サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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北欧で共同戦線 Ⅲ

フェンリルは速い。

速いというより「速さの定義を更新してくる」。

校庭の砂を蹴った瞬間に、もう次の瞬間の位置にいる。

剣豪紅丸の拙者が間合いを測ったつもりでも、測った“つもり”の外側から牙が来る。

 

「――っ!」

断絶丸を横薙ぎに振る。

刃が夜気を裂き、火花が散る。

だが、当たった感触がない。

砂に残るのは爪痕だけで、肝心の本体はもう背後だ。

 

フェンリルの唸り声が、鼓膜ではなく骨に響く。

拙者は足を滑らせず、砂を踏んで踏んで踏み直す。

刀は守れる。

だが、守り続けた先に勝ちが見えない。

このまま近接で追いかけっこをしていたら、先に削れるのは拙者だ。

 

「……不利、の巻。」

呟いて、即断する。

勝ち筋は、速度を速度で追わない。

速度を“面”で潰す。

 

拙者は腰の妖怪ウォッチへ手を伸ばす。

そして懐から、ミーのメダルを抜いた。

指先で向きを確かめ、ウォッチのスロットへ迷いなく装填する。

 

『Y!チェンジフォーム!妖怪HERO!ワイルドボーイ!』

 

音声と同時に、紅い気配が弾ける。

和の輪郭がほどけ、陽気な熱が身体を塗り替えていく。

刀の重みが軽くなったわけじゃない。

拙者の“戦い方”のほうが、勝手に別物へと切り替わる。

 

観客席がざわついた。

「えっ、また変わった!?」みたいな声が飛ぶ。

リアスたちの視線も、アザゼルの目も、一瞬だけこちらに吸い寄せられる。

ミストシャドウですら、空気の揺れで「何をした」と察した気配があった。

 

ミーは、両手に二丁拳銃を構える。

口が勝手に笑う。

舌が勝手に軽い。

 

「ミー、ワイルドに見参!」

――そして、ミーの一人称も勝手に決まる。

妙に腹立つが、今はそのまま走らせる。

 

「オーケー狼ちゃん。速いなら、ミーは速く撃つだけだぜ!」

 

引き金を絞る。

ビーム弾が連なって夜を縫い、砂を抉り、フェンリルの進路を削る。

一発一発が“当てる”というより“寄せない”ための弾幕だ。

フェンリルは跳ぶ。

跳ぶたびに弾が追う。

追うたびに、着地点が奪われる。

 

「どうした? さっきの鬼ごっこ、もう飽きたのかよ――ミャウ……じゃねぇ! 今はミーだ!」

言いかけて自分で引っ込める。

口調が変わってる自覚があるのが、逆に腹立つ。

でも今は、それでいい。

勝つのが先だ。

 

フェンリルは低く身を沈め、弾の隙間を抜けようとする。

その瞬間を逃さず、ミーは銃口を下げて砂を撃った。

砂煙が上がる。

視界を奪うのではなく、動きの“予告線”を浮かび上がらせるためだ。

狼の軌道が、煙の中に線として見える。

 

「そこだ!」

左右の銃で、線の先を潰す。

フェンリルの動きが一瞬だけ止まる。

止まったというより、止まらざるを得ない。

速さを誇る獣ほど、進路を奪われると弱い。

 

ミーは後退しない。

真正面から圧をかけ続ける。

撃つ。

撃つ。

撃って、撃って、撃って。

フェンリルの牙が届く距離に入らせない。

 

そして次の一手。

ミーの尻尾が、ひゅいと動いた。

尻尾の先で、新しいメダルをつまむ。

ウォッチのスロットへ滑り込ませる“準備”だけを整える。

まだ装填はしない。

装填は、フェンリルがもう一度跳んだ瞬間。

確実に間合いが開く、その一瞬で。

 

「悪いな狼ちゃん。次はもっと派手にいくぜ。ミーがな!」

 

ミーは笑って、銃口を上げた。

フェンリルは唸り、砂を踏み砕く。

互いの次の一手が、夜の校庭に張り付いたまま、動き出そうとしていた。

ミーは、砂を蹴って木陰から木陰へ跳ねた。

フェンリルの影が追ってくる。速い。速すぎる。牙と爪の気配が背中を舐めて、ミーの首筋が勝手に粟立つ。

 

「ハハッ! オーケー、ウルフ! 追いかけっこは好きだぜ、ミーもな!」

 

両手の二丁拳銃が火を噴く。

ビーム弾が走る。だがフェンリルは“当たる前にいない”。銃口を向けた瞬間に距離がズレる。反射で撃つほどに、相手の速度が嫌味なく刺さってくる。

 

「ノンノン。これ、ミーの土俵じゃないな」

 

ミーは一瞬だけ後ろへ跳び、空中で身体をひねった。

その隙に、尻尾が腰のウォッチへ滑り込む。人間の指よりよほど器用に、しっかりとメダルを押し込んだ。

 

「来い、ちびのぶ!」

 

次の瞬間、空気が変わった。

風の匂いじゃない。血の匂いでもない。火薬だ。遠い昔の戦場の、乾いた硝煙が鼻の奥をくすぐる。

 

小さな影が、ミーの肩の上に“どん”と居座った。

小さくて、図太くて、妙に偉そうな存在感。周囲の気配が一段、ピンと張る。

 

「よっし。ちびのぶ、ミーの背中、貸すぞ」

 

返事は言葉じゃない。

肩越しに伝わる圧だ。“撃て”という意思が、そのまま骨に響いてくる。

 

ミーが一歩踏み込むと同時に、ちびのぶの気配が溶けた。

 

『火縄ワイルドボーイ!』

 

溶けたというより、纏った。胸元から背中へ、蜘蛛の糸みたいに“伝承”が絡みつく。熱が上がるのに、頭は妙に冷える。戦いの勘が、別の回路で点火した感覚。

 

「オーケー……レジェンド、オン!」

 

二丁拳銃が鳴いた。

いや、鳴き方が変わった。金属の軽い音じゃない。木と鉄が軋む、古い武器の息遣い。握りの感触が、一気に“儀式”へ寄る。

 

二丁拳銃は、火縄銃になっていた。

 

「……は?」

 

周囲の視線が跳ねたのが分かる。

空気の一瞬の間。ロキだのオーディンだの、遠くの気配がざわついたのも、耳の端に引っかかる。だが今は、ミーの前にいる狼だけだ。

 

フェンリルが踏み込む。

地面が沈む。筋肉の塊が、月光を裂いて迫る。牙が笑う。爪が、斬る前提の角度で振り抜かれる。

 

「させるかよ」

 

ミーが引き金を引くより先に、空間が“並んだ”。

背後、左右、斜め上。見えないはずの場所に、火縄銃が次々と浮かび上がる。一本、二本じゃない。隊列だ。陣形だ。鉄砲隊の“数”が、夜の校庭に展開する。

 

フェンリルの目が僅かに細くなる。

速さの獣が、初めて“警戒”の間を作った。

 

「ガンライン――オープンファイア!」

 

ドン。

最初の一発が空気を揺らす。火花が散る。弾が走る。

 

フェンリルが避ける。

速い。だが、避けた先が悪い。

 

ドン、ドン。

二斉射。

跳んだ軌道へ、追い縋るように弾が刺さる。フェンリルが空中で身体を捻る。毛皮が波打つ。弾は致命にならない。だが“通る”。通って、痛みの情報が入る。

 

「……効く、だと?」

 

ロキの声が低く響いた。

神獣の格が、怒りで重くなる。

 

ミーは笑う。

笑える。これが欲しかった。

 

「当たり前だろ。ちびのぶの伝承(レジェンド)だぜ? 神話(ミソロジー)相手に、飾りで出すと思うか?」

 

三斉射。

弾が雨になる。雨というより、矢の壁。フェンリルは速度で抜けるタイプの敵だ。だから速度を“使わせない”撃ち方をする。避けた先、踏み込む先、跳ぶ先。全部に弾の予定を置く。

 

フェンリルが舌打ちし、地面へ落ちた。

その瞬間、ミーが前へ出る。撃ち続けながら距離を詰める。弾幕は殺しじゃない。牽制だ。足を止めるための“言い聞かせ”だ。

 

「来いよ、ウルフ。噛みたいなら噛め。けど――」

 

ミーは一瞬だけ、火縄銃の照準を“地面”に落とした。

ドン。

砂が跳ねる。視界が霞む。フェンリルの嗅覚が働く前に、二斉射が“霞の輪郭”を撃つ。フェンリルが反射で身を引く。自分でも無意識に、弾を避けてしまう。

 

その「一瞬」が、戦場では致命だ。

 

ミーは尻尾を動かす。

ウォッチへ。次の一手の準備をするために。――今はまだ装填しない。必要なのは、時間だ。

 

「ミーは倒すために撃ってない。止めるために撃ってる」

 

フェンリルが唸り、踏み込む。

だがさっきより慎重だ。慎重になった時点で、速度の獣はほんの少し弱くなる。

 

鉄砲隊が鳴く。

火花が散る。

弾が“伝承”を纏って走る。神話の毛皮に、痛みの線を刻む。

 

フェンリルは怒りに目を燃やしながら、それでも退かない。

ミーは笑みを崩さず、銃を構え直した。戦場の主導権は、今だけミーの手のひらにある。

 

「さあ、次のラウンドだ。ミーの番、まだ終わってねぇぞ」

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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