サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
夕暮れと夜の境目が曖昧になり始めた時間帯、俺は校舎の外周を一人で歩いていた。
人の気配はない。
それなのに、空気だけがやけに騒がしい。
風が落ち着かず、木々のざわめきが妙に近い。
「……来るなら来い」
独り言のつもりだった。
だが、その言葉を合図にしたかのように、頭上の空気が揺れた。
「相変わらずですね、若」
声は上から。
見上げるより先に、影が落ちる。
ふわり、と。
音もなく、白雲朧が降りてきた。
雲が人の形を取っただけのはずなのに、そこに立たれると“仲間が増えた”という感覚がはっきりと伝わってくる。
「久しぶりだな」
そう言うと、白雲はいつものように屈託なく笑った。
「久しぶりってほどでもないですよ。
若が動く気配、雲は割と見逃しませんから」
「見張ってたのか」
「観測です。ちゃんとした」
軽い口調だが、冗談ではないと分かる。
俺の行動範囲、時間帯、立ち止まる癖。
白雲は空そのものだからこそ、そういう“流れ”を読む。
「で、今日は何です?」
「厄介事の匂いが濃いですけど」
答えようとした、その時だった。
背後の空気が、すっと冷えた。
風が止まり、足元の影が濃くなる。
「……遅れました、若」
振り返ると、そこにモネがいた。
白い翼を畳み、表情はいつも通り感情の読めない微笑みのまま。
だが、その視線は鋭く、周囲を正確に捉えている。
「来てたのか」
「はい。
若が一人で行動している、という情報がありましたので」
「誰からだ」
「私自身からです」
淡々とした答え。
モネは一歩、自然に俺の背後へ回り、無意識のうちに死角を潰す位置に立った。
白雲がそれを見て、肩をすくめる。
「相変わらず警戒心が強いなあ」
「あなたが軽率なだけです」
二人のやり取りを聞きながら、俺は小さく息を吐いた。
――揃ったな。
この二人がいる時点で、ただの散歩で終わるわけがない。
「で、若」
白雲が、少しだけ声の調子を落とす。
「“あれ”、感じてますよね」
俺は頷いた。
言葉にしなくても、通じる。
「……黒い猫だ」
その表現に、白雲の目が細くなる。
「やっぱり」
「空気が、そこだけ薄い」
モネも静かに続けた。
「冷えています。
生き物の気配ですが、こちら側に完全には属していません」
俺は視線を校舎の方へ向けた。
昼間なら、ただの古い建物。
だが夜になると、影の重なり方が違う。
「この前、里で会った」
「膝に乗ってきた。
……妙に懐いてた」
白雲が、少しだけ笑う。
「それ、相当ですよ。
普通の猫じゃない」
「分かってる」
モネは一瞬、目を伏せた。
「逃げている、というより……
“境界を跨いだ跡”に近いですね」
「追われてる可能性は?」
「否定できません。
ただ、あの存在が無防備とは思えません」
俺は腕を組み、少し考えた。
黒い猫。
言葉を持たず、だが確かに意思を感じさせる存在。
「……行くぞ」
そう言うと、白雲が楽しそうに笑った。
「ですよね、若」
「止まる理由、ありませんし」
モネは短く頷く。
「命令として受け取ります」
三人で歩き出す。
向かう先は、廃校舎の裏。
昼間は誰も気にしない、夜は誰も近づかない場所。
だが俺は確信している。
再会というものは、いつもこういう“境目”から始まる。
雲と雪を従え、俺は進む。
名前を呼ぶことはしない。
呼ばなくても、きっと向こうは気づいている。
黒い猫は、もう近くにいる。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王