サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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故郷と黒猫 Ⅲ

 夕暮れと夜の境目が曖昧になり始めた時間帯、俺は校舎の外周を一人で歩いていた。

 

 人の気配はない。

 それなのに、空気だけがやけに騒がしい。

 風が落ち着かず、木々のざわめきが妙に近い。

 

「……来るなら来い」

 

 独り言のつもりだった。

 だが、その言葉を合図にしたかのように、頭上の空気が揺れた。

 

「相変わらずですね、若」

 

 声は上から。

 見上げるより先に、影が落ちる。

 

 ふわり、と。

 音もなく、白雲朧が降りてきた。

 雲が人の形を取っただけのはずなのに、そこに立たれると“仲間が増えた”という感覚がはっきりと伝わってくる。

 

「久しぶりだな」

 

 そう言うと、白雲はいつものように屈託なく笑った。

 

「久しぶりってほどでもないですよ。

 若が動く気配、雲は割と見逃しませんから」

 

「見張ってたのか」

 

「観測です。ちゃんとした」

 

 軽い口調だが、冗談ではないと分かる。

 俺の行動範囲、時間帯、立ち止まる癖。

 白雲は空そのものだからこそ、そういう“流れ”を読む。

 

「で、今日は何です?」

「厄介事の匂いが濃いですけど」

 

 答えようとした、その時だった。

 

 背後の空気が、すっと冷えた。

 風が止まり、足元の影が濃くなる。

 

「……遅れました、若」

 

 振り返ると、そこにモネがいた。

 白い翼を畳み、表情はいつも通り感情の読めない微笑みのまま。

 だが、その視線は鋭く、周囲を正確に捉えている。

 

「来てたのか」

 

「はい。

 若が一人で行動している、という情報がありましたので」

 

「誰からだ」

 

「私自身からです」

 

 淡々とした答え。

 モネは一歩、自然に俺の背後へ回り、無意識のうちに死角を潰す位置に立った。

 

 白雲がそれを見て、肩をすくめる。

 

「相変わらず警戒心が強いなあ」

「あなたが軽率なだけです」

 

 二人のやり取りを聞きながら、俺は小さく息を吐いた。

 ――揃ったな。

 この二人がいる時点で、ただの散歩で終わるわけがない。

 

「で、若」

 

 白雲が、少しだけ声の調子を落とす。

 

「“あれ”、感じてますよね」

 

 俺は頷いた。

 言葉にしなくても、通じる。

 

「……黒い猫だ」

 

 その表現に、白雲の目が細くなる。

 

「やっぱり」

「空気が、そこだけ薄い」

 

 モネも静かに続けた。

 

「冷えています。

 生き物の気配ですが、こちら側に完全には属していません」

 

 俺は視線を校舎の方へ向けた。

 昼間なら、ただの古い建物。

 だが夜になると、影の重なり方が違う。

 

「この前、里で会った」

「膝に乗ってきた。

 ……妙に懐いてた」

 

 白雲が、少しだけ笑う。

 

「それ、相当ですよ。

 普通の猫じゃない」

 

「分かってる」

 

 モネは一瞬、目を伏せた。

 

「逃げている、というより……

 “境界を跨いだ跡”に近いですね」

 

「追われてる可能性は?」

 

「否定できません。

 ただ、あの存在が無防備とは思えません」

 

 俺は腕を組み、少し考えた。

 黒い猫。

 言葉を持たず、だが確かに意思を感じさせる存在。

 

「……行くぞ」

 

 そう言うと、白雲が楽しそうに笑った。

 

「ですよね、若」

「止まる理由、ありませんし」

 

 モネは短く頷く。

 

「命令として受け取ります」

 

 三人で歩き出す。

 向かう先は、廃校舎の裏。

 昼間は誰も気にしない、夜は誰も近づかない場所。

 

 だが俺は確信している。

 再会というものは、いつもこういう“境目”から始まる。

 

 雲と雪を従え、俺は進む。

 名前を呼ぶことはしない。

 呼ばなくても、きっと向こうは気づいている。

 

 黒い猫は、もう近くにいる。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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