サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
冥界の森を離れてから数日が過ぎた。
あの後は、黒歌はどうやら、かなりヤバい奴だったようで、逃げるのは大変だったが、無事に戻ってこられた。
人間界の空気は、どこか軽やかで、逃れてきた者を受け入れるような暖かさがあった。
俺は、少しばかり忙しない気持ちで空を見上げる。
夏の終わりが近い空気は、太陽がまだ高くてもどこか色が淡くなっていた。
絶花、白雲、モネ、そして黒歌と一緒にいる今が、どこか夢のように感じられた。
「ここが最初の目的地だ」
俺は、山間の小さな神社の鳥居を指した。
参道の両脇には緑が濃く茂り、蝉の声が不思議と心を落ち着ける。
「なんでここに?」
黒歌は、少し首を傾げていた。
その声にはまだ迷いが残っている。
「ここは“祈りの場所”って聞いたんだ。
戦いでもない、逃亡でもない、“願い”のために立つ場所だって」
俺は静かに言う。
ここへ来たのは偶然ではない。
黒歌が過去と向き合い、これからの自分を問い直すための一歩として選んだ場所だった。
「私の願いなんて……もう分からない」
黒歌は笑うでもなく、俯くでもなく、ただ目を細めた。
その姿は戦闘のときよりずっと静かだが、どこか張り詰めている。
「分からなくて当たり前だよ」
絶花が柔らかく答えた。
彼女の声には、無理に慰める雰囲気がない。
ただ、真剣に受け止めてくれる優しさがあった。
「守るために戦ってきたはずなのに、
今の私は……何のために生きているのかも分からない」
黒歌の言葉は、神社の境内で静かに溶けていく。
蝉の声が一瞬だけ静まり、風が葉を揺らす。
「ねぇ、黒歌」
俺は鳥居の前で立ち止まり、黒歌の方を見た。
その顔には、まだ迷いと焦燥が混じっている。
「守るのが終わったら戦いは終わるのかって思ってた。
でも……終わらないんだよな。
守るべきものが無くなっても、
私はまだ……」
黒歌はそこで言葉を切った。
俺は深く息を吸う。
ここでは、戦闘でも正論でもなく、対話が答えを導く鍵になる。
「黒歌。
君がこれまで守ってきたものは確かにある。
それを無かったことにはできない。
でもね……」
俺は黒歌の真剣な瞳をまっすぐに見る。
「守るために戦うことだけが、
君の人生の“意味”じゃない」
その言葉を発した瞬間、黒歌の横顔が少しだけ揺れた。
「じゃあ……私は何をすればいい?」
彼女の声は震えていた。
それは弱さではなく、問いの確かさだった。
「俺にもまだ答えは分からないよ。
だから一緒に探そうって言ってるんだ」
俺はにっこり笑ったつもりだったが、少しぎこちなくなってしまった。
それでも、黒歌の目からほんの少しだけ何かが柔らいだ。
白雲とモネは、ふたりのやり取りを静かに見守っていた。
白雲は雲を揺らしながら、どこか穏やかな空気を作る。
モネは無言で雪を舞わせながら、黒歌の足元を静かに冷やしている。
「……分からないって、
こんなにも苦しいものなんだな」
黒歌はつぶやいた。
その声には、悲壮でもなく、諦観でもなく、
自分自身を見つめようとする力が宿っていた。
「じゃあさ、
守るためだけに戦うのはもう終わりにしよう。
これからは……自分の意思で歩くんだ」
絶花の言葉が、黒歌の胸にぱたりと落ちていった。
黒歌の瞳が、ゆっくりとこちらを向く。
「……私が……自分の意思で?」
その問いには、まだ少し戸惑いがあった。
「そう。
一歩ずつでいい。
ここからなら、始められる」
俺はそう告げながら、目の前の木漏れ日を見上げた。
それは、夏の日差しと秋の気配が混じるような柔らかい光だった。
「……わかった」
黒歌の声は静かだが、確かな決意を感じさせた。
その瞬間、俺たちは同じ方向を向いたような気がした。
過去を背負いながらも、未来へと歩み出す意志を見つけた気がした。
そして――その旅は終わらない。
夏休みはもう終わりに近いが。
「まだ、波乱は終わらないな」
次回の王は
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