サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
張り巡らされた蜘蛛の糸が、夜の校庭を静かに縫い止めていた。
白い照明に照らされた砂地には、踏み荒らされた跡と、見えない線の影が幾重にも重なっている。
拙者は霊鎌を下げ、間合いを保ったまま二人を視界に収めていた。
「……ここまで、か」
阿伏兎が一歩、前へ出かけて止まる。
踏み込めば届く。
だが、その一歩の先に、見えない“空白”があることを、彼は理解していた。
「行ける。だが、その瞬間に背後が空く」
阿伏兎の声は低く、冷静だった。
勝てる可能性を否定していない。
それでも、選ばない。
「このまま続けりゃ、俺は勝てるかもしれねぇ。だがな……」
彼は視線をずらし、背後を意識する。
そこにいるのは、ミストシャドウ――黒江残月だ。
「その間に“守るもん”を失う。それだけは、やっちゃならねぇ」
拙者は鎌を構えたまま、動かない。
追い詰める必要はない。
この言葉が出た時点で、勝負は決している。
「若いの。ここまでだ」
阿伏兎が一歩下がり、黒江の前に立つ。
盾となる位置だ。
同時に、彼の戦意がはっきりと引いていくのを感じる。
「判断が早いでござるな」
「遅れりゃ、護衛じゃねぇ」
短い応酬。
それで十分だった。
ミストシャドウが、こちらを見る。
影の奥で、目だけが細く笑っている。
「やっぱり、君は面白いな」
その声は、拙者たちにだけ届く距離だった。
外にいる者たちには、夜風が吹いた程度にしか感じられない。
「人外を守ろうとする人間。
排除を選ばない王……いや、王になろうとする者、か」
拙者は答えない。
答える必要がないからだ。
「この場で決着をつける気はない。君のやり方は……嫌いじゃない」
黒江は軽く肩をすくめる。
「だからこそ、また会おう。太郎」
名を呼ばれ、拙者は目を細める。
「次に会う時は、もっとはっきりした立場で、でござるな」
「そのつもりだよ」
黒江がそう言い、阿伏兎に目配せする。
阿伏兎は無言でうなずき、さらに一歩、前に出て完全に黒江を庇った。
「行くぞ」
その一言と同時に、結界が静かに解かれる。
張り詰めていた空気がほどけ、校庭の広さが元に戻る感覚が走った。
「……撤退、か」
拙者がそう呟くと、阿伏兎がちらりと振り返る。
「今回はな。次がなけりゃ、それでいい」
それだけ言い残し、二人の気配は夜に溶けていった。
戦いは終わった。
倒したわけではない。
だが、守るべきものを守り切った。
拙者は霊鎌を肩に担ぎ、息を吐く。
「次がある……そういう顔だったでござるな」
誰に言うでもなく、そう呟く。
その言葉だけが、静まり返った校庭に残っていた。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王