サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
新幹線の揺れは規則正しく、まるで思考の間に一定の間隔を与えるために存在しているみたいだった。俺は背もたれに体を預け、窓の外を流れていく景色を眺めながら、ようやく「戻っている」という実感を噛みしめていた。
逃げているわけじゃない。立ち止まっているわけでもない。ただ、意識的に歩幅を緩めている。それだけだ。
絶花が隣で静かに座っている。それだけで、胸の奥に溜まっていた余計な力が少し抜ける。幼い頃から何度も一緒に電車に乗ってきたが、こうして新幹線で並ぶのは初めてかもしれない。状況は変わっても、距離感だけは変わらない。そこに、妙な安心感があった。
「……今回、帰る理由ってさ。休みたいから、だけじゃないよね」
その言葉を聞いた瞬間、やっぱりな、と思った。誤魔化せるほど、俺は器用じゃないし、絶花も鈍くない。
「両親に顔を出す」
まずは、それ。
理由としては単純で、逃げも言い訳もいらない。今の俺がどんな立場に立っていようと、どんな名前で呼ばれていようと、あの二人にとってはただの息子だ。それを、忘れないためでもある。
「それと、お前のところにも行く」
口に出してから、自分でも少し可笑しくなった。義務でも使命でもない。ただ、行きたいと思ったから行く。それだけの理由が、今の俺にはやけに大切だった。
「これから先の事を考える前に、原点に戻る」
それは、強くなるためでも、答えを出すためでもない。
むしろ逆だ。今の俺は、少し考えすぎている。選択肢を集めすぎて、判断を急ぎすぎている。だから一度、何も背負っていなかった頃の自分を思い出す必要がある。
剣も、力も、名前もなかった頃。
ただ、目の前のものを見て、守りたいと思ったものを守っていただけの頃。
その象徴みたいな存在が、あの黒い野良猫だった。
向こうの路地裏で、よく見かけた。人には寄らないくせに、なぜか俺の事だけは遠くから観察していた、妙に目つきの鋭い黒猫。名前も知らない。ただ、同じ場所に立っている感覚があった。
――まだ、いるだろうか。
期待だと分かっている。
都合のいい再会を夢見ているだけかもしれない。
それでも、あの黒い影が今もどこかで生きているなら、もう一度だけ、確かめてみたい。
絶花が小さく笑う。
「太郎って、こういう時だけ、変にロマンチックだよね」
否定はしない。
俺は、決して合理だけで生きているわけじゃない。理屈で切り捨てられないものを、ずっと抱えてきた。それを捨てないと決めたから、今ここにいる。
新幹線は、確実に目的地へ近づいていく。
両親の元へ。
幼馴染みの家へ。
そして、過去と今の境目へ。
剣は置いた。だが、手放したわけじゃない。
今はただ、少しだけ立ち止まり、確かめる時間だ。
黒い野良猫が、まだそこにいると信じながら。
次回の王は
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