サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
ワドルディ達の勝利は、こちらの想定よりも“ずっと静か”に決まった。
俺の視界の端から端まで、さっきまで確かに埋め尽くしていたはずのちびノブ達が、今はもう、ところどころで折り重なって転がっている。
火縄銃は数丁が砂の上に転げ、撃ち殻みたいに虚しい音を立てた。
煙も、熱も、勢いも、ある。
あるのに、勝ちの匂いがしない。
これが、戦の不思議だ。
「構えを崩すな!」と何度叫んだか分からない。
ちびノブ達は俺の声に応えた。
応えて、撃って、倒した。
倒したはずだった。
ロボットに乗ったワドルディが現れた瞬間、戦場の“物差し”が折れた。
足音が違う。
重量が違う。
そもそも、あいつらの動きが「歩兵」の発想じゃない。
火縄銃の弾が装甲に当たっては弾け、火花が咲いて終わる。
当たっているのに、届いていない。
俺の中で、嫌な理解が形になる。
これは“強い”とか“上手い”じゃない。
文明の段差だ。
ワドルディ達は隊列を整え、ロボの腕を揃えて振り下ろした。
拳が落ちるたび、ちびノブ達が景気良く宙を舞う。
その光景は悲惨なのに、どこか玩具みたいで腹が立つ。
俺は王として怒るべきか、友として叫ぶべきか迷って、結局どっちもやった。
「おい、待て! ちびノブ達は戦ってるんだぞ!」
俺が言う。
ちびノブが返す。
『戦ってるのぶ! 戦ってるのぶけど!』
次の瞬間、ワドルディのロボが横薙ぎに腕を払った。
風圧で、ちびノブ達がまとめて転がる。
砂が舞って、視界が白くなる。
砂が落ちる頃には、もう隊列は崩れていた。
それでも、ちびノブ達は立ち上がった。
火縄銃を拾い、足を引きずりながら、もう一度構えた。
俺の胸の奥が、妙に熱くなった。
負け戦でも、前を向くのか。
たかが小さなノブ達のくせに、いや、小さなノブ達だからこそ、まっすぐだ。
そのまっすぐさを、ワドルディ達は無表情のまま叩き潰す。
ロボの足が踏み込み、地面が揺れた。
次の一撃で、最後の火縄銃の列が消し飛ぶみたいに散った。
そして、終わった。
拍子抜けするほど、あっさり。
勝敗の盤面表示が、空中で点滅する。
『兵士✕1:勝者 黒江側』
俺は息を吸って、吐いた。
悔しい。
情けない。
それでも、ちびノブ達がまだ生きていることに、変な安心もある。
この戦いは“殲滅”じゃない。
戦意喪失で終わる。
だからこそ、こういう負けができる。
……いや、負けていいわけじゃないが。
砂の上で、ちびノブ達が折り重なっている。
制服の袖を焦がし、頬を真っ黒にし、全員が同罰みたいにボロボロだ。
その中心で、最前列にいた一体が、震える手を上げた。
目がぐるぐるしている。
なのに、言葉だけは妙に落ち着いていた。
「文明があまりにも違い過ぎたのぶ」
俺の心臓が、ぎゅっと縮んだ。
悔しさも、情も、全部まとめて喉に詰まる。
「ちびノブぅ!!」
叫んだ俺の声が、宇宙空間の壁に反射して、やけに情けなく戻ってきた。
ちびノブ達は、俺の叫びに対して、なぜか親指を立てた。
立てながら倒れた。
倒れながら「次は勝つのぶ」とか言って、そこで力尽きた。
コメディの皮をかぶった忠義って、いちばん刺さる。
黒江は向こう側で、腕を組んだまま俺を見ている。
笑ってはいない。
だが、満足そうでもない。
たぶん、これはまだ前菜だ。
俺の心情がどれだけ転がろうが、黒江は“勝負”だけを積み上げてくる。
「……派手にやられたな」
俺が言うと、黒江は短く頷いた。
「戦いは結果だ。だが、お前の駒は最後まで折れなかった」
「褒め言葉として受け取っていいのか?」
「好きにしろ」
その返しが、妙にむかついて、妙にありがたかった。
空中の表示がスッと切り替わる。
次のカテゴリが、容赦なく現実を連れてくる。
『戦車✕1』
戦車。
つまり、ここからは“硬い”勝負だ。
歩兵のノリで突っ込めば潰される。
火縄銃で穴が開かないなら、別の論理で叩くしかない。
俺は息を吐き切って、頭の中を切り替える。
さっきの敗北を引きずる暇はない。
この試合は五本勝負。
次が来る。
もう来ている。
「……黒江」
「何だ」
「次は、俺の番だ」
「そうだな」
俺は拳を握り、空中の『戦車✕1』を睨む。
負けた悔しさは、まだ胸にある。
だが、その悔しさを抱えたまま前へ出られるなら、それは武器になる。
「来い」
俺は言う。
「次の一手だ」
空中の表示が切り替わった瞬間、俺の胃のあたりがきゅっと縮んだ。
さっきの「兵士✕1」は、数で押して、数で殴られて、数で負けた。
あれはあれで納得できる……できるけど、納得したまま終われるほど俺は出来た王様でもない。
『戦車✕1』
戦車。
ぶつかったら最後まで止まらない役回り。
硬い、強い、簡単に折れない。
そして何より――“一体だけ”で盤面をひっくり返す可能性がある。
俺は、倒れて伸びているちびノブ達を見た。
焦げた匂いと砂の味の中で、あいつらは悔しそうな顔のまま、それでもちょっと誇らしげに寝ている。
あの負けは無駄にしない。
俺は息を整えて、次の札を切る。
「……次は、任せるぞ」
言葉を落とすと同時に、俺は妖怪ウォッチの方へ意識を寄せた。
“戦車”の駒。
俺の側の切り札は、迷うまでもない。
「来い、オーガポン」
呼びかけに合わせて、気配がふっと現れる。
最初に見えたのは、揺れる布の端と、面の輪郭。
顔は隠れているのに、そこにいるだけで感情が伝わってくるタイプのやつだ。
寂しがりで、いたずら好きで、なのに妙に繊細で――そのくせ、一度腹を括ったら誰よりも怖い。
オーガポンは俺の前に立ち、面越しにこちらを見上げた。
背丈は大きくない。
でも、立ち方が“逃げない立ち方”をしている。
それだけで頼もしさがある。
「今回は一体勝負だ。相手は――」
俺が言いかけたところで、向こう側が動いた。
黒江が無駄のない手つきでメダルを掲げる。
黒江の表情は淡いまま、声だけが確かだった。
「……ドルル。前へ」
次の瞬間、空気が冷えた。
現れたのは濃い青色の小柄な影。
だが小柄だから可愛い、なんて評価を許さない。
全身から「撃てる」「殺せる」「壊せる」が滲み出ている。
両腕には機関銃。
帽子の耳の部分が砲身みたいに角度を変える。
後頭部には砲とバーニア。
見た目は丸いのに、中身が完全に“兵器の都合”で構成されている。
ドルルは俺とオーガポンを見て、短く言った。
「……排除」
その一語だけで、こっちの空気が一段重くなる。
オーガポンが、面の奥で息を吸ったのが分かった。
怖がってるんじゃない。
むしろ、じっと相手の匂いを嗅いで、距離を測っている。
「黒江」
俺は視線を外さずに言う。
「いきなり物騒だな」
黒江は肩をすくめた。
「戦車は、そういう役目だ」
「……正々堂々って言ってたの、どこ行った」
「正々堂々だ。ドルルは最初からこういう奴だ」
理屈としては通ってるのが腹立つ。
俺はオーガポンの横顔を見る。
面の奥は読めない。
でも、指先がほんの少しだけ、そわそわしている。
好奇心と警戒が混ざった、“いたずら前”の落ち着かなさだ。
「オーガポン」
俺は小さく声をかける。
「相手は撃ってくる。近づくまでが勝負だ」
オーガポンはこくりと頷いた。
その仕草が、妙に“素直な子”っぽくて、俺の胸が一瞬だけ緩む。
だが次の瞬間、その緩みを吹き飛ばすように、ドルルの武装が唸りを上げた。
「……開始」
黒江の一声。
同時に、ドルルの腕が開き、機関銃が火を噴く。
音が違う。
火縄銃の“破裂”じゃない。
連続した破壊音が、空間そのものを削ってくる。
オーガポンの足元の砂が跳ね、粉になって舞う。
一歩遅れたら、体そのものが穴だらけになる。
「っ――!」
俺は思わず歯を食いしばる。
盤面の中に入れない自分が、ひどく無力に感じる。
だが、ここは“戦車✕1”。
俺がやるべきは、迷いを切ることだ。
「オーガポン! 走れ!」
オーガポンはすぐに動いた。
直線じゃない。
左右に、細かく、跳ねるように。
いたずら好きの足取りで、殺意の弾幕をすり抜ける。
それでも、弾は追ってくる。
ドルルの狙いが正確すぎる。
機関銃の“面”で薙いでいるのに、中心だけは確実にオーガポンを捉えている。
オーガポンが地面を蹴った。
砂が爆ぜる。
次の瞬間、身体をひねって弾道を避ける。
その動きが可憐なのに、背中に薄い怒りが宿っているのが分かった。
「……嫌い」
面の奥から、か細い声が漏れた。
たぶん、銃撃そのものが嫌いなんじゃない。
“話をする前に撃ってくる”その態度が、嫌いなんだ。
それがオーガポンらしい。
優しいわけじゃない。
ただ、自分の納得を大事にする。
ドルルがバーニアを吹かし、位置をずらす。
撃ちながら移動して、逃げ道を塞ぐ。
戦場を“狩り場”に変えていくやり方だ。
「……上手いな」
俺が唸ると、黒江が淡々と言った。
「ドルルは、そういうのが得意だ」
得意で済ませるな。
あれは技術じゃなくて、習性だ。
オーガポンは一瞬だけ立ち止まり、面に手を添えた。
俺はその仕草を見て、背筋がひやりとする。
鬼面。
属性が変わる。
つまり、ここから“オーガポンの本気”が始まる。
「……オーガポン、落ち着け」
俺は叫びすぎない声で言う。
「お前のタイミングでいい。焦るな」
オーガポンは、面の奥で小さく息を吐いた。
そして、もう一度走り出す。
今度はさっきより低く、地面に吸い付くように。
弾の隙間を読むというより、弾幕の“呼吸”に合わせて潜り込む動き。
ドルルの機関銃が少しだけ角度を変える。
追いつけると踏んだ。
その瞬間――オーガポンが、砂を蹴って跳んだ。
跳んだ先は前じゃない。横でもない。
ほんの少し後ろ、ドルルの射線がずれる“間”だった。
「……来た」
俺の喉が鳴る。
あと数歩で間合い。
ここまで来れば、撃ち続けるほどドルルの射線は窮屈になる。
銃は近距離でこそ怖いが、近距離でこそ“読み”も生まれる。
黒江の視線が鋭くなる。
ドルルが、帽子の耳の砲身をオーガポンへ向けた。
次は、機関銃じゃない。
もっと太い一撃が来る。
――この一発をどうする。
オーガポンは、面に指をかけたまま、ほんの少しだけ笑った気がした。
いたずらが成功する直前の顔。
それが見えた瞬間、俺は確信する。
この戦車戦、ここからが本番だ。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王