サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
オカルト研究部の部室は、いつもより少しだけ空気が張り詰めていた。
机の上に広げられた資料。ホワイトボードに書かれた陣形案。誰もが口には出さないが、次に控えるディオドラとのレーティング・ゲームが「絶対に落とせない一戦」だという共通認識が、部屋全体を支配していた。
「部長! 絶対に勝ちましょう!」
兵藤が、やや力みすぎた声で宣言する。
「ええ、勿論よ」
リアスは即答したが、その声音には覚悟と同時に慎重さも滲んでいた。
勝つつもりで挑む。だが、慢心はしない。
そんな部長らしい態度に、皆が小さく頷く。
そうやって互いを鼓舞し合っていた、その最中だった。
「へぇ……えらい気合入っとるやん。青春やなぁ」
場違いに軽い、しかも関西訛りのある声。
兵藤は反射的に顔を上げた。
「その声は――っ!」
天井近く。正確には、天井に足を引っ掛けるようにして、逆さまのままこちらを覗き込んでいる男がいた。
「お前は……転校生の平子!? なんでここに!」
「なんでって言われてもなぁ」
平子はぶらぶらと揺れながら、楽しそうに笑う。
「この前も言うたやろ。俺、王様の遣いみたいなもんやって」
「それは……紅丸のことね」
リアスが視線を鋭くする。
未だに掴めない相手。信用するには軽すぎて、疑うには情報が足りない。
「せやせや。まぁ今回はな、紅丸そのものの話っちゅうより、ちょっとした“提案”や」
「……提案?」
リアスが問い返す。
平子はその反応を待っていたかのように、わざとらしく間を置いた。
「あんたらのレーティング・ゲームやけどな。もしもの時は、こっちの勢力が力貸したるで」
「……はぁ?」
間の抜けた声が、誰のものとも分からないまま部室に落ちた。
リアスだけでなく、そこにいた全員が一斉に固まる。
「いきなり何を言っているの、あなたは」
「いやいや、戸惑うのは分かるで?」
平子は肩をすくめる。
「せやけどなぁ、実はちょっと前に、うちの王様とディオドラが軽〜くトラブル起こしてもうてな」
「トラブルって……」
その言葉で、空気が変わった。
全員の脳裏に浮かぶのは、少し前のディオドラの態度。
アーシアを命の恩人だと持ち上げながら、兵藤を露骨に見下していたあの視線。
好意的に思える要素は、正直ひとつもなかった。
「……どうやら察してくれたみたいやな」
平子は、皆の表情を見て満足そうに頷く。
「そういうことや」
「確かに、それを聞けば少しは分かるけど……だからと言って、あなた達を」
「信頼できへん、やろ?」
被せるように平子が言う。
「まぁ、その気持ちは分かるわ。分かるけどなぁ」
リアスは腕を組んだまま言い切る。
「当たり前でしょう。紅丸本人が姿を見せず、あなたの言葉だけで信用しろなんて」
「うわぁ、手厳しいなぁ」
平子は苦笑しつつも、どこか楽しそうだった。
「せやったら、一つだけ。秘密、教えたろか」
「秘密?」
部室の全員が、ほぼ同時に首を傾げる。
「実はな。この中に一人だけおるんや」
平子は指を一本立てる。
「うちの王様と“素顔で”会ったことある奴。大ヒントやで」
「えっ!? それって、どういう……」
「ヒントはここまでや」
平子はひらひらと手を振る。
「それが信頼の証、っちゅうことで。今度、主と一緒に顔出させてもらうわ」
「えっ、ちょっ――!」
その声を最後まで聞くことなく、平子の姿はふっと消えた。
まるで最初から存在していなかったかのように。
沈黙。
「……部長。本当に、信用できるんですか?」
小猫が、控えめに尋ねる。
「分からないわ」
リアスは即答した。
「でも、どちらにしても様子見は必要ね。敵でも、味方でも」
その言葉に、部員達は静かに頷いた。
知らないままでは、戦えない。
それだけは、全員が理解していた。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王