サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
拙者は足元の砂を踏みしめ、腕に装着したYSPウォッチへと意識を集中させた。
装着位置、向き、モード。いずれも戦闘用に整っている。
左腰に残るウォッチの確かな重みが、まだ拙者が人の側に立っている証のように感じられた。
「行くぞ、白織殿。――トラスフォーム」
『Y』
短い起動音と同時に、拙者は変身メダルを取り出す。
蜘蛛紅丸の変身メダル。向きを確かめ、溝に沿わせるようにしてYSPウォッチ正面のスロットへ装填した。
カチリ、と小さな感触。
次の瞬間、ウォッチ内部で低い駆動音が鳴り、白い光が脈動する。
待機。
一拍の静寂ののち、YSPウォッチのベゼルが淡く発光した。
拙者はそれを回す。
回転に合わせて音色が変わり、周囲の空気が張り詰めていくのがはっきりと分かった。
最初に現れたのは、輪郭だった。
白織の姿が溶けるように崩れ、その身体が白い蜘蛛の糸へと変わる。
糸は拙者の足元から立ち昇り、渦を描きながら全身へと絡みついた。
糸は繭のように形を成し、拙者の身体の外側にもう一つの輪郭を描き出す。
胸部が固まる。
白を基調とした装甲が、和装の意匠を帯びながら形成され、赤と金の差し色が走った。
過剰ではないが、揺るぎない存在感を持つ“剣豪”の胴体。
続いて脚部。
低い重心を意識した構造で組み上がり、砂の上でも確かな踏ん張りが利く。
糸がほどけ、繭が裂ける。
白い糸が霧散する中、蜘蛛紅丸の全身が姿を現した。
拙者は手にしていた霊剣・断絶丸へと視線を落とす。
刀身は白い糸に包まれ、静かに形を変え始めた。
刃は伸び、湾曲し、柄の角度が変わる。
やがて断絶丸は、一振りの霊鎌として再構成される。
霊気の質は変わらない。
変わったのは、その用途だけだ。
拙者は霊鎌を構え、重心を低く落とす。
足裏に砂を噛む感触が伝わり、次の一手への準備が整った。
「――蜘蛛紅丸、ここに推参」
この身は軽い。
だが、鎌は重い。
拙者は霊鎌を低く構え、二人の位置を視界の端で捉え続ける。
正面には阿伏兎。重心が安定し、隙を見せぬ構えだ。
その背後を漂うように立つのが、ミストシャドウ。距離を詰めれば、あの影が一気に動く。
「二人同時とは、骨が折れるでござるな」
言葉とは裏腹に、足は止めない。
拙者は一歩下がり、霊鎌を横薙ぎに振る。刃そのものではなく、鎌先から伸びる白い蜘蛛の糸が地面を舐めるように走った。
糸は砂に沈み、次の瞬間、阿伏兎の足元から弾けるように立ち上がる。
「……牽制か」
阿伏兎は即座に跳び退き、間合いを切る。
その判断の早さに、内心で舌を巻く。
だが、それで十分だ。
拙者は霊鎌を引き戻し、糸を巻き取るように腕を捻る。
糸に引かれ、砂煙が舞い、視界が一瞬だけ乱れた。
「来る!」
阿伏兎の声と同時に、ミストシャドウが影のように滑り込んでくる。
拙者は鎌を縦に振り下ろし、直接斬ることはせず、糸だけを空中に散らした。
蜘蛛の糸が網のように広がり、ミストシャドウの進路を制限する。
完全に止めることはできない。だが、速度は確実に落ちた。
「足を奪うつもりか」
「奪うほど、親切ではござらん」
拙者は後方へ跳び、距離を保つ。
鎌の間合い。
二人が同時に踏み込めば危険だが、片方ずつなら捌ける。
阿伏兎が前に出る。
拙者は霊鎌を円を描くように振り回し、糸を地面と空中に張り巡らせる。
糸は見えにくいが、確かにそこにある。
阿伏兎の動きが、一瞬だけ鈍る。
その瞬間を逃さず、拙者は鎌を突き出した。
刃は届かない。
代わりに、糸が伸び、阿伏兎の腕に絡みつく。
「――ちぃっ」
引き倒すほどではない。
だが、体勢は崩れる。
その隙に、拙者はさらに距離を取った。
二人を常に視界に入れ、糸で間合いを管理し続ける。
攻めきらず、逃げすぎず。
鎌と糸で場を支配する。
「……厄介な戦い方だな」
「誉め言葉として、受け取っておこう」
拙者は霊鎌を構え直し、糸を張り詰める。
二人を同時に相手取る以上、焦りは禁物だ。
拙者は一息も止めず、白織殿の気配と歩調を重ねる。
声を交わす必要はない。合体している以上、思考の向きは自然と噛み合う。
霊鎌を振るいながら、拙者は蜘蛛の糸を「攻撃」ではなく「配置」として使う。
地面すれすれに薄く張った糸。
跳躍を阻む高さに渡した糸。
一見すると無秩序だが、すべては逃げ道を削るための線だ。
白織殿の意志が伝わる。
――右、二歩下がれば罠が完成する。
拙者は即座に従い、阿伏兎の圧を受け流すように後退する。
阿伏兎が追う。
その一歩が、砂に沈んだ糸を踏んだ。
「……っ」
大きく崩れはしない。
だが、重心がわずかに遅れる。
その“わずか”こそが、罠の核心だ。
同時に、ミストシャドウが側面から詰めてくる。
拙者は鎌を振り上げ、空中に糸を放つ。
糸は交差し、影の進路を限定する。
――囲める。
白織殿の判断が重なる。
拙者は霊鎌を支点に糸を引き、地面に張った糸と空中の糸を連結させる。
即席の結界ではない。
動けば絡み、止まれば包囲が進む、逃げ場を失うための網だ。
「二人とも、動きが良すぎるでござるな」
言葉とは裏腹に、手は止めない。
拙者はあえて前に出て、二人の視線を引きつける。
阿伏兎が正面、ミストシャドウが背後。
その配置こそ、狙い通りだ。
拙者は霊鎌を地面に突き立て、糸を一気に引き絞る。
張り巡らされた糸が同時に緊張し、二人の足元と背後を塞ぐ。
「――今だ」
次回の王は
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