サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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北欧で共同戦線 Ⅳ

フェンリルが一歩引いた瞬間、ミーの火縄銃隊列も一斉に銃口を下げた。

撃ち勝ったわけじゃない。噛み合いを“ずらした”だけだ。

 

「ハッ……次、来たらもっと楽しくなるな、ウルフ」

ミーが笑って言った、その刹那だった。

 

空気の温度が、すっと落ちる。

背筋の毛が逆立つ感覚は、フェンリルじゃない。ロキだ。

 

視界の端で、夜空に細い魔方陣が浮かび、そこから“糸”みたいな光が走った。

狙いはミーの背中。心臓の角度。――完全に不意打ち。

 

「――っ!」

身体が反応するより先に、頭の中で「当たる」と確信が立った。

そういうのが一番、タチが悪い。

 

だが、光が刺さる寸前で、世界が霞んだ。

霧だ。濃い、湿った霧じゃない。乾いた煙みたいに薄いのに、存在感だけが妙に重い。

 

霧が光の糸を撫でるように横切り、狙いが“わずかに”逸れた。

ほんの数センチ。だけどそれで十分だった。光はミーの急所を外れ、肩口の空気だけを裂いて消える。

 

「……チッ」

ロキの舌打ちが聞こえた。

派手に外したわけじゃない。狙いを狂わせた“誰か”がいることが、ロキには気に食わない。

 

霧の向こう、黒い影が一瞬だけ揺れた。

黒歌だ。言葉はない。けど、霧の出し方が“喋ってる”。

――余計なことはするな、死ぬな、今は勝ちじゃない。

 

フェンリルが唸り、ロキの方へ跳ぶ。

ロキは肩をすくめるように笑って、軽く手を振った。

 

「面倒だなあ。だが、面白い」

声はやけに楽しげで、同時に冷たい。

「次は、もっとよく観察してから遊ぼう」

 

その瞬間、足元の魔方陣が裏返るように反転し、ロキとフェンリルの輪郭が夜に溶けた。

撤退だ。迷いがない。

勝てるかどうかじゃない。今は“損をしない”方を選んだ。

 

火縄銃の隊列が、ふっと消える。

ミーは銃を下ろし、深く息を吐いた。

 

「……オーケー。逃げた。逃げたけど、勝った気はしねぇな」

 

周囲の気配が戻ってくる。

遠くで護衛の連中がざわつき、ロキの消えた方向へ警戒線が張られる。

その中心に、ただ一人、最初から最後まで動じない老人がいた。

 

オーディン。

空気が違う。威圧じゃない。重力みたいな存在感で、場を“静かに支配”している。

 

「……お前」

オーディンが、まるで古い本のページをめくるみたいな声で言った。

「妙な変化をする。妖か、神か、それとも――別の何かか」

 

ミーは肩をすくめた。

正体を答える気はない。答えた瞬間、世界が面倒になる。

 

「ミーはミーだぜ、じーさん。分類はそっちで勝手にやってくれ」

軽口を叩いてみせるが、内心は冷えていた。

ここで言葉を交わせば交わすほど、相手は“把握”してくる。オーディンはそういうタイプだ。

 

オーディンは目を細め、興味深そうに笑った。

「なるほど。ならば――また会う機会もあるだろう」

 

その“また”が、脅しでも約束でもないのが厄介だった。

未来を当然のように置いていく物言い。王の癖だ。

 

ミーは霧の方を見た。

黒歌の霧が、いつの間にか足元まで来ている。

まるで帰り道を用意するみたいに。

 

「……オーケー、黒猫。ナイスアシスト」

礼を言っても黒歌は答えない。霧だけが濃淡を変え、ミーの輪郭を撫でた。

 

霧が、身体を包む。

視界が白くなる。音が遠ざかる。

次の瞬間、世界の“中心”から自分が外される感覚が走った。

 

オーディンの声が、最後に一度だけ追ってくる。

「逃げたのではない。引いたのだな」

 

ミーは笑って返した。

「そういうことにしとけ」

 

霧が閉じる。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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