サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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故郷と黒猫 Ⅵ

冥界の森は、静かすぎた。

風はある。枝も揺れている。だが、生き物の気配が薄い。

音が吸われていくような感覚だけが、足元から這い上がってくる。

 

「……この先だな」

 

俺は立ち止まり、地面に残るわずかな痕跡に目を凝らした。

白雲が言っていた通りだ。

気配は薄いが、完全に消えてはいない。

意図的に隠されている――それも、かなり慣れたやり方で。

 

「若、ここ……空気が変わってます」

 

白雲の声が低くなる。

雲でできた身体が、森の上層に薄く広がり、視界を確保しているのが分かった。

 

「足跡は……複数。でも、大きいのは一つだけ」

 

モネが地面に膝をつき、指先で霜を這わせる。

その霜が、地形と痕跡を浮かび上がらせていく。

 

「……猫だな」

 

思わず口に出た。

サイズの違う足跡が、同じ方向へ集まっている。

逃げているわけじゃない。

隠れている――いや、守っている。

 

胸の奥が、微かにざわついた。

理由は分からない。

だが、嫌な予感ではなかった。

 

俺は片手を上げ、二人に合図する。

 

「ここから先、慎重に行く。

 戦闘準備は維持。ただし、先に仕掛けるな」

 

二人が無言で頷く。

その信頼が、今はありがたかった。

 

森の奥へ、一歩ずつ進む。

木々の間隔が不自然に狭まり、視界が遮られる。

まるで、ここだけが“閉じられている”みたいだった。

 

――いた。

 

最初に見えたのは、小さな影だった。

それだけではない。

その黒猫とは対面したのは、兵藤達がいる。

 

「・・・なるほど」

 

そして、黒猫と思っていた彼女の真の姿が見える。

俺は一度、深く息を吸う。

俺は一度だけ視線を伏せ、腕の妖怪ウォッチを見つめた。

 

「……フユニャン」

 

名を呼んだ瞬間、空気がひやりと冷える。

舞い落ちる雪片のように、白い光が集まり、次の瞬間には一つの影を形作った。

 

「呼ばれたからには、応えねばならぬな。

 フユニャン、ここに参上なのだニャン」

 

静かだが、芯の通った声。

冥界の空気に飲まれることなく、堂々と立つその姿に、自然と背筋が伸びる。

 

「太郎……いや、今は違うか。

 この場の気配、只事ではないのだニャン」

 

フユニャンの視線が、黒猫の方へと向く。

警戒ではなく、観察。

相手の格を測る、戦士の目だ。

 

「分かってる」

 

俺は短く答えた。

 

「だからこそ、ここは中途半端じゃダメだ。

 力を振りかざすためじゃない。

 “話すため”に、ちゃんとした姿になる」

 

フユニャンはしばし黙り込み、やがて小さく息を吐いた。

 

「……なるほど。

 戦わぬ覚悟を、戦う姿で示すというわけか」

 

少しだけ、口角が上がる。

 

「相変わらず難儀な役目を選ぶ男なのだニャン。

 だが……嫌いではない」

 

その言葉に、胸の奥が少し軽くなる。

 

「一緒に行こう、フユニャン」

 

「無論なのだニャン。

 月の名を冠するなら、拙者も力を貸そう」

 

俺は妖怪ウォッチを構え、操作に入る。

 

『Y!チェンジ!』

 

澄んだ音声が冥界の森に響き渡る。

同時に、フユニャンの身体が淡い青白い光へとほどけていった。

 

「行くぞ太郎。

 月光のもと、我らの心を一つにするのだニャン!」

 

冷気が渦を巻き、月光のような輝きが降り注ぐ。

俺の輪郭が揺らぎ、重さと軽さが同時に押し寄せる。

 

装甲が静かに形成されていく。

鋭さではなく、澄んだ強さを宿した姿。

 

「……」

 

最後に、フユニャンの気配がぴたりと重なった。

 

「ブルームーンが君を照らすよ」

 

光が収束し、森は再び静けさを取り戻す。

 

俺は、ブルームーンとしてそこに立っていた。

 

月のように静かで、しかし確かな存在感。

威圧するためではなく、距離を縮めるための姿。

 

俺は黒猫の方へ向き直り、ゆっくりと一歩踏み出す。

 

「……驚かせたなら、悪かった」

 

声は落ち着いている。

 

「でも、これが今の僕だ」

 

心の奥から、フユニャンの声が届く。

 

「焦るでない。

 言葉を交わすのだニャン。

 それがお前の選んだ道なのだから」

 

「ああ……分かってる」

 

俺は武器を構えないまま、月光の下に立ち続ける。

 

この姿は、戦いのためじゃない。

対話のための形。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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