サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

583 / 703
嘘つきと暴走 Ⅱ

 新学期の朝は、夏の名残を引きずった空気をしていた。

 湿り気を帯びた風が校門へ向かう道を流れ、足取りを少しだけ重くする。

 

 その中で、平子は妙に軽い調子で口を開いた。

 

「高等部、次のレーティング・ゲームが決まったんや」

 

 俺は視線を前に向けたまま、歩調を変えずに聞く。

 

「へぇ」

 

「相手はな、アスタロト家」

 

 名前を聞いても、正直ぴんと来なかった。

 貴族の家名は多い。覚えきれるものじゃない。

 

「……誰だ、それ」

 

 その問いに、平子は一瞬だけ目を細めた。

 探るような、確かめるような視線。

 

「知らんか。まあ、中等部やったら無理もないな」

 

 そう前置きしてから、淡々と説明を始める。

 

「ディオドラ・アスタロト。上級悪魔の嫡男や。血筋も立場も申し分なし。レーティング・ゲームの成績も優秀で、今後の中核候補言われとる」

 

「エリート、ってことか」

 

「せや。絵に描いたようなな」

 

 平子は肩をすくめる。

 

「礼儀正しいし、表向きは紳士や。けどな、考え方は徹底して貴族やで」

 

 俺は、そこで初めてわずかに興味を持った。

 

「どういう意味だ」

 

「人も関係も、全部“駒”として見るタイプや。感情よりも利益。善悪よりも効率。正しいかどうかやなくて、得か損か」

 

 絶花が、小さく息を飲む気配がした。

 

「……嫌な言い方をすれば、冷たい人、ってこと?」

 

 絶花の問いに、平子は否定も肯定もしない。

 

「冷たい、いうより割り切っとる。悪魔貴族としては、正解に近い考え方やな」

 

 俺は、その言葉を噛みしめる。

 正解。

 誰にとっての正解なのか。

 

「そんな相手と、リアスたちがやるのか」

 

「せや。正規のレーティング・ゲームや。ルールも形式も問題なし」

 

 平子はそこで、少しだけ声を落とした。

 

「せやけどな……こういう相手ほど、準備を怠らへん」

 

「準備?」

 

「眷属の構成、戦術、相手の癖。全部洗い出してから盤に上がるタイプや」

 

 俺は、胸の奥で何かが静かに動くのを感じた。

 戦いそのものより、その“姿勢”に引っかかりを覚える。

 

「つまり、油断ならない」

 

「せや。強いだけやなく、厄介や」

 

 平子はそこで歩みを止め、俺の方を向いた。

 

「太郎。これは高等部の話や。お前が前に出る必要はない」

 

 その言葉に、俺は頷く。

 

「分かってる。俺は関与しない」

 

 即答だった。

 

「だが、何が起きるかは見る」

 

 平子は、ゆっくりと笑った。

 

「その距離感、相変わらずやな」

 

 冗談めいた声に戻りながらも、その目は真剣だった。

 

 ディオドラ・アスタロト。

 名前だけだった存在が、少しずつ輪郭を持ち始める。

 

 まだ敵ではない。

 だが、無関係とも言い切れない。

 

 そんな予感だけが、胸に残った。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。