サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
石畳を蹴った瞬間、足が軽い。
軽いのが気持ち悪い。重力まで薄くされて、境内そのものが曹操の槍の鞘になっている。
穂先が落ちてくる。
乾いた光が視界を割り、蒼で引く前に、地面の金色が指先を撫でて輪郭をほどいた。赫へ切り替えて弾く。弾いたはずの身体が、次の瞬間には刃先の影にいる。
息が短くなる。
膝が鳴る。背中に冷たい汗が張りついたまま乾いていく。
「終わりだ、王」
声が、遠いのに耳の奥に刺さる。
このままじゃ負ける。頭の中の勝ち筋が、音もなく崩れていく。暴れれば抜け道は作れる。作れるけど、残るのは瓦礫だ。英雄派が望む絵になる。
「太郎!」
絶花の声が飛んできた。
参道の影で、剣を抜いている。刃は敵へ向いていない。俺へも向いていない。いつでも飛び込める角度で、ただ、そこに立っている。
「……無茶、やめて!」
返す言葉が喉で引っかかった。
槍の光が落ちる。避けようとして、足が滑った。滑った先に穂先がいる。間が死んでいく。
絶花が一歩踏み出した。
その一歩が、胸を冷やした。巻き込めば終わる。日常がここで崩れる。
「来るな!」
叫んだ声が、自分の耳に乱暴に響く。
絶花が足を止めた。止めたまま、剣を握る指が白くなる。
「……太郎、ほんとに大丈夫?」
その問いが、痛かった。
怖がってるんじゃない。信じたい顔だ。信じるために、確かめている。
槍が再び落ちる。
光の線が、石畳の下で一点に集まるのが見える。賽銭箱の前。節。口。ここに龍脈を束ねて、槍へ渡してる。
折る手が足りない。
俺一人の蒼赫じゃ薄くされる。薄くされるなら、厚みを足すしかない。
妖怪ウォッチへ手を置いた。
装甲の内側で眠る“駒”の気配が、じわりと目を覚ます。遠い匂いが混じる。土、古木、狐火みたいな甘い焦げ。闇の衝動が、喉元まで押し寄せた。
「……絶花」
名前を呼ぶと、絶花の目が細くなる。
剣先が、ほんの少し揺れた。
「見てる」
短い。逃げない言い方。
その一言だけで、熱が暴走へ向かうのを踏みとどまる。
槍が、三度目の終わりを運んでくる。
この瞬間を逃せば、次はない。
「大丈夫だ、だから見ておけ!俺の変身を!!」
言い切った瞬間、息が通った。
言葉が手順になる。自分を縛る縄になる。
「変身!」
そのまま、妖怪ウォッチを構える。
『アルティメット!漆黒丸!』
黒が、噴き上がった。
外から鎧を着る感覚じゃない。胸の奥から闇が溢れ出して、全身の隙間を埋める。青い発光が脈のように走り、背後で紫の瘴気が尾を引いた。
足元の影が深くなる。
石畳が、穴の縁に見える。呼吸が一瞬だけ消え、耳の奥で、家臣たちのざわめきが重なる。狩れ、沈めろ、奪え。
曹操の声が落ちた。
「……妖怪。いや、絶対悪のような存在だな」
笑いそうになった。
笑えば闇が笑う。拳が勝手に握られ、爪が装甲の内側で鳴る。
その瞬間、澄んだ金属音。
絶花が剣の峰で、石畳を軽く打った。鈴みたいに短く、痛いほど通る。
「太郎」
名前だけ。
それで視界の縁が戻った。熱が芯へ収まる。
「……悪い。心配させた」
曹操へ向き直る。
龍脈の光が一点に集まり続けているのが、影越しに見える。なら、影で折る。
「妖怪の王だからな。闇を支配する存在だというだけだ」
両拳を前へ出す。
拳の周りに闇がまとわりつき、無限の手触りが指先じゃなく掌に宿る。掴める。押し返せる。
槍が突き出される。
避けない。影へ沈む。視界が黒で閉じた次の瞬間、曹操の横の影から抜け出した。紫の尾が遅れて流れ、青い発光が刃のように揺れる。
背中で、絶花が息を呑む気配がした。
その気配が、まだ俺を人の側に繋いでいる。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王