サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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故郷と黒猫 Ⅴ

冥界に足を踏み入れた、と頭では理解していた。

だが、理解と実感は別物だ。

空は夜のままなのに星の位置が定まらず、地面は砂のようで砂ではない。踏みしめるたびに、記憶の底を掻き回されるような感触が返ってくる。

 

「……止まれ」

 

俺の声に、背後の二人が即座に反応した。

白雲朧は空気の流れを読むようにふわりと浮き、モネは一歩下がって周囲を見渡す。二人とも、無駄な言葉はない。

 

「若、ここ……同じ場所を回ってますね」

白雲朧が、軽い口調のまま告げた。

「雲の巡りが戻ってる。前に通った風だ」

 

「冷気も一定。進んでいるのに距離が縮まっていない」

モネは感情の起伏をほとんど見せず、淡々と補足する。

 

俺は頷いた。

視界の端に、さっきも見た裂け目と同じ形の影がある。偶然じゃない。冥界の辺境――正規の道を通らずに入った者を、土地そのものが拒んでいる。

 

「力押しはしない」

俺は言い切った。

「この手の迷いは、進めば進むほど深くなる。目的地に近づく前に、戻れなくなる」

 

白雲朧が「さすが若」と軽く笑い、モネは無言で首肯する。

この二人がいるなら、判断は早い。だが、案内役が足りない。

 

「……呼ぶか」

 

俺は左腕の妖怪ウォッチに視線を落とした。

普段から世界を巡り、境界を越え、場所の“理屈”ではなく“気配”で道を知る存在。

冥界の辺境で案内人を務めるなら、適任は一人しかいない。

 

「フユニャンだ」

 

白雲朧が納得したように手を叩く。

「確かに。あいつ、世界一周が日常ですもんね」

 

モネも短く頷いた。

「迷いを抜けるなら、土地に縛られない者が必要」

 

俺は妖怪ウォッチを構え、呼吸を整える。

無駄な動作は省く。ここでは一瞬の判断ミスが、永遠の遠回りになる。

 

「来い――案内を頼む」

 

『カモン!ゴースト!』

 

音声と共に、足元から白い霧が立ち昇った。

冷えた空気が渦を巻き、輪郭が浮かび上がる。次の瞬間、軽快な足取りで現れたのは、いつも通りのフユニャンだった。

 

「おっと、こりゃまた面倒な場所に来たニャン」

 

一目で察したらしい。

フユニャンは周囲を見渡し、尻尾を揺らす。

 

「冥界の辺境だニャン。正規ルートじゃないから、土地が“来訪者”を認識してない。今のまま歩いたら、痕跡に食われるニャン」

 

「やっぱりな」

俺は即座に指示を出す。

「フユニャン、道を“作る”視点で頼む。白雲、風の薄い点を探せ。モネ、冷えのムラを拾え」

 

三人は同時に動いた。

白雲朧は空気に溶けるように広がり、モネは地面すれすれを滑るように移動する。フユニャンは俺の隣で、気配の流れを読み取っている。

 

「若、前方三十歩。空気が一瞬だけ抜けてる」

白雲朧の声。

 

「そこ、冷えが歪んでる。境界の綻び」

モネが重ねる。

 

「決まりだニャン」

フユニャンが頷いた。

 

俺は歩を進めながら、全体を俯瞰する。

焦らない。急がない。

目的はただ一つ――黒い野良猫の痕跡、その先だ。

 

道が、少しずつ“形”を持ち始める。

繰り返していた影が消え、星の位置がわずかに動いた。冥界が、こちらを認識し始めた証拠だ。

 

「このまま行く」

俺は短く告げる。

「逸れたら即報告。単独行動は禁止」

 

「了解、若」

白雲朧が軽やかに返す。

 

「承知」

モネはそれだけ言い、警戒を続ける。

 

フユニャンが前に出て、振り返った。

「この先、痕跡が濃くなるニャン。猫の気配……かなり新しい」

 

胸の奥が、わずかに騒いだ。

だが、感情は押さえる。今は指揮官として動く時間だ。

 

俺たちは、冥界辺境の“道”を成立させながら、確実に前へ進んでいった。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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