サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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嘘つきと暴走 Ⅷ

結界内の空気は、もはや試合のそれではなかった。

地面に刻まれた魔方陣が、淡い紫光を放ちながら次々と展開され、空間そのものが侵食されていく。

その中心付近で、リアス陣営の隊列は大きく乱れていた。

 

「……アーシアが、いない……?」

 

兵藤の声が震えた。

次の瞬間、リアスが歯を噛みしめる。

 

「……攫われたわ。ディオドラに」

 

その言葉が落ちた直後、空間が裂けるように歪み、拙者は彼女たちの前に降り立った。

砂を蹴散らしながら着地した紅丸の姿に、一同が息を呑む。

 

「紅丸……!?」

「どうして、ここに……!」

 

だが、その視線はすぐに、拙者の背後ではなく、空を走る魔力の軌跡へと向けられた。

アーシアの気配が、はっきりと遠ざかっていくのが分かる。

 

「……時間がない」

 

拙者は短く告げた。

 

「ディオドラはまだこの結界内にいる。

 だが、彼の背後にいる連中が動き始めている」

 

「じゃあ……アーシアは……!」

 

「必ず取り戻す」

 

その言葉に、リアスが一瞬だけ安堵の表情を見せる。

だが次の瞬間、拙者の視線が、結界の中央へと向けられたことで、彼女の顔色が変わった。

 

そこには――

敵集団の真ん中に、ひとり逆さまに宙へ浮かびながら立つ男の姿があった。

 

平子真子。

 

「……あの人、ひとりで……?」

 

姫島の声に、困惑が滲む。

 

拙者は、わずかに目を細めた。

 

「彼は、あの場を引き受けるつもりだ」

 

「え……!?

 仲間を置いて、先に行くつもりなの!?」

 

「違う」

 

拙者は、静かに言い切った。

 

「彼がいるからこそ、拙者も行えるな」

 

その瞬間――

結界中央で、平子がゆっくりと拍手した。

 

結界の中の空気は、さらに重く、濁っていった。

魔方陣の淡紫の光が幾層にも重なり、夜の校庭は不自然な明滅を繰り返している。

その中心で、平子はひとり、逆さまの姿勢のまま、敵陣のど真ん中に浮かんでいた。

 

「……なんや、えらい睨まれとるなぁ。人気者はつらいで」

 

そう呟いた瞬間、周囲の敵たちが一斉に魔力を構える。

だが、その視線はどこか噛み合っていなかった。

 

「おい、そこ動くな。背後を取られてるぞ」

 

「何言ってる、俺の後ろは安全だ。狙うなら右だ、右!」

 

「……は?」

 

誰も、自分たちの認識が狂っていることに気づいていない。

互いを味方だと疑わず、疑う相手を“敵”だと信じきっている。

 

平子は、口元だけで笑った。

 

「ほな……そろそろ、ひっくり返すで」

 

次の瞬間、彼の声が、低く、はっきりと響く。

 

「――お前らの常識も、この状況も、みんなまとめてひっくり返したるわ」

 

刀が閃く。

 

「禁手、逆様邪八宝塞」

 

音が、裏返った。

 

空間の位相が、捻じ曲がる。

 

敵たちは、何が起きたのか理解できないまま、互いを“敵”として認識し始めた。

 

「……何でお前、こっちを見る?」

 

「何って……敵だろ?」

 

「は?」

 

言葉が終わる前に、魔力弾が放たれた。

だが、その矛先は、平子ではなく、すぐ隣にいた仲間の胸を撃ち抜いた。

 

「――な……なんで……?」

 

倒れた男は、最後まで“味方に撃たれた”という事実を理解できないまま絶命する。

 

別の場所では、剣を構えた悪魔が、仲間の背中へ突き刺した。

 

「動くな、抵抗するな」

 

「待て、俺だ! 俺だってば……!」

 

だが、その声は、完全に“敵の悲鳴”としてしか認識されなかった。

 

混乱は、雪崩のように連鎖していく。

誰も、自分たちの視界が反転していることに気づかない。

敵味方の区別が、根こそぎ書き換えられている。

 

――その光景を、結界の端で、リアスたちは呆然と見つめていた。

 

「……な、何が……起きているの……?」

 

姫島の声が、かすかに震える。

 

木場は剣を構えながら、視線を彷徨わせる。

 

「……敵同士が……戦っている……?」

 

拙者は、静かに彼女たちの前に立ち、視線を中央へ向けた。

 

「平子の神器の禁手だ」

 

リアスが、はっとこちらを見る。

 

「禁手……? あの能力、いったい……」

 

拙者は短く息を吐き、説明する。

 

「あの神器は、周囲の認識を反転させる。

 敵と味方の区別を、根本から狂わせる術だ」

 

「……そんな……」

 

「だが、無差別ではない」

 

拙者は、視線を逸らさず続けた。

 

「味方が周囲に一人でもいれば、使えない。

 そして、敵が大量にいなければ効果も薄い。

 孤立し、敵の真ん中に立つ覚悟がなければ、発動条件すら満たせない禁手だ」

 

リアスは、息を呑む。

 

「……だから……平子さんは、ひとりで……」

 

「そうだ。

 拙者たちを巻き込まぬために、あえて敵陣の中央へ降りた」

 

その瞬間、結界の別方向から、重い衝撃音が響いた。

 

「ぐ……ぁ……!」

 

ディオドラ・アスタロトの身体が、地面を転がる。

錯乱した部下の魔力弾と斬撃を、まともに受けた形跡が、全身に刻まれていた。

 

彼の腕の中から、力なく滑り落ちる影。

 

「……アー……シア……?」

 

白い修道服の少女が、砂の上に崩れ落ちる。

 

「アーシア!!」

 

兵藤が駆け寄り、抱き起こす。

 

ディオドラは、よろめきながら立ち上がり、ようやく正気を取り戻した顔で、周囲を見回した。

 

壊滅していく自軍。

味方同士で倒れ伏す部下たち。

 

そして――目の前に立つ、紅い侍。

 

「……紅丸……」

 

その声には、恐怖よりも、濃密な憎悪が滲んでいた。

 

「……また……貴様か……」

 

拙者は、静かに一歩、踏み出す。

 

「アーシアは返してもらう」

 

ディオドラは、歯を食いしばり、なおも睨みつけてくる。

 

その背後では、なおも平子の禁手の中で、敵同士の戦いが続いていた。

誰一人として、自分が“間違った敵”を斬っていることに、気づかぬまま。

 

戦場は、完全に裏返っていた。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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