サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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京都SOS Ⅸ

曹操が槍を引き戻し、次の突きを滑らせる。

金の糸が足元から這い上がり、肩と背に絡みつく。

踏み込みの速さが一段上がる。

 

「その余裕、いつまで保つ」

声は落ち着いている。

 

俺は蒼い炎の刃をひねり、穂先を受け流す。

金属が鳴り、火花が散る。

熱いのに冷たい欠片が頬を掠める。

 

「案外、長いぞ」

口元だけで笑う。

 

槍が横薙ぎに変わる。

柄が肘の延長みたいに動く。

刃を立てて受ける。

衝撃が腕を叩く。

膝は沈まない。

 

曹操が距離を詰める。

息の音が近い。

槍の穂先が目の前で揺れる。

迷いのない直線で刺してくる。

 

刃を半歩だけ引き、穂先を外へ弾く。

火花が灯籠の影を短く揺らす。

そのまま踏み込み、刃を返して喉元へ寄せる。

 

「焦ってるのか」

軽く言う。

 

「……馬鹿を言え」

返事が短くなる。

 

槍が叩き落とされる。

金の糸が槍を太くする。

空気が乾いて、距離の感覚が削れる。

頬の内側がざらつく。

 

俺は刃を握り直す。

蒼い炎が濃く灯る。

斬るというより、裂く感触が指へ返る。

 

曹操の眉がわずかに動く。

呼吸が速くなる。

踏み込みが大きくなる。

その分だけ、重心が前へ寄る。

 

「王の皮を被った化け物め」

声が硬い。

 

「褒め言葉に聞こえるな」

肩をすくめる。

 

槍が三連で突く。

一つ目を逸らす。

二つ目を弾く。

三つ目を受けて火花を散らす。

受けた刃を滑らせ、柄の内側へ潜り込む。

 

曹操の握りがきしむ。

指が白くなる。

視線が刃先を追い切れない。

足が一歩だけ遅れる。

 

「勝つのは、俺だ」

涼しい声で言い、刃を押し込む。

 

「確かに妖怪の闇というのは厄介だ! だが! 光の速度に果たして追いつけるか」

 

笑みを浮かべると共に曹操は全身から溢れ出す龍脈の力を纏う。

さっきまでの踏み込みとは質が違う。

足音が遅れて聞こえる。

視界の端で金の糸が跳ね、槍の軌道だけが先に刺さってくる。

 

けれど。

 

「そうだな、けれど光と違って闇は変幻自在だ」

 

俺の一言と共に、背後へ回り込もうとした曹操の気配が膨らむ。

次の瞬間、影が濃く沈む。

沈んだ影が口を開き、そこから巨大な百足が這い出した。

節の一つ一つが黒く光り、足が石畳を削る。

牙が鳴り、槍の柄へ噛みつこうとする。

 

「なっ」

 

曹操が反射で跳ぶ。

跳んだ先の影が、また沈む。

百足の胴が伸びる。

伸びた胴が輪を作り、足と足首へ絡みつく。

締め上げる力が一拍遅れて来る。

 

「言っただろ、変幻自在だって。だからこそ、こういう事は可能だ」

 

笑みを浮かべたまま、指先を軽く鳴らす。

影の縁が揺れ、別の輪郭が立ち上がる。

 

今度は、濡れた手の形。

河童の腕が地面から伸び、曹操の踵を掴みに行く。

掴むだけじゃない。

影ごと引きずり込もうとする。

足元の黒が、落とし穴みたいに口を開く。

 

「くだらん!」

 

曹操が槍で地面を叩く。

龍脈の金が爆ぜ、影が一瞬だけ薄くなる。

その隙に足を抜く。

抜いた足が石畳を蹴る。

速度がさらに上がる。

光の残像が三つ、四つと増える。

 

「へぇ、ちゃんと足首守るんだ」

 

軽口が出る。

曹操の眉が微かに動く。

 

影がまた沈む。

今度は、壁が生える。

塗り壁が境内の中央に立ち、槍の突進線を遮る。

そのまま、壁の端から鎌鼬みたいな風が走る。

天狗の影が羽ばたき、刃の風を横へ払う。

風が払うのは空気だけじゃない。

曹操の踏み込みの角度が、ほんの少しだけ狂う。

 

「っ……!」

 

狂った角度へ、百足が追いつく。

追いついた胴が槍へ巻きつく。

巻きついた節が一斉に擦れ、火花が散る。

火花の中に、狐火が混ざる。

影から生まれた小さな炎が、目の前をちらつかせる。

一拍だけ視線が逸れる。

 

「……小細工が!」

 

「小細工じゃない。手札だ」

 

笑みは崩れない。

崩さないまま、影を指でなぞる。

なぞった影から、今度は鴉天狗が滑り出る。

高く跳び、上から槍の肩口へ蹴りを落とす。

同時に河童の腕がもう一度、足首へ伸びる。

百足が槍を締め、塗り壁が逃げ道を狭める。

一斉に来る。

一斉に来るのに、闇は音を立てない。

 

曹操が歯を食いしばる。

龍脈の金がさらに濃くなる。

槍が光の線になり、影を切り裂こうと走る。

それでも、切った先に影がある。

影は形を変える。

千切れた闇が、また妖怪の輪郭へ戻る。

 

「これは……」

 

曹操の声が、さっきより低い。

余裕の幅が削れている。

速さで押し切れないと悟り始めている。

 

「闇を媒介に妖怪を従える。それもまた妖怪王だろ」

 

肩をすくめる。

影が足元でうねり、次の輪郭を待っている。

 

「この化け物が」

曹操の吐き捨てる声が、乾いた境内に刺さる。

槍の穂先がわずかに震え、金の尾が揺れる。

 

「妖怪だよ」

肩をすくめる。

蒼い炎の刃を指先で返す。

刃にまとわりつく影が、呼吸みたいに脈を打つ。

 

互いの得物が離れる。

遅れて火花が一つ落ちる。

石畳に散った熱が、すぐ冷える。

 

一歩だけ引く。

足元の影が深く沈む。

灯籠の影も、木々の影も、屋根の影も。

細い糸になって手元へ寄ってくる。

 

「さて、ここで決めようか」

声は張らない。

張らなくても通る。

握った刃が重くなる。

金属の重さじゃない。

背中に触れる気配の重さだ。

 

「負けられるかぁ!」

曹操が槍を握り直す。

指が白くなる。

龍脈の金が槍へ集まり、穂先が星みたいに尖る。

空気が乾き、距離の感覚が削れる。

 

槍が前に出る。

金の線が刺さる。

刃を横へ滑らせる。

受け止めない。

逸らす。

逸らした先へ、影が追いつく。

 

「ファイナル黒い稲妻」

 

言い切った瞬間、闇が跳ねる。

刃の周りに漆黒の稲妻が走る。

青い炎の輪郭が一段だけ鋭くなる。

雷鳴みたいな音はしない。

代わりに、耳の奥がきしむ。

 

踏み込む。

曹操も踏み込む。

槍と刃が正面で噛み合う。

火花が弾け、金と黒が絡む。

境内の影が一瞬だけ反転する。

 

押し合いは拮抗する。

けれど曹操の腕が先に固くなる。

握りが硬くなり、槍の線がわずかに細る。

 

「はぁぁぁぁぁ」

息が低く落ちる。

吐いた息に合わせて稲妻が一本に寄る。

刃先の震えが消える。

手首が静かになる。

 

「なぜだっ……なぜ!」

曹操の声が裏返る。

穂先がほんの少しだけ逃げる。

逃げた分だけ、金の線が遅れる。

 

「俺は妖怪」

刃を押す。

押した影が槍の光を飲み込む。

 

「多くの妖怪の闇も、全部背負ってる」

背中の気配が揃う。

揃った瞬間、稲妻が一本の線になる。

一本の線が、槍の金を割る。

 

「悪いが、お前に――」

言い切る前に身体が先へ出る。

踏み込みが終わる。

刃が通る。

 

そのまま通り過ぎる。

影が尾を引く。

曹操の背後で、金の光が遅れてほどける。

槍の先が空を切る。

追いつけない。

 

「負けるかよ」

振り返らない。

振り返る必要がない。

肩の上で影が静かに落ち着く。

 

一拍置いて、曹操の足が止まる。

槍が落ちる。

光が地の金へ戻っていく。

 

それが、勝負を決した瞬間だった。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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