サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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故郷と黒猫 Ⅶ

冥界の空は、どこまでも低かった。

星のない闇が天蓋のように覆い、地平線の向こうでは淡い青白い霧が揺れている。

足元の地面は冷え切っていて、踏みしめるたびに乾いた音を立てた。

 

その中心で、僕はブルームーンとして立っていた。

身体の輪郭を包む冷たい妖気と、胸の奥で脈打つ鼓動。そのどちらもが、今の僕が“ここにいる”ことを否応なく教えてくる。

 

――見えた。

 

闇の向こう。

わずかな気配の揺らぎ。

それは敵意ではなく、もっと静かで、もっと懐かしいものだった。

 

黒猫。

 

言葉にしなくても分かる。

追い求めてきた痕跡の終点が、そこにある。

 

周囲にいた白雲とモネが、即座に反応した。

白雲は雲の身体を低く広げ、逃走経路を頭の中で組み立てているのが分かる。

モネは無言のまま、翼をわずかに震わせて視線を走らせていた。

どちらも、戦う準備ができている。

 

けれど――僕は、一歩前に出た。

 

「……待って」

 

その一言で、二人は止まった。

冥界の空気が、ぴたりと張り詰める。

 

僕は武器を構えなかった。

代わりに、両手を下げて、黒猫の方を見る。

 

距離はまだある。

けれど、視線は確かに交わった。

 

「ここじゃない」

 

自分の声が、思ったよりも静かに響いた。

感情を乗せすぎないように、けれど逃げないように。

 

「今ここで、何かを決める場所じゃないと思う」

 

黒猫は動かない。

その背後で、小さな猫達が身を寄せ合っているのが見えた。

警戒と不安が入り混じった、張りつめた気配。

 

「戦いに来たわけじゃない」

 

一歩、また一歩。

ゆっくりと距離を詰めながら、言葉を選ぶ。

 

「……僕は、話がしたいだけだ」

 

言い切りだった。

説得でも命令でもない。

ただの、選択の提示。

 

一瞬、冥界の風が止まったように感じた。

そして、黒猫が低く鳴く。

 

短い声。

それだけで、周囲の小猫達がざわめいた。

 

黒猫は一度だけ後ろを振り返り、小猫達を見る。

その仕草に、迷いが混じっているのが分かった。

 

僕は言葉を重ねない。

選ぶのは、あくまで相手だ。

 

「・・・話しても良いけど」

「あぁ、分かった」

 

それと共に、白雲がすぐに動いた。

周囲の空気が歪み、視界が曇る。

雲が流れるように広がり、こちらの輪郭を曖昧にしていく。

 

モネは無言で地面に手をつき、冷気を走らせた。

足跡も、気配も、すべてを薄く消し去るための動きだ。

 

「行こう」

 

僕はそう言って、黒猫の歩調に合わせる。

無理に急がせない。

並んで歩く、その距離を大事にする。

 

背後で、誰かが追ってくる気配はない。

冥界は広く、そして深い。

今はただ、この場を離れることが最優先だった。

 

離脱の途中、黒猫が一度だけ振り返った。

そこにはもう、敵も味方もいない。

残っているのは、過去と、未整理の感情だけだ。

 

僕はそれを横目で感じ取りながら、胸の内で静かに決める。

 

――切る前に、聞く。

――壊す前に、知る。

 

それが今の僕のやり方だ。

強さよりも、速さよりも、選び続けることをやめない。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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