サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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妖と宙のレーティング・ゲーム Ⅴ

ワドルディ達の勝利は、こちらの想定よりも“ずっと静か”に決まった。

俺の視界の端から端まで、さっきまで確かに埋め尽くしていたはずのちびノブ達が、今はもう、ところどころで折り重なって転がっている。

火縄銃は数丁が砂の上に転げ、撃ち殻みたいに虚しい音を立てた。

煙も、熱も、勢いも、ある。

あるのに、勝ちの匂いがしない。

これが、戦の不思議だ。

 

「構えを崩すな!」と何度叫んだか分からない。

ちびノブ達は俺の声に応えた。

応えて、撃って、倒した。

倒したはずだった。

 

ロボットに乗ったワドルディが現れた瞬間、戦場の“物差し”が折れた。

足音が違う。

重量が違う。

そもそも、あいつらの動きが「歩兵」の発想じゃない。

火縄銃の弾が装甲に当たっては弾け、火花が咲いて終わる。

当たっているのに、届いていない。

俺の中で、嫌な理解が形になる。

これは“強い”とか“上手い”じゃない。

文明の段差だ。

 

ワドルディ達は隊列を整え、ロボの腕を揃えて振り下ろした。

拳が落ちるたび、ちびノブ達が景気良く宙を舞う。

その光景は悲惨なのに、どこか玩具みたいで腹が立つ。

俺は王として怒るべきか、友として叫ぶべきか迷って、結局どっちもやった。

 

「おい、待て! ちびノブ達は戦ってるんだぞ!」

俺が言う。

ちびノブが返す。

『戦ってるのぶ! 戦ってるのぶけど!』

 

次の瞬間、ワドルディのロボが横薙ぎに腕を払った。

風圧で、ちびノブ達がまとめて転がる。

砂が舞って、視界が白くなる。

砂が落ちる頃には、もう隊列は崩れていた。

 

それでも、ちびノブ達は立ち上がった。

火縄銃を拾い、足を引きずりながら、もう一度構えた。

俺の胸の奥が、妙に熱くなった。

負け戦でも、前を向くのか。

たかが小さなノブ達のくせに、いや、小さなノブ達だからこそ、まっすぐだ。

 

そのまっすぐさを、ワドルディ達は無表情のまま叩き潰す。

ロボの足が踏み込み、地面が揺れた。

次の一撃で、最後の火縄銃の列が消し飛ぶみたいに散った。

 

そして、終わった。

拍子抜けするほど、あっさり。

勝敗の盤面表示が、空中で点滅する。

 

『兵士✕1:勝者 黒江側』

 

俺は息を吸って、吐いた。

悔しい。

情けない。

それでも、ちびノブ達がまだ生きていることに、変な安心もある。

この戦いは“殲滅”じゃない。

戦意喪失で終わる。

だからこそ、こういう負けができる。

……いや、負けていいわけじゃないが。

 

砂の上で、ちびノブ達が折り重なっている。

制服の袖を焦がし、頬を真っ黒にし、全員が同罰みたいにボロボロだ。

その中心で、最前列にいた一体が、震える手を上げた。

目がぐるぐるしている。

なのに、言葉だけは妙に落ち着いていた。

 

「文明があまりにも違い過ぎたのぶ」

 

俺の心臓が、ぎゅっと縮んだ。

悔しさも、情も、全部まとめて喉に詰まる。

 

「ちびノブぅ!!」

 

叫んだ俺の声が、宇宙空間の壁に反射して、やけに情けなく戻ってきた。

ちびノブ達は、俺の叫びに対して、なぜか親指を立てた。

立てながら倒れた。

倒れながら「次は勝つのぶ」とか言って、そこで力尽きた。

コメディの皮をかぶった忠義って、いちばん刺さる。

 

黒江は向こう側で、腕を組んだまま俺を見ている。

笑ってはいない。

だが、満足そうでもない。

たぶん、これはまだ前菜だ。

俺の心情がどれだけ転がろうが、黒江は“勝負”だけを積み上げてくる。

 

「……派手にやられたな」

俺が言うと、黒江は短く頷いた。

「戦いは結果だ。だが、お前の駒は最後まで折れなかった」

「褒め言葉として受け取っていいのか?」

「好きにしろ」

 

その返しが、妙にむかついて、妙にありがたかった。

 

空中の表示がスッと切り替わる。

次のカテゴリが、容赦なく現実を連れてくる。

 

『戦車✕1』

 

戦車。

つまり、ここからは“硬い”勝負だ。

歩兵のノリで突っ込めば潰される。

火縄銃で穴が開かないなら、別の論理で叩くしかない。

 

俺は息を吐き切って、頭の中を切り替える。

さっきの敗北を引きずる暇はない。

この試合は五本勝負。

次が来る。

もう来ている。

 

「……黒江」

「何だ」

「次は、俺の番だ」

「そうだな」

 

俺は拳を握り、空中の『戦車✕1』を睨む。

負けた悔しさは、まだ胸にある。

だが、その悔しさを抱えたまま前へ出られるなら、それは武器になる。

 

「来い」

俺は言う。

「次の一手だ」

 

空中の表示が切り替わった瞬間、俺の胃のあたりがきゅっと縮んだ。

さっきの「兵士✕1」は、数で押して、数で殴られて、数で負けた。

あれはあれで納得できる……できるけど、納得したまま終われるほど俺は出来た王様でもない。

 

『戦車✕1』

 

戦車。

ぶつかったら最後まで止まらない役回り。

硬い、強い、簡単に折れない。

そして何より――“一体だけ”で盤面をひっくり返す可能性がある。

 

俺は、倒れて伸びているちびノブ達を見た。

焦げた匂いと砂の味の中で、あいつらは悔しそうな顔のまま、それでもちょっと誇らしげに寝ている。

あの負けは無駄にしない。

俺は息を整えて、次の札を切る。

 

「……次は、任せるぞ」

 

言葉を落とすと同時に、俺は妖怪ウォッチの方へ意識を寄せた。

“戦車”の駒。

俺の側の切り札は、迷うまでもない。

 

「来い、オーガポン」

 

呼びかけに合わせて、気配がふっと現れる。

最初に見えたのは、揺れる布の端と、面の輪郭。

顔は隠れているのに、そこにいるだけで感情が伝わってくるタイプのやつだ。

寂しがりで、いたずら好きで、なのに妙に繊細で――そのくせ、一度腹を括ったら誰よりも怖い。

 

オーガポンは俺の前に立ち、面越しにこちらを見上げた。

背丈は大きくない。

でも、立ち方が“逃げない立ち方”をしている。

それだけで頼もしさがある。

 

「今回は一体勝負だ。相手は――」

 

俺が言いかけたところで、向こう側が動いた。

黒江が無駄のない手つきでメダルを掲げる。

黒江の表情は淡いまま、声だけが確かだった。

 

「……ドルル。前へ」

 

次の瞬間、空気が冷えた。

現れたのは濃い青色の小柄な影。

だが小柄だから可愛い、なんて評価を許さない。

全身から「撃てる」「殺せる」「壊せる」が滲み出ている。

 

両腕には機関銃。

帽子の耳の部分が砲身みたいに角度を変える。

後頭部には砲とバーニア。

見た目は丸いのに、中身が完全に“兵器の都合”で構成されている。

 

ドルルは俺とオーガポンを見て、短く言った。

 

「……排除」

 

その一語だけで、こっちの空気が一段重くなる。

オーガポンが、面の奥で息を吸ったのが分かった。

怖がってるんじゃない。

むしろ、じっと相手の匂いを嗅いで、距離を測っている。

 

「黒江」

俺は視線を外さずに言う。

「いきなり物騒だな」

 

黒江は肩をすくめた。

「戦車は、そういう役目だ」

 

「……正々堂々って言ってたの、どこ行った」

 

「正々堂々だ。ドルルは最初からこういう奴だ」

 

理屈としては通ってるのが腹立つ。

俺はオーガポンの横顔を見る。

面の奥は読めない。

でも、指先がほんの少しだけ、そわそわしている。

好奇心と警戒が混ざった、“いたずら前”の落ち着かなさだ。

 

「オーガポン」

俺は小さく声をかける。

「相手は撃ってくる。近づくまでが勝負だ」

 

オーガポンはこくりと頷いた。

その仕草が、妙に“素直な子”っぽくて、俺の胸が一瞬だけ緩む。

だが次の瞬間、その緩みを吹き飛ばすように、ドルルの武装が唸りを上げた。

 

「……開始」

 

黒江の一声。

同時に、ドルルの腕が開き、機関銃が火を噴く。

音が違う。

火縄銃の“破裂”じゃない。

連続した破壊音が、空間そのものを削ってくる。

 

オーガポンの足元の砂が跳ね、粉になって舞う。

一歩遅れたら、体そのものが穴だらけになる。

 

「っ――!」

 

俺は思わず歯を食いしばる。

盤面の中に入れない自分が、ひどく無力に感じる。

だが、ここは“戦車✕1”。

俺がやるべきは、迷いを切ることだ。

 

「オーガポン! 走れ!」

 

オーガポンはすぐに動いた。

直線じゃない。

左右に、細かく、跳ねるように。

いたずら好きの足取りで、殺意の弾幕をすり抜ける。

 

それでも、弾は追ってくる。

ドルルの狙いが正確すぎる。

機関銃の“面”で薙いでいるのに、中心だけは確実にオーガポンを捉えている。

 

オーガポンが地面を蹴った。

砂が爆ぜる。

次の瞬間、身体をひねって弾道を避ける。

その動きが可憐なのに、背中に薄い怒りが宿っているのが分かった。

 

「……嫌い」

 

面の奥から、か細い声が漏れた。

たぶん、銃撃そのものが嫌いなんじゃない。

“話をする前に撃ってくる”その態度が、嫌いなんだ。

それがオーガポンらしい。

優しいわけじゃない。

ただ、自分の納得を大事にする。

 

ドルルがバーニアを吹かし、位置をずらす。

撃ちながら移動して、逃げ道を塞ぐ。

戦場を“狩り場”に変えていくやり方だ。

 

「……上手いな」

俺が唸ると、黒江が淡々と言った。

「ドルルは、そういうのが得意だ」

 

得意で済ませるな。

あれは技術じゃなくて、習性だ。

 

オーガポンは一瞬だけ立ち止まり、面に手を添えた。

俺はその仕草を見て、背筋がひやりとする。

鬼面。

属性が変わる。

つまり、ここから“オーガポンの本気”が始まる。

 

「……オーガポン、落ち着け」

俺は叫びすぎない声で言う。

「お前のタイミングでいい。焦るな」

 

オーガポンは、面の奥で小さく息を吐いた。

そして、もう一度走り出す。

今度はさっきより低く、地面に吸い付くように。

弾の隙間を読むというより、弾幕の“呼吸”に合わせて潜り込む動き。

 

ドルルの機関銃が少しだけ角度を変える。

追いつけると踏んだ。

その瞬間――オーガポンが、砂を蹴って跳んだ。

跳んだ先は前じゃない。横でもない。

ほんの少し後ろ、ドルルの射線がずれる“間”だった。

 

「……来た」

 

俺の喉が鳴る。

あと数歩で間合い。

ここまで来れば、撃ち続けるほどドルルの射線は窮屈になる。

銃は近距離でこそ怖いが、近距離でこそ“読み”も生まれる。

 

黒江の視線が鋭くなる。

ドルルが、帽子の耳の砲身をオーガポンへ向けた。

次は、機関銃じゃない。

もっと太い一撃が来る。

 

――この一発をどうする。

 

オーガポンは、面に指をかけたまま、ほんの少しだけ笑った気がした。

いたずらが成功する直前の顔。

それが見えた瞬間、俺は確信する。

 

この戦車戦、ここからが本番だ。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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