サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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妖と宙のレーティング・ゲーム Ⅳ

「さて、この宇宙空間ではそうだが、まさか、そっちが有利という訳じゃないだろうな?」

 

俺は口に出しながら、半分は自分に言い聞かせていた。

空が天井になっている。星が規則正しく並んでいる。足元は床の顔をしているのに、土でもコンクリでもない。

ここは“戦うためだけ”に切り取られた場所だ。戦いに不要な情報を削ぎ落として、必要な情報だけを増幅する。

そういう場所に、俺たちは立っている。

 

黒江は俺の言葉を受けて、いつも通りの顔で答えた。

 

「その点では、心配するな。正々堂々とした戦いでなければ、私はお前を越えたとは思えない。だが、まずは互いの仲間達による力量から始める」

 

正々堂々。

その単語が出た瞬間、胸の奥で何かが軋んだ。黒江の口から出る“正々堂々”は、たぶん本物だ。

こいつは卑怯が嫌いなんじゃない。卑怯で勝っても、意味がないだけだ。

勝つためじゃなく、越えるために戦う。

それは健全で、そして危険だ。目的が“勝利”より尖っているから。

 

黒江が取りだしたのはメダルだった。

小さな円盤。だけど、ここではそれが軍隊の引き金になる。

 

同時に、空中に一つの画面が浮かぶ。

光の板みたいな四角。映像ではない。表示だ。世界そのものが提示してくるルール。

 

『兵士✕1』

 

「これは……」

 

喉が乾く。たった三文字なのに、意味が重い。

兵士が一体。つまり、王や切り札を最初から切らせない。

“手札の小さい勝負”から始めて、互いの癖と底を測る。

この会場自体がそういう思想を持っているみたいで、妙に腹が立つ。

 

黒江は平然と続けた。

 

「これよりは5本勝負。どのような形式になるのか、互いには分からない」

 

分からない、がルール。

情報を与えないことが公平だと、この空間は言っている。

だが、それは俺にとっては少しだけ嫌な公平さだった。

分からない状況ほど、経験と勘がものを言う。

そして俺は——経験なら山ほどあるが、ここが悪魔でも妖怪でもない“宇宙人の盤面”だという一点が、俺の勘を鈍らせる。

 

「なるほど。だったら、俺はこいつらだな」

 

口では軽く言った。

軽口を叩いていないと、この静けさに飲まれる気がしたからだ。

俺の心臓は、静けさに対して無駄にうるさい。

この空間は音を吸うくせに、鼓動だけは吸わない。むしろ増幅してくる。

 

黒江が眉を僅かに上げる。

 

「ふむ、複数形か。ならば」

 

複数形。

その一言で俺は思う。

黒江は俺を“個の強さ”で測りたいんじゃない。俺の国を見たい。

俺がどんな駒を選び、どんな順番で切り、どんな勝ち筋を作るか。

つまり——王としての俺を、試しに来ている。

 

それと共に、俺たちは互いのウォッチにメダルを装填する。

金属音ではなく、概念が噛み合うような小さなクリック。

この空間は、そういう音の方を“正しい音”として採用している。

 

俺は一度だけ息を吸って、吐く。

肩の力を落とす。

落としたはずなのに、胸の奥の力は抜けない。

“勝負が始まる”という事実が、体の奥で刃物みたいに光っている。

 

「「来い!」」

 

声が重なる。

その瞬間、視界が一度、ちらついた。

召喚の演出というより、空間が“数”を現実に変換する処理を始めた感じだ。

 

俺の眼前に現れたのは、大量のちびノブ達。

小さい。けど、数がある。

小さな足音が一斉に鳴ると、床が微かに震える。

目の前だけでも百体以上。視界の端にもまだ湧いてくる。

俺は思わず、笑いそうになる。

ふざけた見た目のくせに、これだけ並ぶと戦場の圧が出るから笑えない。

 

——数は力だ。

それは当たり前の真理で、当たり前だからこそ怖い。

相手がそれをどう受け止めるかで、黒江の戦い方が見えてくる。

 

対して、黒江が召喚したのは、ちびノブとは異なる何か。

一頭身の丸いオレンジの身体。

黄褐色の鏡餅みたいな輪郭の顔。

そこから手足が生えている。

数は少なく見える。だが、少ないとは限らない。

“表示”が兵士✕1である以上、あれは一体扱いで、群れとして成立している可能性がある。

つまり、こっちは数で押す。向こうは一体の中に数の機能を詰める。

同じルールで、真逆の解釈。

そういう時点で、黒江は俺の裏をかくのが上手い。

 

黒江が声を張った。

 

「さぁ、行くぞ、ワドルディ達よ!戦いの時だ!」

 

ワドルディ。

名前を聞いた瞬間、俺の脳が“分類”を始める。

集団運用、補助、連携、耐久。

小さく丸いのは、前線で殴り合うより、陣形で圧をかけるタイプだ。

見た目が可愛いほど、嫌な仕事をしてくる。

俺の経験則がそう告げる。

 

俺も叫ぶ。

 

「戦の時間だ!ちびノブ達よ!」

 

声に勢いを乗せる。

勢いは自分のためだ。

この会場は、迷いを重くする。

ならば、勢いは軽くする。勢いは前に進むための嘘で、嘘は時に真実より役に立つ。

 

その言葉と共に、互いの軍勢同士の戦いが始まりを告げる。

ちびノブ達が突撃する。

小さな槍や小さな旗が揺れる。

数の塊が一つの波になり、オレンジの群れへぶつかっていく。

 

ワドルディ達は、散らない。

散らないというだけで、硬い。

前に出る個体、後ろに回る個体、横にずれる個体。

動きが“部隊”だ。

俺は思わず舌打ちしそうになる。

可愛い顔して、ちゃんと戦争を知っている。

 

ちびノブ達は数で押す。

押して、押して、押し込む。

だが押し込み切る前に、ワドルディ達が形を変える。

陣形を組み替える。

波が当たるたびに、柔らかく受けて、返す。

相撲みたいな戦い方だ。

正面からぶつかって、力で勝つんじゃない。相手の勢いを利用して、転がす。

 

俺の胃の奥が、少しだけ熱くなる。

面白い。

そして、嫌だ。

この勝負は兵士戦だ。

なのに、もう黒江の思想が見える。

“力で殴らない。力を使って崩す”。

俺が最も嫌いなタイプじゃない。

俺が最も、油断すると食われるタイプだ。

 

——いや。

油断していないのに食われるタイプ、か。

 

俺は目を細めて、戦場全体の動きを読む。

百体の衝突が、ただの乱戦にならないように。

こちらの数が多いほど、統率が崩れた瞬間に“数の利点”が“数の欠点”へ反転する。

 

ここで俺がするべきは、勝ちを焦ることじゃない。

黒江の“次の手”を読むことだ。

五本勝負。

これは一戦で終わる勝負じゃない。

一戦目は、情報戦だ。

 

ちびノブ達の叫び声と、ワドルディ達の整った動き。

その対比が、宇宙の天井に吸い込まれていく。

俺は息を吐いて、頭の中の余計な音を消した。

——まずは、一勝。

その一勝の取り方で、次の四本の景色が決まる。

ワドルディ達が、どのような行動をするのか。

それは、俺達は分からなかった。

分からない、というのは不思議なもので、情報がないだけなのに、相手が“強い”ように見えてしまう。

この宇宙人の作った空間は特にそうだ。

静かな分、想像がうるさくなる。

相手が何をしてくるか分からない時ほど、心臓は勝手に最悪の未来を描きたがる。

 

だからこそ、まず初めに行ったのは、変な読み合いじゃない。

単純に、こっちの得意な形を押し付けることだ。

俺は息を吸って、吐いて、余計な考えを切った。

そして叫ぶ。

 

「構えろ!」

 

ちびノブ達が一斉に動く。

小さい体が揃って方向転換するだけで、部隊になる。

あいつらは数が多いだけじゃない。

“集団としての癖”がある。

右へ、左へ、前へ。

俺の声に反応して、迷いなく形を作る。

そういうところは、見ていて少し誇らしい。

そして、同時に怖い。

俺の命令一つで、百以上の命が同じ向きを向くのだから。

 

それと共に、ちびノブ達は自分達にとって得意な武器である火縄銃を構えていた。

火縄銃なんて、本来は扱いが難しい。

装填が遅い。

雨や風に弱い。

近距離で振り回せば邪魔になる。

でも、ここは宇宙空間みたいでいて、戦うために都合よく整えられた“盤面”だ。

火も煙も、都合よく成立する。

つまり、俺達の弱点が、削られている。

 

狙いは明白だった。

槍を持って迫ってくるワドルディ達。

数も動きも整っている。

なら、整う前に崩す。

崩すなら距離だ。

距離を支配できるのは、今は銃だ。

 

「撃てぇ!」

 

その瞬間、火縄銃が一斉に火を吐く。

乾いた轟音。

硝煙の匂いがするはずなのに、宇宙の空気はそれすら整理してくる。

音だけが、必要な分だけ響く。

撃つ、という行為だけが誇張される。

この会場、性格が悪い。

 

銃弾が雨みたいに降り注ぐ。

ワドルディ達に向かって、一直線に。

当たる。

当たる。

当たる。

一体、二体、三体。

丸い身体が弾けるように吹き飛んでいく。

眼が×マークになって、ぐるぐる回りながら転がっていく。

ちびノブ達が歓声を上げる。

俺も一瞬だけ、肩の力が抜けた。

 

これだけならば、特に問題無い。

はずだった。

 

勝っている時ほど危ない。

勝っている時ほど、目が“勝ち方”に寄って、相手の“次”を見るのを忘れる。

俺は分かっているつもりだった。

分かっているつもりで、危うくなるのがいつものパターンだ。

 

ワドルディ達の後ろが、妙に静かになった。

突撃の勢いが一瞬止まった。

それは撤退の気配じゃない。

“切り替え”の気配だ。

俺の背筋に、嫌な冷たさが走る。

 

その後ろから現れたのは――。

 

「えぇ」

 

俺の口から、間抜けな声が漏れた。

完全に、感情が先に出た。

理屈が追いつかない時の声だ。

 

「宇宙人とは言え、色々ととんでもないノブ!?」

 

ちびノブの方も、状況を理解できていない叫びを上げた。

俺だけじゃない。

場にいる全員が、目の前の“追加情報”に殴られている。

 

現れたのは、なぜかロボットに乗ったワドルディ達だった。

丸い身体が、丸いコックピットに収まっている。

金属の腕。

金属の脚。

でかい。

さっきまでの“槍持って走ってくる可愛い兵隊”が、急に“歩く戦車”になった。

この変化、反則じゃないのか、と一瞬思う。

でも、ルールは『兵士✕1』だ。

兵士一体の枠内で、装備を変えただけ。

つまり、同じ一体。

ただし中身が、俺の想定の外。

 

それだけじゃない。

見た事のない未知の乗り物に乗ったワドルディ達もいる。

バイクみたいに見えるのに、タイヤがない。

宙に浮いて、滑るように移動する。

砲台みたいなものを積んでいる個体もいる。

盾みたいな板を前面に出している個体もいる。

あまりにも“用途”が分かれている。

役割が分担されすぎている。

つまり、こいつらは最初から、連携を前提に作られている。

 

「こりゃ、負けたノブ」「いや、諦め早っ!」

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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