同時に太郎への宣告でもあった。

 

「人生は重要な選択肢の連続だ。

お前さん達は甘い選択肢で、どこまで行けるか……やってみるがいい」

 

白織が太郎の背後で微動だにせず立つ。

視線だけで状況を測り、黒江と阿伏兎の気配を正確に捉えている。

 

太郎は剣を構え、低く息を吐いた。

 

「……守るために戦う。それだけだ」

 

阿伏兎はその言葉を聞き、ほんの一瞬だけ目を細めた。

 

「ほう……嫌いじゃねぇな。

だがな、坊主。誇りと理想だけじゃ、戦場は越えられねぇ」

 

結界の中、二つの陣営が向かい合う。

妖怪と宇宙人。

理想と排除。

守る王と、守るために切り捨てる者。

 

その全てを飲み込むように、戦いの気配が静かに、確実に膨れ上がっていった。

結界の内側は、不思議なほど静かだった。

剣を構えたまま、拙者は一歩も動かず、その様子を見つめていた。

 

白織は、すでに戦場を支配している。

だが、姿は見えない。

音もない。

気配すら薄い。

 

それでも、分かる。

空間そのものが、彼女の領域になっている。

 

阿伏兎が一歩踏み出した瞬間、彼の足元でわずかに空気が震えた。

目には映らない。

だが、確実に何かがある。

 

「……なるほどな」

 

阿伏兎は小さく呟き、傘を肩に担いだまま、慎重に前へ進む。

動きは無駄がなく、戦場を知り尽くした者のそれだ。

だが、一歩進むごとに、その可動域は確実に狭められていく。

 

白織は攻めない。

ただ、糸を張る。

逃げ道を塞ぎ、距離を管理し、黒江に近づくための道筋を消していく。

 

阿伏兎はそれに気づいていた。

だからこそ、無理に突っ込まない。

だが、完全に止まることもしない。

 

「人を傷つけたくない。人を殺したくない。

この地球ではな。だが戦場では、そんなもの通じない」

 

そう言いながら、阿伏兎は一気に踏み込んだ。

見えない糸を、力任せに引き裂く。

皮膚が裂け、血が滲む。

それでも、足は止まらない。

 

白織の糸は即座に張り直される。

先ほどよりも、さらに精密に。

まるで、相手の動きを一度見てから最適化したかのようだった。

 

阿伏兎は一瞬、感心したように息を吐く。

 

「上がチャランポランだと、下がしっかりするもんだ。

……お前さん、いい目をしてる」

 

白織は何も答えない。

ただ、静かに距離を詰めさせない。

 

次の瞬間、阿伏兎の動きが止まった。

足首、手首、胴体。

複数の糸が、同時に絡みついている。

 

力で引き千切ることはできる。

だが、そうすれば、黒江の位置まで踏み込んでしまう。

阿伏兎はそれを理解していた。

 

「……ここまで、か」

 

彼はそれ以上、前に出なかった。

白織も、追撃はしない。

勝敗は、すでに決している。

 

拙者は、静かに息を吐いた。

勝ったのは白織だ。

だが、それは圧倒ではない。

互いの信念と判断が生んだ、僅差の決着だった。

 

阿伏兎は、黒江を一度だけ振り返る。

 

「悪いな。今回は、ここまでだ」

 

その言葉には、悔しさよりも、納得が滲んでいた。

白織はようやく姿を現し、何も言わずに一歩下がる。

 

結界の中に、再び静寂が戻った。

だが、その静けさは、戦いの終わりを告げるものだった。

 

拙者は理解する。

これはただの勝敗じゃない。

思想と覚悟が、ぶつかり合った結果だということを。

 

そして、この決着が――

次に来る俺と黒江の対決を、避けられないものにしたのだと。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。