サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
「次に狙われる可能性が高い場所があります」
そう言って彼女が示したのは、駒王町のビル。
「……ここ?」
絶花が小さく眉を寄せる。
「ええ。結界の“縫い目”が薄い。襲撃者は、強い扉じゃなくて弱い継ぎ目を選びます」
ロスヴァイセの口調は丁寧なのに、言っていることは戦場の判断そのものだ。
俺は頷いた。
「行くぞ。黒江も呼ぶ」
少し歩いた先、空気が変わった。
視界の端に“霧のような影”が滲み、次の瞬間には黒江残月が立っていた。隣には相変わらず無表情のゾヴァラス。
黒江は俺を見て、声を低くする。
「……北欧は、まだ諦めてない」
「諦める理由がないからな」
俺が返すと、黒江は一瞬だけ目を細めた。褒めているのか睨んでいるのか分からない、いつもの顔だ。
ロスヴァイセが小さく会釈した。
「黒江残月さん。協力、感謝します」
黒江は返事の代わりに、視線だけで肯定した。
沈黙のまま進みかけて、黒江がぽつりと吐いた。
「……人外は敵だ」
言葉が落ちた瞬間、絶花の肩がこわばった。
ロスヴァイセは顔色を変えない。ただ、呼吸が一拍だけ浅くなる。護衛としての警戒だ。
俺は歩みを止めた。
「極端だな」
黒江は立ち止まり、夜の方を見て言う。
「極端でいい。人間を惑わす存在は排除する。それが正しい」
「じゃあ聞く」
俺は黒江の横顔に向けて言葉を投げた。
「お前の相棒の“宇宙人”は何だ。あれも人外だろ」
黒江の眉が微かに動いた。
「……ゾヴァラスは違う。あいつは人を守るために戦う」
「守るために戦うなら、人外でも味方になる」
俺は淡々と言う。
「それ、悪魔にも天使にも当てはまる。妖怪にも当てはまる。つまり――“種族”じゃなくて“意志”の話だ」
黒江が、初めて真正面から俺を見る。
「……お前は、人外に優しすぎる」
「優しいんじゃない。分類が雑なのが嫌いなだけだ」
俺は肩をすくめる。
「人外って箱を作った瞬間、便利になる。殴っていい理由が手に入る。で、殴る側は気持ちよくなる。危険だ」
黒江の口が、わずかに開いたまま止まった。
言い返そうとして、言葉が見つからない顔だ。
ロスヴァイセが慎重に割って入る。
「……差し出がましいですが。北欧でも、味方と敵を“種族”だけで決めることはありません」
絶花が小さく頷いた。
「太郎の言い方は偉そうだけど、言ってることは……筋は通ってる」
「偉そうは余計だ」
「事実だよ」
黒江はゆっくりと息を吐いた。
「……俺は」
その声が、少しだけ揺れた。
「俺は、人外に家族を奪われた。だから“人外は敵”だと決めた」
俺は何も言わない。ここは口を挟む場面じゃない。
黒江自身に言わせた方が、ずっと効く。
黒江は続ける。
「……でも、ゾヴァラスは例外にした。守るから、味方にした」
指先が、無意識に握られている。
「……それって」
黒江の視線が落ちた。
自分の言葉に、自分で刺されたみたいに。
「……俺も、差別してたのか」
その一言は、弱さじゃない。
むしろ、今の黒江にとって一番痛い“理解”だ。誇り高い奴ほど、自分の矛盾を認めるのは難しい。
俺は一歩だけ近づいて、低く言った。
「気づけたなら上等だ。矛盾を抱えたまま戦え。世界は綺麗に割れない」
黒江は目を閉じる。
「……まだ納得はしていない」
「それでいい」
「だが、今はロキを止める」
「利害一致だな」
「ああ」
ゾヴァラスは無言のまま、影のように立っている。
ロスヴァイセは安堵と緊張が混ざった顔で、歩き出す合図を出した。
「急ぎましょう。次の襲来は、こちらです」
俺たちは再び歩き出した。
目的地は同じでも、地図の読み方は違う。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王