サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
新学期の朝は、夏の名残を引きずった空気をしていた。
湿り気を帯びた風が校門へ向かう道を流れ、足取りを少しだけ重くする。
その中で、平子は妙に軽い調子で口を開いた。
「高等部、次のレーティング・ゲームが決まったんや」
俺は視線を前に向けたまま、歩調を変えずに聞く。
「へぇ」
「相手はな、アスタロト家」
名前を聞いても、正直ぴんと来なかった。
貴族の家名は多い。覚えきれるものじゃない。
「……誰だ、それ」
その問いに、平子は一瞬だけ目を細めた。
探るような、確かめるような視線。
「知らんか。まあ、中等部やったら無理もないな」
そう前置きしてから、淡々と説明を始める。
「ディオドラ・アスタロト。上級悪魔の嫡男や。血筋も立場も申し分なし。レーティング・ゲームの成績も優秀で、今後の中核候補言われとる」
「エリート、ってことか」
「せや。絵に描いたようなな」
平子は肩をすくめる。
「礼儀正しいし、表向きは紳士や。けどな、考え方は徹底して貴族やで」
俺は、そこで初めてわずかに興味を持った。
「どういう意味だ」
「人も関係も、全部“駒”として見るタイプや。感情よりも利益。善悪よりも効率。正しいかどうかやなくて、得か損か」
絶花が、小さく息を飲む気配がした。
「……嫌な言い方をすれば、冷たい人、ってこと?」
絶花の問いに、平子は否定も肯定もしない。
「冷たい、いうより割り切っとる。悪魔貴族としては、正解に近い考え方やな」
俺は、その言葉を噛みしめる。
正解。
誰にとっての正解なのか。
「そんな相手と、リアスたちがやるのか」
「せや。正規のレーティング・ゲームや。ルールも形式も問題なし」
平子はそこで、少しだけ声を落とした。
「せやけどな……こういう相手ほど、準備を怠らへん」
「準備?」
「眷属の構成、戦術、相手の癖。全部洗い出してから盤に上がるタイプや」
俺は、胸の奥で何かが静かに動くのを感じた。
戦いそのものより、その“姿勢”に引っかかりを覚える。
「つまり、油断ならない」
「せや。強いだけやなく、厄介や」
平子はそこで歩みを止め、俺の方を向いた。
「太郎。これは高等部の話や。お前が前に出る必要はない」
その言葉に、俺は頷く。
「分かってる。俺は関与しない」
即答だった。
「だが、何が起きるかは見る」
平子は、ゆっくりと笑った。
「その距離感、相変わらずやな」
冗談めいた声に戻りながらも、その目は真剣だった。
ディオドラ・アスタロト。
名前だけだった存在が、少しずつ輪郭を持ち始める。
まだ敵ではない。
だが、無関係とも言い切れない。
そんな予感だけが、胸に残った。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王