サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
夜の屋台は、相変わらず中途半端な時間に生きていた。
仕事帰りでもなければ、学生の寄り道でもない。何かから逃げるような連中と、何かを探している連中が、同じ湯気の下に集まる場所だ。
俺と平子は、並んで腰掛け、黙々とラーメンを啜っていた。
平子はいつもの軽口を封印したまま、妙に静かだ。こういう時のこいつは、だいたい「何かがいる」時だ。
視線の先、屋台の端。
銀色の気配を纏った男――ヴァーリは、腕を組んだまま、こちらを正面からは見ていなかった。ただ、俺が箸を動かすたび、湯気が揺れるたび、確実に“把握”している。
その隣で、美猴が楽しそうに笑いながら、替え玉を頼んでいる。この温度差が、逆に異常だった。
「中等部で王様気取っとるって噂、ほんまやったんやな」
美猴の軽い一言に、俺は箸を止めずに返す。
「噂は尾ひれが付くもんだ。俺はただの学生だ」
「ほう? それにしちゃ、平子と並んでラーメン食う胆力は、普通やないけどな」
平子が肩をすくめる。
「俺は食う相手選ばん主義や。危ない奴ほど、腹減っとるしな」
そのやり取りを、ヴァーリは黙って聞いていた。
そして、ふっと息を吐くように、初めてこちらを見た。
「……ディオドラ・アスタロト」
唐突に出た名前に、俺の思考が一瞬止まる。
知らない。だからこそ、その“間”が致命的だった。
「知らん顔やな」
ヴァーリの声は低く、感情がない。だが、試すような響きがあった。
俺は正直に答える。
「知らない。少なくとも、俺の盤面には出てきていない」
その瞬間、美猴の笑みが、ほんの少しだけ薄くなった。
平子は何も言わない。ただ、俺の反応を横目で確認している。
「アスタロト家の次代候補だ」
ヴァーリは淡々と続ける。
「頭は切れる。表向きは理知的で、争いを好まない。だが――」
そこで言葉を切る。
その沈黙が、やけに重かった。
「“自分が負ける可能性”を、計算に入れない男だ」
それだけで十分だった。
俺は箸を置き、屋台のカウンターに肘をつく。
「それはつまり、勝つ前提で動くか、負けた時の責任を取らないか。どっちだ?」
ヴァーリは、ほんの僅かに口角を上げた。
それが肯定なのか、興味なのかは分からない。
「さあな。だが、近々レーティング・ゲームで動く。
……関わる気がないなら、それでいい」
まるで、忠告のように。
だがその実、これは“餌”だ。
美猴が笑って肩をすくめる。
「ま、調べるなら今のうちや。あの手の男は、裏を掘ると大抵ロクなもんが出てこん」
平子がようやく口を開いた。
「聞いたか太郎。あんたの嫌いなタイプやで」
俺は苦笑しながら立ち上がる。
「嫌いだからこそ、放っておけない」
ヴァーリは席を立ち、背中越しに一言だけ残した。
「知りすぎると、戻れなくなる」
その背中が夜に溶けていくのを見送りながら、俺は確信していた。
ディオドラ・アスタロト。
この名前は、近いうちに必ず、俺の前に現れる。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王