サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
観客席の一角。
試合が開始まで、ゆっくりと待ち構える
拙者は紅丸として、深く腰を下ろしていた。
視界の先には、これから始まるレーティング・ゲームの舞台。
結界越しに漂う魔力は、まだ静かだが、均一ではない。
期待、警戒、虚勢、不安。
それぞれの感情が、薄く色を変えた霧のように広がっている。
「……なるほどな」
隣で、気の抜けた声がした。
高等部の制服を着崩し、肘を膝に乗せたまま、平子がフィールドを眺めている。
「どう見ても、今日は“試合”やないなぁ。
あれはもう、品定めや。人の価値を量るための場所やで」
「随分と物騒な見方だな」
「物騒に見えへん方が、よっぽど物騒やろ?」
平子は肩をすくめる。
その視線は、ディオドラ陣営の控えに向けられていた。
「ほら見。あの前列三人。魔力の出し方、綺麗すぎるやろ。
訓練通り、想定通り。つまり“見せる役”や」
「囮か」
「せや。ほんで、本命は……」
平子の顎が、わずかに別の方向を示す。
控えの奥。目立たない位置に立つ一人の悪魔。
魔力は薄い。だが、完全に消えてはいない。
「抑えてるな」
「正解。
抑えられる奴は、だいたい厄介や。
力を誇示したがる奴ほど、実戦じゃ脆い」
拙者は腕を組み、視線を戻す。
ディオドラ本人が、ちょうど中央に姿を現したところだった。
礼儀正しい所作。落ち着いた笑み。
周囲の視線を自然に集める立ち位置。
「……相変わらず、良い顔をしている」
「せやろ?
“正しい悪魔”の見本市や。
ああいう顔が一番信用される」
平子の声が、ほんの少し低くなる。
「せやからな、紅丸。
今日の一番の判断は――“何をするか”やなくて、“何をせえへんか”や」
「……助けない、という選択か」
「ちゃう」
平子は首を横に振った。
「助けるかどうかを、今ここで決めへん、いう選択や」
拙者は、ゆっくりと息を吐いた。
確かに、ここは観客席だ。
手を出せば、即座に均衡が崩れる。
それは救いにもなるが、同時に“線”を越える行為でもある。
「測る、というわけか」
「さすが。話が早いな」
平子は口元だけで笑う。
「ディオドラが、どこまで“勝つために壊れるか”。
リアスたちが、どこまで“守るために賭けるか”。
それを見届けてからでも、遅うない」
「だが――」
拙者は、フィールドを見つめたまま言う。
「それで取り返しがつかない事態になったら?」
平子は、即答しなかった。
数秒の沈黙。
そして、静かな声。
「その時はな……
お前が“王”として、どこまで背負えるか、や」
冗談めいた軽さは、そこにはなかった。
ただの観測者ではいられない。
だが、調停者になるつもりもない。
拙者は、己の膝に置いた手を、ぎゅっと握る。
「……今日は、見る」
「うん。それでええ」
平子は満足そうに頷いた。
「見て、集めて、覚えとき。
世界はな、選ばんかった選択肢の数で、人を試すんや」
その瞬間、結界が強く脈打つ。
開始の合図が、空気を震わせた。
観客席がどよめく中、拙者は静かに目を細める。
――この試合は、ただの勝敗では終わらない。
その確信だけが、胸の奥に、重く沈んでいた。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王