サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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京都SOS Ⅷ

石畳を蹴った瞬間、足が軽い。

軽いのが気持ち悪い。重力まで薄くされて、境内そのものが曹操の槍の鞘になっている。

 

穂先が落ちてくる。

乾いた光が視界を割り、蒼で引く前に、地面の金色が指先を撫でて輪郭をほどいた。赫へ切り替えて弾く。弾いたはずの身体が、次の瞬間には刃先の影にいる。

 

息が短くなる。

膝が鳴る。背中に冷たい汗が張りついたまま乾いていく。

 

「終わりだ、王」

 

声が、遠いのに耳の奥に刺さる。

このままじゃ負ける。頭の中の勝ち筋が、音もなく崩れていく。暴れれば抜け道は作れる。作れるけど、残るのは瓦礫だ。英雄派が望む絵になる。

 

「太郎!」

 

絶花の声が飛んできた。

参道の影で、剣を抜いている。刃は敵へ向いていない。俺へも向いていない。いつでも飛び込める角度で、ただ、そこに立っている。

 

「……無茶、やめて!」

 

返す言葉が喉で引っかかった。

槍の光が落ちる。避けようとして、足が滑った。滑った先に穂先がいる。間が死んでいく。

 

絶花が一歩踏み出した。

その一歩が、胸を冷やした。巻き込めば終わる。日常がここで崩れる。

 

「来るな!」

 

叫んだ声が、自分の耳に乱暴に響く。

絶花が足を止めた。止めたまま、剣を握る指が白くなる。

 

「……太郎、ほんとに大丈夫?」

 

その問いが、痛かった。

怖がってるんじゃない。信じたい顔だ。信じるために、確かめている。

 

槍が再び落ちる。

光の線が、石畳の下で一点に集まるのが見える。賽銭箱の前。節。口。ここに龍脈を束ねて、槍へ渡してる。

 

折る手が足りない。

俺一人の蒼赫じゃ薄くされる。薄くされるなら、厚みを足すしかない。

 

妖怪ウォッチへ手を置いた。

装甲の内側で眠る“駒”の気配が、じわりと目を覚ます。遠い匂いが混じる。土、古木、狐火みたいな甘い焦げ。闇の衝動が、喉元まで押し寄せた。

 

「……絶花」

 

名前を呼ぶと、絶花の目が細くなる。

剣先が、ほんの少し揺れた。

 

「見てる」

 

短い。逃げない言い方。

その一言だけで、熱が暴走へ向かうのを踏みとどまる。

 

槍が、三度目の終わりを運んでくる。

この瞬間を逃せば、次はない。

 

「大丈夫だ、だから見ておけ!俺の変身を!!」

 

言い切った瞬間、息が通った。

言葉が手順になる。自分を縛る縄になる。

 

「変身!」

 

そのまま、妖怪ウォッチを構える。

 

『アルティメット!漆黒丸!』

 

黒が、噴き上がった。

外から鎧を着る感覚じゃない。胸の奥から闇が溢れ出して、全身の隙間を埋める。青い発光が脈のように走り、背後で紫の瘴気が尾を引いた。

 

足元の影が深くなる。

石畳が、穴の縁に見える。呼吸が一瞬だけ消え、耳の奥で、家臣たちのざわめきが重なる。狩れ、沈めろ、奪え。

 

曹操の声が落ちた。

 

「……妖怪。いや、絶対悪のような存在だな」

 

笑いそうになった。

笑えば闇が笑う。拳が勝手に握られ、爪が装甲の内側で鳴る。

 

その瞬間、澄んだ金属音。

絶花が剣の峰で、石畳を軽く打った。鈴みたいに短く、痛いほど通る。

 

「太郎」

 

名前だけ。

それで視界の縁が戻った。熱が芯へ収まる。

 

「……悪い。心配させた」

 

曹操へ向き直る。

龍脈の光が一点に集まり続けているのが、影越しに見える。なら、影で折る。

 

「妖怪の王だからな。闇を支配する存在だというだけだ」

 

両拳を前へ出す。

拳の周りに闇がまとわりつき、無限の手触りが指先じゃなく掌に宿る。掴める。押し返せる。

 

槍が突き出される。

避けない。影へ沈む。視界が黒で閉じた次の瞬間、曹操の横の影から抜け出した。紫の尾が遅れて流れ、青い発光が刃のように揺れる。

 

背中で、絶花が息を呑む気配がした。

その気配が、まだ俺を人の側に繋いでいる。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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