サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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妖と宙のレーティング・ゲーム Ⅶ

『戦車✕1』の表示が消えた直後だった。

空間に残っていた熱が、ふっと引いていく。

勝ったはずのオーガポンが戻ってきても、俺の喉の奥は乾いたままだ。

次の試合を告げる表示が、無機質に切り替わる。

 

『僧侶✕1』

 

「……来たか」

黒江が小さく言う。

その声が、さっきまでより一段低い。

 

対して、俺の側に立つ黒田坊は、錫杖を一度、地面に鳴らした。

カン、と澄んだ音。

あの音が鳴ると、空気が変わる。

森での奇襲を思い出させる、静かな“始まりの合図”だ。

 

黒江がメダルを掲げる。

その瞬間、召喚の光が走り――現れたのは、最初から“グレイ”を思わせる格好をした男だった。

肌の色味がどうこうじゃない。

整いすぎた無表情、無駄のない立ち姿、異様に薄い体温の気配。

灰色の装いが、戦場の色を奪う。

 

「ラザホー」

黒江が名前だけ告げる。

それ以上の説明を、あえて削ったみたいに。

 

ラザホーは俺たちの方を見ない。

正確には、“誰を見るべきか”を決めていない目で、空間全体を測っている。

配置、距離、質量。

人間の目線じゃなく、機械のスキャンに近い。

 

「……相手の圧が静かすぎるな」

俺が呟くと、黒田坊が低く答える。

 

「静けさは、刃よりも恐ろしい時がございます」

 

ラザホーが、ようやく口を開いた。

声は乾いていて、感情の起伏が少ない。

 

「……開始」

 

それだけで充分だった。

空気が張り詰める。

砂の上の一歩が、急に重くなる気がした。

 

黒田坊が先に動く。

速い。

錫杖を前に出し、間合いを測りながら、袖口の奥に指を差し込む。

 

「御免」

 

その一言と同時に、法衣の裾がふわりと揺れた。

次の瞬間。

 

手裏剣が散り、鎖分銅が伸び、槍の穂先が月光を噛む。

武器が“抜かれる”というより、“溢れる”。

森の暗闇なら、これだけで終わる。

一斉射出の物量は、相手の反応時間そのものを奪う。

 

「――伏せろッ!」

俺が思わず叫ぶ。

だが、ラザホーは伏せない。

避けない。

代わりに、ほんの少しだけ、指を動かした。

 

「……重」

 

たった一音。

その瞬間、景色がひっくり返ったように感じた。

手裏剣の軌道が、落ちる。

落ちるというより、“引きずり降ろされる”。

槍が前に伸びるはずの勢いを失い、鎖分銅の慣性が途中で死ぬ。

 

黒田坊の全方位攻撃が、同じ方向へ――地面へと吸われた。

 

「なに……?」

黒田坊が息を呑む。

その声には、驚きより先に“理解の遅れ”が混ざっていた。

 

ラザホーは静かに言う。

 

「……落ち着け。重力は、逃げない」

 

「逃げないのは貴様の方だろうが」

俺が吐き捨てると、黒江が肩をすくめた。

 

「僧侶は派手じゃない分、怖いだろ」

 

怖い。

まさにそれだ。

刃を弾く鎧じゃない。

“世界のルール”を変えられると、手札が全部紙切れになる。

 

黒田坊はすぐに切り替えた。

手裏剣が駄目なら、刃を出す。

間合いを詰めて、切る。

それが一番確実だ。

 

「――参る!」

 

黒田坊が前へ踏み込む。

錫杖で砂を蹴り、今度は法衣の袖から日本刀を抜き出す。

そして一気に距離を詰め――

 

その足が、沈んだ。

 

「……っ!」

 

沈む、と言っても砂に足を取られた程度じゃない。

重心そのものが、下へ引かれている。

踏み出した力が、前じゃなく下に落ちる。

 

ラザホーが、淡々と続ける。

 

「……重い場所を、作った。そこに立てば、動けない」

 

「……法の衣を、縫い留めるつもりか」

黒田坊が歯を食いしばる。

その声は怒りより、焦りが勝っていた。

 

黒田坊は、さらに暗器を放つ。

鎌、両刃剣、追加の手裏剣。

次々と、埋めるように。

だが、どれも届かない。

軌道が歪む。

重さで落ちる。

速度が死ぬ。

 

「く……ッ!」

 

ラザホーが一歩だけ前に出た。

その一歩が、戦場の中心を“固定”するみたいに見えた。

 

「……引」

 

空間が、きゅっと縮む感覚。

黒田坊の体が、糸で引かれたように前へ倒れかける。

踏ん張ろうとして錫杖を突くが、杖先が砂に沈む。

沈む砂は、逃げ道のない沼みたいに粘る。

 

「主の命により、ここで折れるわけには――」

黒田坊が唸る。

 

俺は思わず叫んだ。

 

「黒田坊!無理をするな!」

 

黒田坊が一瞬だけ、俺の声の方へ視線を動かす。

その一瞬が、致命的だった。

ラザホーはその瞬間を“狙う”んじゃない。

ただ、“条件が整った”と判断する。

 

「……拘束。落下は、逃げではない」

 

重力が、ぐっと増した。

黒田坊の肩が落ちる。

腕が上がらない。

袖の中の武器に指が届かない。

“攻め”の動作そのものが、封じられる。

 

黒田坊は、悔しそうに息を吐いた。

そして、錫杖を支えに、ゆっくりと頭を下げた。

 

「……この黒田坊。戦意、ここまで」

 

宣言の瞬間、黒田坊の輪郭が揺らぎ、淡く霧散する。

変身解除。

敗北だ。

 

ラザホーは勝ったのに、表情を変えない。

ただ、短く言った。

 

「……次へ」

 

黒江が満足そうに、口元だけを吊り上げた。

 

「いい“作業”だったな」

 

俺は唇を噛む。

黒田坊が弱いわけじゃない。

むしろ強い。

だからこそ、ラザホーの勝ち方が嫌に鮮明だった。

力で倒すんじゃない。

戦場の前提を奪って、負けさせる。

 

空中の表示が切り替わる。

容赦なく。

 

『次:騎士✕1』

 

俺は息を吐いて、拳を握った。

この勝負、まだ折れられない。

黒田坊の分まで、次は俺の側が取り返す。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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