サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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妖怪と宇宙人と三大勢力会議 Ⅷ

 拙者は足元の砂を踏みしめ、腕に装着したYSPウォッチへと意識を集中させた。

 装着位置、向き、モード。いずれも戦闘用に整っている。

 左腰に残るウォッチの確かな重みが、まだ拙者が人の側に立っている証のように感じられた。

 

「行くぞ、白織殿。――トラスフォーム」

『Y』

 

 短い起動音と同時に、拙者は変身メダルを取り出す。

 蜘蛛紅丸の変身メダル。向きを確かめ、溝に沿わせるようにしてYSPウォッチ正面のスロットへ装填した。

 カチリ、と小さな感触。

 次の瞬間、ウォッチ内部で低い駆動音が鳴り、白い光が脈動する。

 

 待機。

 

 一拍の静寂ののち、YSPウォッチのベゼルが淡く発光した。

 拙者はそれを回す。

 回転に合わせて音色が変わり、周囲の空気が張り詰めていくのがはっきりと分かった。

 

 最初に現れたのは、輪郭だった。

 

 白織の姿が溶けるように崩れ、その身体が白い蜘蛛の糸へと変わる。

 糸は拙者の足元から立ち昇り、渦を描きながら全身へと絡みついた。

 糸は繭のように形を成し、拙者の身体の外側にもう一つの輪郭を描き出す。

 

 胸部が固まる。

 白を基調とした装甲が、和装の意匠を帯びながら形成され、赤と金の差し色が走った。

 過剰ではないが、揺るぎない存在感を持つ“剣豪”の胴体。

 

 続いて脚部。

 低い重心を意識した構造で組み上がり、砂の上でも確かな踏ん張りが利く。

 

 糸がほどけ、繭が裂ける。

 白い糸が霧散する中、蜘蛛紅丸の全身が姿を現した。

 

 拙者は手にしていた霊剣・断絶丸へと視線を落とす。

 刀身は白い糸に包まれ、静かに形を変え始めた。

 刃は伸び、湾曲し、柄の角度が変わる。

 

 やがて断絶丸は、一振りの霊鎌として再構成される。

 霊気の質は変わらない。

 変わったのは、その用途だけだ。

 

 拙者は霊鎌を構え、重心を低く落とす。

 足裏に砂を噛む感触が伝わり、次の一手への準備が整った。

 

「――蜘蛛紅丸、ここに推参」

 

 この身は軽い。

 だが、鎌は重い。

 拙者は霊鎌を低く構え、二人の位置を視界の端で捉え続ける。

 正面には阿伏兎。重心が安定し、隙を見せぬ構えだ。

 その背後を漂うように立つのが、ミストシャドウ。距離を詰めれば、あの影が一気に動く。

 

「二人同時とは、骨が折れるでござるな」

 

 言葉とは裏腹に、足は止めない。

 拙者は一歩下がり、霊鎌を横薙ぎに振る。刃そのものではなく、鎌先から伸びる白い蜘蛛の糸が地面を舐めるように走った。

 糸は砂に沈み、次の瞬間、阿伏兎の足元から弾けるように立ち上がる。

 

「……牽制か」

 

 阿伏兎は即座に跳び退き、間合いを切る。

 その判断の早さに、内心で舌を巻く。

 

 だが、それで十分だ。

 拙者は霊鎌を引き戻し、糸を巻き取るように腕を捻る。

 糸に引かれ、砂煙が舞い、視界が一瞬だけ乱れた。

 

「来る!」

 

 阿伏兎の声と同時に、ミストシャドウが影のように滑り込んでくる。

 拙者は鎌を縦に振り下ろし、直接斬ることはせず、糸だけを空中に散らした。

 

 蜘蛛の糸が網のように広がり、ミストシャドウの進路を制限する。

 完全に止めることはできない。だが、速度は確実に落ちた。

 

「足を奪うつもりか」

 

「奪うほど、親切ではござらん」

 

 拙者は後方へ跳び、距離を保つ。

 鎌の間合い。

 二人が同時に踏み込めば危険だが、片方ずつなら捌ける。

 

 阿伏兎が前に出る。

 拙者は霊鎌を円を描くように振り回し、糸を地面と空中に張り巡らせる。

 糸は見えにくいが、確かにそこにある。

 

 阿伏兎の動きが、一瞬だけ鈍る。

 その瞬間を逃さず、拙者は鎌を突き出した。

 

 刃は届かない。

 代わりに、糸が伸び、阿伏兎の腕に絡みつく。

 

「――ちぃっ」

 

 引き倒すほどではない。

 だが、体勢は崩れる。

 

 その隙に、拙者はさらに距離を取った。

 二人を常に視界に入れ、糸で間合いを管理し続ける。

 

 攻めきらず、逃げすぎず。

 鎌と糸で場を支配する。

 

「……厄介な戦い方だな」

 

「誉め言葉として、受け取っておこう」

 

 拙者は霊鎌を構え直し、糸を張り詰める。

 二人を同時に相手取る以上、焦りは禁物だ。

 拙者は一息も止めず、白織殿の気配と歩調を重ねる。

 声を交わす必要はない。合体している以上、思考の向きは自然と噛み合う。

 

 霊鎌を振るいながら、拙者は蜘蛛の糸を「攻撃」ではなく「配置」として使う。

 地面すれすれに薄く張った糸。

 跳躍を阻む高さに渡した糸。

 一見すると無秩序だが、すべては逃げ道を削るための線だ。

 

 白織殿の意志が伝わる。

 ――右、二歩下がれば罠が完成する。

 

 拙者は即座に従い、阿伏兎の圧を受け流すように後退する。

 阿伏兎が追う。

 その一歩が、砂に沈んだ糸を踏んだ。

 

「……っ」

 

 大きく崩れはしない。

 だが、重心がわずかに遅れる。

 その“わずか”こそが、罠の核心だ。

 

 同時に、ミストシャドウが側面から詰めてくる。

 拙者は鎌を振り上げ、空中に糸を放つ。

 糸は交差し、影の進路を限定する。

 

 ――囲める。

 

 白織殿の判断が重なる。

 拙者は霊鎌を支点に糸を引き、地面に張った糸と空中の糸を連結させる。

 即席の結界ではない。

 動けば絡み、止まれば包囲が進む、逃げ場を失うための網だ。

 

「二人とも、動きが良すぎるでござるな」

 

 言葉とは裏腹に、手は止めない。

 拙者はあえて前に出て、二人の視線を引きつける。

 

 阿伏兎が正面、ミストシャドウが背後。

 その配置こそ、狙い通りだ。

 

 拙者は霊鎌を地面に突き立て、糸を一気に引き絞る。

 張り巡らされた糸が同時に緊張し、二人の足元と背後を塞ぐ。

 

「――今だ」

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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