サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
観客席に走ったざわめきは、歓声ではなかった。
それは、違和感に気づいた者たちの、遅れて噴き出したざわめきだった。
「……おい」
平子が、声を落として言う。
その視線の先、ディオドラ陣営の背後に――一つ、また一つと、淡紫色の魔方陣が浮かび上がっていく。
「多すぎやろ。あれ」
「……ああ」
拙者も、思わず立ち上がりかけていた。
魔方陣の形は、ディオドラの使う系統とは微妙に違う。
文様が古い。刻印が荒い。
そして何より――“開き方”が、明らかに強引だった。
「旧魔王派の陣やな」
平子が、笑わずに言った。
「しかも、結構本気のやつや。
あれ、試合の演出ちゃうで。
結界そのものを“戦場”に変えるつもりや」
次の瞬間。
魔方陣の中心から、異形の影が一体、二体と姿を現した。
観客席が一気に騒然となる。
リアス陣営の布陣が、即座に戦闘配置へと切り替わるのが、遠目にも分かった。
「……なるほどな」
平子が、低く呟く。
「ディオドラは“駒”や。
本命は、あの陣を投げ込んだ連中やな」
「禍の団か」
「ほぼ確定やろ」
平子は帽子の縁を指で押さえ、目を細めた。
「旧魔王派の術式を借りて、レーティング・ゲームの中に戦場を仕込む。
勝敗の裏で、勢力の実験。
あいつ、思ったよりずっと深いとこまで踏み込んどるで」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で、何かが静かに決まった。
拙者は、もう一度フィールドを見つめる。
リアスの指示が飛び、兵藤たちが必死に陣形を整えている。
だが、突然割り込んだ異物に、完全に対応しきれてはいない。
「……ここまでだな」
「お?」
平子が、ちらりとこちらを見る。
拙者は、紅丸の仮面の奥で、静かに息を整えた。
「これ以上、見ているだけでは済まない。
あれは“試合”ではない。
街を巻き込む前に、止める」
「ほう。
観測者やめて、介入者に戻るんか」
「一時的にな」
拙者は、観客席の縁に手をかけた。
「ディオドラではない。
狙うべきは、陣を開いた側だ」
平子は、少しだけ目を細め――すぐに、いつもの軽い調子に戻った。
「ええやん。
ほな、役割分担やな」
そのときだった。
背後から、軽やかな拍手の音。
「やれやれ。観客席で戦争会議とは、なかなか大胆だね」
振り返ると、そこにいたのは――アザゼルだった。
いつもの白衣姿で、にやにやと笑いながら立っている。
「状況は見た。
旧魔王派の術式だ。結界の管理権限も、少し弄られてる」
「転移できるか」
拙者が即座に問う。
「できるとも。ただし――」
アザゼルは、平子と拙者を交互に見て、にやりと笑った。
「二人一緒は無理だ。
干渉が多すぎてね。別々に飛ばす」
平子が、すぐに口を開く。
「なら、俺を敵陣の真ん中に放り込んでや」
「ほう?」
「陣を開いとる連中、内側からひっくり返したる。
あいつら、後ろに回り込まれるの一番嫌いやからな」
拙者は頷いた。
「なら、拙者はリアス陣営へ合流する。
前線を立て直す」
アザゼルは、満足そうに手を打つ。
「決まりだな。
じゃあ――行くぜ、二人とも」
平子が、こちらを振り返り、にっと笑う。
「紅丸。
先に派手に荒らしとくから、そっちは安心して守りに専念し」
「無茶はするな」
「それ、俺の台詞やで」
次の瞬間、足元の空間が歪んだ。
光が弾け、視界が一瞬で反転する。
平子の姿が、闇に溶けるように消え――
同時に、拙者の身体は、別の座標へと引きずり込まれていった。
――戦場の只中へ。
次回の王は
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妖怪王
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怪獣王
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幻想王