サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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妖と宙のレーティング・ゲーム Ⅷ

会場の表示が切り替わった。

宇宙人の作り出した空間に浮かぶスクリーンが、淡々と無機質な文字を点滅させる。

『騎士×1』

その二文字だけで、空気が薄くなる錯覚がした。

温度が下がったわけでも、風が吹いたわけでもない。

ただ、呼吸の音が目立つ。

自分の鼓動が、やけにうるさい。

 

黒江は余計な前置きをしなかった。

視線だけで盤面を確認し、手元のウォッチにメダルを滑り込ませる。

操作の動きは丁寧なのに、どこか冷たい。

「次は騎士だ」

それだけ。

説明のない宣告は、拒否権のない命令に近い。

 

俺は喉の奥で息を飲んだ。

この場はゲームだ。

なのに、ゲームの形をした戦場が、いま確かに“戦場”へと変わっていく。

足元の床が、星空みたいに暗く沈む。

見えない重力が、肩に乗る。

 

黒江側の召喚が先に来た。

空間の一点に、黒い染みが滲む。

墨を垂らしたような闇が円を描き、その中心が“裂ける”ように開く。

そこから出てきたものは、黒だった。

黒い装甲。

黒いマント。

黒い、仮面。

 

次の瞬間、音が鳴った。

「シュー……」

吸う。

「ゴォ……」

吐く。

それだけの呼吸音が、場の全てを支配した。

剣を抜く前から、こちらの動きを縛る種類の威圧。

目を合わせるだけで、背筋が正される。

いや、正されるというより、折られないように固まる。

 

「……え」

絶花の声が、隣で裏返った。

それは驚きというより、受け入れ拒否の音だった。

 

遅れて、太郎側の召喚が始まる。

俺の王国の駒。

それは“人間”であろうと“妖怪”であろうと、関係なく呼び出す。

本人の意思と無関係に、盤面へと“配置”する。

ここが、王の領域だ。

 

眩い光が、床から立ち上がる。

円形の紋様が走り、そこに人影が刻まれる。

絶花のシルエットが浮かび上がった瞬間、本人が一歩ふらついた。

召喚される感覚は、慣れない者にとって胃が裏返るようなものだ。

足場を探すように踏み直し、顔を上げた絶花が、まず俺を見た。

次に、黒江を見る。

そして最後に――黒い装甲の剣士を見て、言葉が爆発した。

 

「私、人間だよね!」

 

場違いなくらい鋭いツッコミだった。

だが、今この瞬間に必要なのは、そのくらいの現実確認だった。

人間が、王国の駒として、召喚されて、宇宙人の作った空間で、謎の黒い剣士と戦う。

普通なら夢オチ案件だ。

夢じゃないのが腹立つ。

 

俺は思わず、口をついて出る。

「……人間だな」

「じゃあ何で召喚されてるの!」

「王国の駒だからだ」

「納得できるかぁ!」

 

絶花の叫びは、緊張の糸を一瞬だけ緩めた。

だが、すぐにそれは戻る。

呼吸音が、間を許さない。

黒い剣士――ベイダーは、言葉を発しない。

それが逆に怖い。

沈黙が、圧になるタイプだ。

 

黒江は淡々と告げる。

「形式は同じだ。騎士同士がぶつかり、戦意が折れた方が負ける」

「戦意……ね」

絶花が口を尖らせる。

「私の戦意は、あんなホラーみたいな人を見た瞬間に半分折れたんだけど」

「折れるな」

俺が短く言うと、絶花は睨み返してくる。

「折るなって言うなら、せめて人間枠に優しくしてよ!」

「優しくしたいが、相手が優しくない」

 

俺は視線をベイダーから外さなかった。

あれは“強い”。

剣の上手さ云々の前に、場を持っていく。

戦う前から勝ちの形を作る。

そういう種類の敵だ。

 

黒江は一瞬だけ、俺を見る。

挑発でも軽蔑でもない。

ただ、越えるべき壁を見せるような目。

「太郎。お前の騎士がどこまで持つか、見せてもらう」

 

絶花が深く息を吸った。

もう一度自分の足元を確認して、拳を握り直す。

その横顔は、さっきまでのツッコミ要員じゃない。

逃げない顔だ。

 

「……分かった」

絶花が小さく言った。

「文句は言うけど、やる時はやる」

「それでいい」

 

呼吸音が、また一段大きく聞こえた。

黒い剣士が、ゆっくりと腕を上げる。

剣が、光の刃を生む。

赤い光が、夜空みたいな床に反射した。

 

俺は思う。

この試合は、ただの駒戦じゃない。

絶花という“人間の騎士”が、王国の駒であることを証明する場だ。

そして――黒江が俺を越えようとする、その手段の一つでもある。

 

盤面が静かに、開戦の合図を待っていた。

絶花が一歩踏み出した瞬間、空気が先に折れた。

折れたのは彼女の心じゃない。

場の“流れ”だ。

戦いってのは、剣を振る前に始まっている。

そのことを、黒い剣士は呼吸音だけで教えてくる。

 

「……っ」

絶花が肩をすくめる。

怖がったわけじゃない。

ただ、足が勝手に止まりかけた。

理由は単純で、相手が“近づけさせない距離”を作っている。

 

ベイダーがゆっくりと歩く。

速くない。

むしろ遅い。

なのに、絶花のほうが後ろへ下がりたくなる。

歩幅の一つ一つが、命令みたいに重い。

 

「おいおい……歩いてるだけで圧かけるの、反則じゃない?」

絶花がぼやく。

声は軽い。

でも、その軽さは自分を落ち着かせるためのものだ。

 

俺は口を挟まなかった。

挟めない。

ここは騎士同士の盤面で、俺は観測者だ。

だから、見逃さない。

絶花の重心が、ほんの少し高い。

“踏み込みたい”より先に、“逃げたくない”が来ている。

 

ベイダーの右腕が上がった。

剣を振るのではない。

手のひらを向ける。

――それだけ。

 

その瞬間、絶花の足が砂じゃなく“粘土”を踏んだみたいに止まった。

空間そのものが、彼女の動きを押し留めている錯覚。

 

「……なに、それ」

絶花の声が細くなる。

驚きと苛立ちが混ざっていた。

見えない手で首根っこを掴まれたような感覚に、反射で腕を振る。

何かを払いのけるように。

 

でも払いのけられない。

触れないからだ。

 

「く、っ……!」

絶花が無理やり踏み込もうとして、身体が前に出ない。

足だけが空回りする。

その不自然さが、彼女の焦りを増やす。

 

ベイダーは呼吸を続ける。

吸って、吐く。

そのリズムが、絶花の心臓のテンポを狂わせる。

“自分のペース”を奪われる。

これが主導権を握られるってことだ。

 

「絶花、落ち着け」

俺は短く言った。

助言というより、合図。

 

「落ち着いてるよ!」

即答。

でも声が一段高い。

落ち着いてない。

 

ベイダーの手が、わずかに締まるように動いた。

それだけで、絶花の身体が前に引かれた。

喉元が、見えない鎖で引っ張られる。

空気が詰まる。

 

「……っ、げほ……!」

咳が漏れる。

絶花が片膝をつく。

悔しさが顔に出る前に、呼吸が足りない。

戦意を折るには十分な“屈辱”だ。

 

「……おい、何それ、手品?」

絶花が息を整えながら言う。

強がりが混ざる。

でも目は逃げてない。

 

ベイダーは答えない。

答える必要がない。

“分からない恐怖”をそのまま武器にしている。

 

絶花が歯を食いしばって立ち上がる。

膝についた砂を払う余裕もない。

そのまま横へ跳ぶ。

視線は常に相手の胸元。

仮面の目じゃない。

“動きの中心”を見る。

意外と冷静だ。

 

だが、ベイダーはそれすら読んだように、もう一度手を上げた。

今度は押す。

見えない壁が、絶花の横移動を叩き潰す。

 

「うわっ!」

身体が斜めに弾かれ、砂の上を滑る。

受け身を取って止まったが、止まった場所は最悪だった。

相手に正面を向けたまま、距離が縮まっている。

 

「……近いって」

絶花が唇を噛む。

笑えない距離だ。

剣の届く距離。

いや、剣の前に、あの“見えない力”がさらに強くなる距離。

 

ベイダーが剣を構えた。

赤い刃が、水平に揺れる。

呼吸音が、絶花の耳の奥に直接入り込む。

 

絶花が両腕を上げる。

武器はない。

人間の肉体だけだ。

それでも、構えるしかない。

逃げれば、戦意が折れる。

この場はそれが敗北になる。

 

「……私、人間なんだけどな」

絶花が小さく言った。

さっきみたいな勢いのツッコミじゃない。

本音の呟きだ。

 

俺は拳を握った。

何もできないのが、やけに歯がゆい。

でも――ここで必要なのは、助けじゃない。

絶花が“自分で主導権を取り返す瞬間”だ。

 

ベイダーが一歩踏み込んだ。

絶花が反射で身を引く。

その引き際が遅れた。

見えない力が、絶花の足首を縛る。

一瞬の硬直。

 

赤い刃が、絶花の目前を薙いだ。

紙一重。

髪が一本、宙に舞う。

 

絶花の目が見開かれる。

恐怖じゃない。

“認識”だ。

このままじゃ負ける。

主導権を、完全に握られたまま終わる。

 

「……ムカつく」

絶花が吐き捨てるように言う。

声が低くなる。

ここからが、本当の勝負だ。

絶花は一度、深く息を吸った。

吸って、吐く。

自分の呼吸を“相手の呼吸音”から取り返すみたいに。

 

「……分かった」

絶花が小さく言う。

言葉の相手はベイダーじゃない。

自分自身だ。

 

ベイダーが手を上げた。

今度は“締める”動き。

空気が細くなる感覚が喉を撫で、絶花の肩が跳ねた。

 

でも、絶花は下がらない。

下がる代わりに、膝を落とした。

立って耐えるんじゃない。

重心を低くして、力の向きを“地面”に逃がす。

砂がざり、と鳴る。

 

「……礼儀ってさ」

絶花が息の切れ目で言う。

笑う余裕なんてないのに、口角だけが少し上がる。

 

「相手を尊重することじゃなくて」

もう一段、身体を沈める。

肩から腕へ、余計な力が抜けていく。

締めつける圧が、さっきより“抜ける”気がした。

 

「勝つために、無駄を捨てることだよね」

 

俺はそこでやっと気づく。

絶花は“騎士道”を持ち出さない。

綺麗に戦う気も、正々堂々だけに縛られる気もない。

ただ、勝つ。

そのために必要な礼儀だけを残す。

 

ベイダーが一歩前に出た。

距離が詰まる。

赤い刃が近い。

圧が強くなる。

 

絶花はそこで、わざと目線を外した。

ベイダーの仮面でも剣でもない。

彼の“手”を見る。

手の指の角度。

腕の上がり方。

呼吸音の変化。

 

「……そこだ」

絶花が呟く。

 

ベイダーの手が締まる。

同時に、赤い刃が斜めに走る。

“締める”と“斬る”を同時にやってくる。

普通なら反応できない。

身体が止まるから。

 

でも絶花は、止まらなかった。

止まる前に“落ちた”。

前に出るんじゃない。

下に潜る。

砂を蹴るんじゃない。

砂に沈む。

 

刃が頭上を通り過ぎ、熱だけが頬をかすめる。

 

「……っ!」

絶花はそのまま、片手を地面に付く。

指先で砂を掴み、手首を返す。

砂が、ばさっと跳ねた。

 

ただの砂だ。

目潰しにすらならない。

でも、狙いはそこじゃない。

 

“相手の認識”を一瞬だけ乱す。

砂の舞い方で距離感が狂う。

仮面越しの視界が、わずかに遅れる。

 

その遅れが、絶花にとっては一手分。

 

絶花は砂の中を滑るように、ベイダーの懐へ入った。

手じゃない。

腕じゃない。

狙うのは“間合いを作っている中心”。

 

胸。

いや、さらにその奥――“重心”。

 

「ごめんね」

絶花が、礼儀正しく言った。

皮肉じゃない。

本気の謝罪だ。

 

「これ、勝つための礼儀だから」

 

絶花の足が跳ね上がる。

蹴りじゃない。

踏み込みの“床”を作る動き。

その足で砂を強く踏み、ベイダーの足元をわずかに崩す。

 

一瞬、ベイダーの体勢が揺れた。

揺れた瞬間に、絶花の肩がぶつかる。

体当たりでもない。

剣を持たない者が、剣士の懐で勝つための“押し合い”。

 

ベイダーの手が、反射で開いた。

締める動きが一瞬遅れる。

絶花の喉が解放され、空気が肺に流れ込む。

 

「……やっと吸えた」

絶花が吐き捨てる。

 

ベイダーはすぐに距離を取ろうとした。

だが、絶花は離さない。

掴むわけじゃない。

“離れられない距離”を維持する。

相手の腕が自由に動く距離を奪う。

 

赤い刃が、振れない。

見えない力も、精度が落ちる。

近すぎるからだ。

締めるには角度が要る。

押すには空間が要る。

 

絶花はその“必要条件”を、丸ごと消した。

 

「私ね」

絶花が息を整えながら言う。

 

「騎士っぽいこと、したくないわけじゃないよ」

一拍。

目が細くなる。

 

「でも、今やってるのは“勝つための礼儀”」

 

言い終わるより先に、絶花は一歩引いた。

引いたのに、逃げじゃない。

罠だ。

相手が追う距離を作る。

 

ベイダーが追う。

その瞬間、絶花の足が砂を払うように動く。

また砂が舞う。

今度は高くじゃない。

低く、足元だけ。

 

ベイダーの踏み込みが一瞬鈍る。

そこへ――絶花が滑り込む。

肩、肘、膝。

短い動きで体勢を削る。

剣を持たないからこそ、動きが小さい。

小さいからこそ、相手の“制御”が追いつかない。

 

ベイダーが一瞬、後退した。

ほんの半歩。

たった半歩。

 

でも、それは“主導権が揺れた”証拠だった。

 

俺は喉の奥で息を飲む。

絶花が勝ち筋を見つけた。

正々堂々じゃない。

でも卑怯でもない。

相手の強みを否定するための、最低限で最大の礼儀。

 

絶花は構える。

拳を握るでもなく、剣を求めるでもなく。

ただ、重心を落として、相手を見据える。

 

「さあ」

絶花が言う。

声は落ち着いている。

 

「次は、私の番」

絶花は、無理に追わなかった。

追えば追うほど、相手は“戦場”を取り戻す。

距離、角度、空間。

それらが揃えば、あの赤い刃も、見えない締めつけも、また息を吹き返す。

 

だから絶花は、半歩だけ下がった。

逃げではない。

“勝ち筋の距離”を維持するための退き。

 

ベイダーの呼吸音が、少しだけ荒くなる。

仮面の内側で何が起きているか分からない。

けれど、押し殺した苛立ちが、部屋の温度みたいに伝わってくる。

 

赤い刃が、今度は横薙ぎに走った。

絶花はそれを、避けたというより“空振らせた”。

ベイダーが刃を振り切れるように、わざと外側に立つ。

その瞬間、絶花の足が砂を踏む。

踏む音が、やけに大きい。

 

「……来るなら、来て」

 

挑発じゃない。

誘いでもない。

ただの宣言だった。

 

ベイダーが踏み込む。

その重い一歩に合わせて、絶花は逆に前へ出た。

相手が加速する瞬間に、こちらも加速する。

“ぶつかる”と見せて、ぶつからない。

軌道だけを重ねて、最後にわずかにずらす。

 

赤い刃が、絶花の肩口を裂こうとして――届かない。

絶花は刃の“終点”に立たない。

刃の“始点”にも立たない。

刃が一番強いところを避けて、刃が一番弱いところへ入る。

 

「礼儀って、さ」

絶花の声は、短い。

息も短い。

 

「……相手の強さを、ちゃんと見てるってことだよね」

 

そして絶花は、拳で殴らなかった。

蹴りで倒さなかった。

代わりに、ベイダーの“支え”を奪った。

 

足元。

砂の上の踏ん張り。

重い鎧の重心。

それが乗っている一点に、絶花は体重を乗せる。

 

踏みつけるのではない。

潰すのでもない。

“踏み替えられないようにする”。

 

ほんの一瞬、ベイダーの動きが止まる。

止まったのは身体じゃない。

判断だ。

踏み込めない。

離れられない。

斬り切れない。

 

そこへ絶花の肩が入る。

柔らかい動きなのに、芯がある。

押すのではなく、支点をずらす。

ベイダーの上半身が、わずかに傾いた。

 

赤い刃が砂を焼く。

焼ける匂いがした気がする。

でも、刃はもう絶花を追っていない。

 

「……っ」

絶花の喉が、短く鳴る。

自分でも驚くほど冷静なまま、最後の一手を選ぶ。

 

絶花は、両手をゆっくり上げた。

剣を持つふりじゃない。

拳を構えるでもない。

ただ、相手の視界に“手”を置く。

 

「終わりにしよう」

 

ベイダーの仮面が、わずかにこちらへ向く。

見えない目が、絶花を見た。

 

その瞬間――絶花は“打たない”。

かわりに、相手の腕の動きを封じる位置へ滑り込む。

赤い刃を握る手首。

そして、見えない力を操るもう一方の手。

その二つの“起点”の間に、身体を差し込む。

 

近すぎる。

だから振れない。

だから締められない。

 

ベイダーの呼吸音が、ひとつ途切れた。

 

絶花は静かに言う。

声を荒げない。

勝ったと誇示しない。

それが“礼儀”だ。

 

「あなた、強い」

「でも……その強さ、今は出せない」

 

沈黙。

赤い刃が、揺れる。

わずかに下がる。

 

ベイダーは一歩、後ろへ退いた。

退いたというより、“下がった”。

戦うためじゃない。

体勢を立て直すためでもない。

 

――戦意が、折れた。

 

絶花は追撃しない。

追撃は勝利の証明じゃない。

ただの自己満足だ。

 

「……私、人間だよね!」

今さらみたいに、絶花がぽつりと言って、自分で苦笑した。

空気が少しだけ緩む。

 

俺は息を吐く。

胸の奥に引っかかっていたものが、やっと落ちた。

 

ベイダーは赤い刃を消した。

その動作が、やけに静かだった。

最後まで膝をつかない。

崩れもしない。

ただ、戦う意思だけを降ろした。

 

「……終わりだな」

俺が小さく言うと、絶花は頷いた。

 

「うん。これが、勝つための礼儀」

 

遠くで、黒江の気配が動く。

次の試合へ進む合図が、空間のどこかで鳴った気がした。

俺はその“次”を思う。

 

絶花が勝った。

でも、これで安心じゃない。

 

この会場は、勝った者にご褒美をくれない。

勝った者に、次の厄介ごとを渡す。

 

絶花は一度だけ、ベイダーへ頭を下げた。

深くじゃない。

形式だけでもない。

 

「ありがとう」

 

ベイダーは返事をしない。

返事の代わりに、背を向けた。

それが彼の礼儀なのかもしれない。

 

絶花が俺の方に戻ってくる。

息は上がっているのに、目はまっすぐだ。

 

「太郎」

「なに」

「次、もっと面倒だよ」

「知ってる」

 

俺たちは視線を交わして、同時に頷いた。

笑えないのに、なぜか少しだけ笑ってしまった。

 

戦いは終わった。

でも、物語は終わらない。

この勝利は、次の扉のノブに手をかけただけだ。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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