サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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妖と宙のレーティング・ゲーム Ⅸ

「王同士の戦いになったが、果たして君は戦えるのか」

 

その言葉が、妙に乾いた宇宙空間に響いた気がした。

足元は確かに“床”として存在しているのに、空気の重さだけがどこか薄い。

視界の端では、これまでの試合の残滓みたいな光の粒がふわりと漂い、すぐに消えていく。

五本勝負の最終戦。

つまりは、俺と黒江によるタイマンによる対決が始まる。

 

既に黒江は準備を終えたように、その姿をディープシャドウギャラクシーへと変身していた。

闇の膜をまとった輪郭が、星のない夜空みたいに沈み、そこに銀色の光が薄く流れている。

目の奥が冷たく光っていて、目を合わせると吸い込まれそうになる。

だが、その視線はどこか心配そうだった。

 

「それはつまり、負けるかもしれないという事か?」

 

俺が言うと、黒江は首を横に振る。

肩の力は抜けているのに、声の芯だけが硬い。

 

「いいや、君は今は未知の力によって、暴走しやすくなっている。その状態で戦えばどうなるのか」

 

「あぁ、なるほど」

 

その言葉に対して笑みを浮かべる。

笑って誤魔化したいわけじゃない。

ただ、ここで怯えた顔を見せた瞬間に、足元から崩れる気がした。

この空間は、嘘をつけるほど優しくない。

 

「この力に関しては、ある程度は調べられた。どうやら、こいつは俺の中の力を何倍にも膨れ上げる事が出来るらしい。けれど、体内でのコントロールはかなり難しいからな」

 

喉の奥で、熱い何かが脈を打つ。

体の内側に水面があるみたいに、波が立つ気配がある。

油断すると、一気に溢れる。

その感覚だけは、前の“暴走”で嫌というほど覚えた。

 

「そこまで分かっているならば、なぜ」

 

黒江の問いは、責めじゃない。

“確認”だ。

俺が逃げ道を作っていないか。

どこかで勝ちを捨てるつもりがないか。

そういう目をしている。

 

しかし、それでも俺の答えは変わらなかった。

 

「だから、ここから先は挑戦だよ」

 

言い切った瞬間、胸の奥で何かが膨らむ。

怖さじゃない。

意地だ。

手のひらの汗が、逆に落ち着きをくれた。

 

それと共に、俺は自分の中にある膨張する力を妖怪ウォッチに力を込める。

腕に巻いた金属が、熱を帯びたみたいにじわりと重くなる。

輪郭がはっきりして、存在が“道具”から“器”に変わっていく感覚。

 

「なっ何をしているんだ」

 

「これの制御が難しいのは、ようするに俺という身体がこの力に合わないからだ。だったら、俺の身体じゃなくて、俺の周囲に放てば良いんだよ!」

 

言いながら、息を吐く。

内側に溜めたままだと、また壊れる。

なら、吐き出す。

吐き出し続ける。

噴き出すほどの力を“外側”に回して、俺自身を潰さない。

 

そうしていると、妖怪ウォッチの形態が変わると共に、紅丸・ワイルドボーイ・ブルームーンの3つのメダルが一枚へと変わる。

重なった縁が、ひとつに馴染む。

金属が噛み合う微かな音。

その一枚が、まるで“最初からそうだった”みたいに落ち着く。

 

「さて、行くぜ!」『アルティメット』

 

俺は、鳴り響く音声に笑みを浮かべながらも、妖怪ウォッチを回す。

回転に合わせて、視界の端の光が揺れ、空間の圧が一段上がる。

肌の表面を見えない風が撫でたような、変な感触が走った。

 

「変身!」『レボリューション!チェンジHERO!アースウォーカー』

 

鳴り響いた音声と共に、俺は姿が徐々に変化する。

初めは、以前変化したブラックキャットへと変わる。

骨の位置がずれるような感覚。

筋肉の張りが変わり、視線が低くなる。

爪先が床を捉える“鋭さ”だけが増していく。

 

既に溢れ出そうな力を感じながらも、その力を内側にはなく、外へとすぐに飛び出す。

熱が皮膚の下で暴れる前に、押し出す。

呼吸と同時に、力の波が外へ流れ、周囲の空間に薄い膜を作っていく。

 

それにより、無限に湧き上がる力を制御出来るようにそのまま服のように纏っていく。

まとった瞬間、重さはないのに、空気が“壁”みたいに手応えを持つ。

体の周りに、見えない鎧ができたみたいだった。

 

そうして、自身の身体は黒く染まっていながらも、身に纏う衣服は、これまでとはまた違った未来的なデザインをした衣服へと変わる。

黒の上に走るラインが、光の反射で輪郭を浮かび上がらせる。

装飾じゃない。

機能のための形。

その整然とした感じが、逆に怖いくらい落ち着いていた。

 

「どうでもいいけど、アースウォーカー」

 

黒江の声が飛ぶ。

軽口っぽいのに、油断はない。

目だけが、俺の周囲の“何か”を測っている。

 

その言葉と共に、俺はゆっくりと降り立つ。

足裏が床を踏み、反動が返る。

この空間の“地面”は、逃げない。

俺を受け止める気はあるらしい。

 

「これは一体」

 

「良いから、来るんだったら、来たら?まぁ来れないと思うけど」

 

言葉は挑発でも、心は妙に冷静だった。

そして、その冷静さが一番怖い。

アースウォーカーへと変身した事で、今の自分の能力が十分に理解出来た。

理解できるから、やれる。

理解できるから、壊れる未来も見える。

 

「・・・挑発のつもりか?」

 

「事実だから」

 

「ならば、行かせて貰う!」

 

それと共に黒江が俺に向かって行く。

闇が裂けるみたいな踏み込み。

スピードは凄まじく、真っ直ぐとこちらに迫る。

視界の中で黒江の輪郭が拡大して、次の瞬間には“届く”はずだった。

 

しかし、その距離は縮まらない。

 

「何っ」

 

向かっても向かっても、まるで近づけない。

黒江の動きは速い。

なのに、体だけが少しずつ重くなるように見える。

踏み込みが浅くなり、腕の振りが遅れ、影の伸びが止まる。

その事に黒江は疑問に思った。

 

「この力は常に俺を強化続ける。溢れ出る力はまさしく無限に近い。だったら、それを常に吐き出し続ければどうなるか」

 

言いながら、胸の奥が熱い。

吐き出し続けるだけで、勝手に増える。

増えるから吐き出す。

吐き出すから増える。

ぐるぐる回る。

その循環が、今は噛み合っている。

 

「何をっ」

 

「俺に近付く程低速化し接触出来なくなる。人間が空に向かって飛ぼうにも重力には逆らえずに地上に戻るような感じで」

 

黒江の足が、空間に縫い付けられたみたいに止まりかける。

踏み込んだはずの力が、見えない手で削がれていく。

怒りでも焦りでもなく、純粋な困惑が、黒江の動きに混ざった。

 

それと共に、俺はヨーヨーを真っ直ぐと投げる。

指先から離れた瞬間、糸が張り、ヨーヨーが一直線に走る。

滑らかで、無駄がない。

投げたのは武器というより、“操作の鍵”だ。

 

「そして、それらはこう言う事も出来るんだよっと」

 

ヨーヨーは、そのまま黒江に向かって行く。

黒江が避けようとする。

避けるための動きは見える。

だが、まるで黒江の方がヨーヨーへと向かう。

吸い寄せられるように、軌道が噛み合っていく。

 

「なっ」

 

「反対にこうして引き寄せられる事が出来る。そして」

 

そのまま、俺の元へと近づけさせると共に、ヨーヨーを掌に納めると共に。

糸が巻き取られる感覚が、手の中で小さく震える。

その震えが、次の一撃の予告みたいに心臓に響く。

 

「こうして弾き飛ばす事も出来るんだよ!!」「がぁ!」

 

赤く染まった拳を殴れば、そのまま黒江は遙か遠くに吹き飛ばされる。

闇が流星みたいに飛び、空間の端へ吸い込まれる。

吹き飛ぶ軌跡に、薄い光の残像が遅れてついていった。

決定的な一撃じゃない。

けれど、距離と体勢を奪うには十分だった。

 

「おいおい、まだまだ戦いは始まったばかりだろ」

 

言いながら、息を整える。

強がりじゃなく、確認だ。

俺自身に言い聞かせている。

ここから先、調子に乗ったら終わる。

無限は便利だけど、無限は油断を呼ぶ。

 

そうしながらも、俺はヨーヨーを構える。

糸の張りを指で確かめ、空間の“重さ”を肩で測る。

黒江が戻ってくるなら、次はもっと鋭い角度だ。

 

「・・・なるほど、アースウォーカー。地球の引力を思わせる戦い方。ある意味、彼女の影響を受けているようだな」

 

黒江の声は遠い。

でも、はっきり届く。

負けた声じゃない。

対策を考える声だ。

その冷静さが、黒江の強さでもある。

 

「さぁね、けど、この力、まだまだ無限に引き出せるようだから、付き合って貰うよ」

 

言い切った瞬間、胸の奥の熱がまた膨らむ。

外へ。

内へ溜めるな。

吐け。

吐き続けろ。

俺はヨーヨーを握り直して、黒江の次の動きを待った。




原作のアースウォーカーとは全く別物になりました。力の元が無限なので、無限関係にしてしまいました。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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