サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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嘘つきと暴走 Ⅲ

夜の屋台は、相変わらず中途半端な時間に生きていた。

仕事帰りでもなければ、学生の寄り道でもない。何かから逃げるような連中と、何かを探している連中が、同じ湯気の下に集まる場所だ。

 

俺と平子は、並んで腰掛け、黙々とラーメンを啜っていた。

平子はいつもの軽口を封印したまま、妙に静かだ。こういう時のこいつは、だいたい「何かがいる」時だ。

 

視線の先、屋台の端。

銀色の気配を纏った男――ヴァーリは、腕を組んだまま、こちらを正面からは見ていなかった。ただ、俺が箸を動かすたび、湯気が揺れるたび、確実に“把握”している。

その隣で、美猴が楽しそうに笑いながら、替え玉を頼んでいる。この温度差が、逆に異常だった。

 

「中等部で王様気取っとるって噂、ほんまやったんやな」

 

美猴の軽い一言に、俺は箸を止めずに返す。

「噂は尾ひれが付くもんだ。俺はただの学生だ」

 

「ほう? それにしちゃ、平子と並んでラーメン食う胆力は、普通やないけどな」

 

平子が肩をすくめる。

「俺は食う相手選ばん主義や。危ない奴ほど、腹減っとるしな」

 

そのやり取りを、ヴァーリは黙って聞いていた。

そして、ふっと息を吐くように、初めてこちらを見た。

 

「……ディオドラ・アスタロト」

 

唐突に出た名前に、俺の思考が一瞬止まる。

知らない。だからこそ、その“間”が致命的だった。

 

「知らん顔やな」

 

ヴァーリの声は低く、感情がない。だが、試すような響きがあった。

俺は正直に答える。

 

「知らない。少なくとも、俺の盤面には出てきていない」

 

その瞬間、美猴の笑みが、ほんの少しだけ薄くなった。

平子は何も言わない。ただ、俺の反応を横目で確認している。

 

「アスタロト家の次代候補だ」

ヴァーリは淡々と続ける。

「頭は切れる。表向きは理知的で、争いを好まない。だが――」

 

そこで言葉を切る。

その沈黙が、やけに重かった。

 

「“自分が負ける可能性”を、計算に入れない男だ」

 

それだけで十分だった。

俺は箸を置き、屋台のカウンターに肘をつく。

 

「それはつまり、勝つ前提で動くか、負けた時の責任を取らないか。どっちだ?」

 

ヴァーリは、ほんの僅かに口角を上げた。

それが肯定なのか、興味なのかは分からない。

 

「さあな。だが、近々レーティング・ゲームで動く。

……関わる気がないなら、それでいい」

 

まるで、忠告のように。

だがその実、これは“餌”だ。

 

美猴が笑って肩をすくめる。

「ま、調べるなら今のうちや。あの手の男は、裏を掘ると大抵ロクなもんが出てこん」

 

平子がようやく口を開いた。

「聞いたか太郎。あんたの嫌いなタイプやで」

 

俺は苦笑しながら立ち上がる。

「嫌いだからこそ、放っておけない」

 

ヴァーリは席を立ち、背中越しに一言だけ残した。

「知りすぎると、戻れなくなる」

 

その背中が夜に溶けていくのを見送りながら、俺は確信していた。

ディオドラ・アスタロト。

この名前は、近いうちに必ず、俺の前に現れる。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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