サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
砂の匂いが濃い。足を踏むたび、乾いた音が返る。
拙者達は刀を水平に構えたまま、護衛の輪の中心にいる男へ視線を走らせた。
――オーディン。噂ほどの威圧はない。だが、背中に“世界の重み”だけは背負っている顔だ。
その前に立つリアスたちは、空気を切り替えるのが早い。敵を前にした悪魔の眼だ。
その均衡を、笑い声ひとつで踏み潰すように、空から降りてくる影があった。
灰色の髪が尾のように揺れ、黄いろい眼が薄闇を舐める。
「いやぁ、遠いところまでご苦労さん。……オーディンの爺さん」
声は軽い。軽いのに、言葉の端だけが妙に鋭い。
「そんなに“仲良しごっこ”が好きならさ、もっと派手にやろうぜ? 北欧も、聖書も、悪魔も……全部いっぺんにひっくり返してさ」
リアスが一歩前に出る。
「ロキ……! ここで何をするつもり?」
ロキは肩をすくめた。
「何って、決まってんだろ。爺さんを殺して、ラグナロクの合図を鳴らす。単純で、最高に楽しい」
楽しげに言い切ってから、目線だけで周囲を撫でる。
「へぇ……護衛が悪魔の若いのばっかりってのも、皮肉が効いてるな。オーディンも落ちたもんだ」
オーディンが静かに杖を鳴らす。
「ロキ。余の前で戯言を重ねるな。お前は封じられるべき存在だ」
「封じる? またそれ?」ロキは笑う。
「封印ってのはさ、正義ぶった連中が“見ないふり”するための箱だぜ。箱に入れりゃ問題が消えると思ってる。……その思考が、もう甘い」
拙者は、息を吐いた。
言葉は軽口。だが中身は、確実に殺しに来ている。
その瞬間。
校庭の端で、地面が軋んだ。砂が盛り上がり、影が膨らむ。
牙の白さがライトを噛み砕くみたいに浮いた。
――フェンリル。
狼の神獣が、こちらに向けて喉を鳴らす。
拙者は身体の向きを変え、刀先をそちらへ向けた。
「……相手が増えた、の巻。なら拙者は狼を引き受ける」
ロキが面白そうに指を鳴らす。
「いいねぇ! それだよそれ。爺さんの護衛に混じってる知らねぇ侍が、俺の息子とやり合う。絵になるじゃん」
黄いろい眼が、今度はミストシャドウへ滑った。
「で、そっちの黒いのは……何だ? 匂いが妙に“人間寄り”だな。人のくせに、人外を憎んでる顔だ」
ミストシャドウは返事を急がない。呼吸のリズムだけを整え、拳を握り直す。
その無言が、逆に刺さる。
ロキは舌先で笑った。
「黙りか。嫌いじゃない。……けどさ、怒りで動く奴は扱いやすいんだよ。お前のその憎しみ、俺が燃料にしてやろうか?」
ミストシャドウが、低く言い捨てる。
「口を閉じろ。人を惑わす神を、私は一番信用しない」
「信用?」ロキは首を傾げる。
「信用なんて概念、戦場じゃ一番邪魔だろ。必要なのは勝ち負けだけだ」
そして、オーディンへ笑いかける。
「なあ爺さん。お前が“和平”を握ってるつもりなら、俺がそれを握り潰す。お前が守ってるものは、俺が笑いながら壊す。――それが、神の遊びだ」
リアスたちの空気が張り詰める。
アーシアが息を呑み、兵藤が歯を食いしばる。
拙者は、刀の柄を握る手に力を込めた。
フェンリルが前脚で砂を掻き、突進の姿勢に入る。
ロキが、まるで舞台の開幕を告げる役者みたいに両手を広げた。
「さあ、始めようぜ。退屈な会議の続きより、よっぽど面白い“現実”を見せてやる」
拙者は、ミストシャドウと視線を交わさずに理解した。
ここは分担だ。狼は拙者が止める。神は、ミストシャドウが止める。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王