サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
曹操が槍を引き戻し、次の突きを滑らせる。
金の糸が足元から這い上がり、肩と背に絡みつく。
踏み込みの速さが一段上がる。
「その余裕、いつまで保つ」
声は落ち着いている。
俺は蒼い炎の刃をひねり、穂先を受け流す。
金属が鳴り、火花が散る。
熱いのに冷たい欠片が頬を掠める。
「案外、長いぞ」
口元だけで笑う。
槍が横薙ぎに変わる。
柄が肘の延長みたいに動く。
刃を立てて受ける。
衝撃が腕を叩く。
膝は沈まない。
曹操が距離を詰める。
息の音が近い。
槍の穂先が目の前で揺れる。
迷いのない直線で刺してくる。
刃を半歩だけ引き、穂先を外へ弾く。
火花が灯籠の影を短く揺らす。
そのまま踏み込み、刃を返して喉元へ寄せる。
「焦ってるのか」
軽く言う。
「……馬鹿を言え」
返事が短くなる。
槍が叩き落とされる。
金の糸が槍を太くする。
空気が乾いて、距離の感覚が削れる。
頬の内側がざらつく。
俺は刃を握り直す。
蒼い炎が濃く灯る。
斬るというより、裂く感触が指へ返る。
曹操の眉がわずかに動く。
呼吸が速くなる。
踏み込みが大きくなる。
その分だけ、重心が前へ寄る。
「王の皮を被った化け物め」
声が硬い。
「褒め言葉に聞こえるな」
肩をすくめる。
槍が三連で突く。
一つ目を逸らす。
二つ目を弾く。
三つ目を受けて火花を散らす。
受けた刃を滑らせ、柄の内側へ潜り込む。
曹操の握りがきしむ。
指が白くなる。
視線が刃先を追い切れない。
足が一歩だけ遅れる。
「勝つのは、俺だ」
涼しい声で言い、刃を押し込む。
「確かに妖怪の闇というのは厄介だ! だが! 光の速度に果たして追いつけるか」
笑みを浮かべると共に曹操は全身から溢れ出す龍脈の力を纏う。
さっきまでの踏み込みとは質が違う。
足音が遅れて聞こえる。
視界の端で金の糸が跳ね、槍の軌道だけが先に刺さってくる。
けれど。
「そうだな、けれど光と違って闇は変幻自在だ」
俺の一言と共に、背後へ回り込もうとした曹操の気配が膨らむ。
次の瞬間、影が濃く沈む。
沈んだ影が口を開き、そこから巨大な百足が這い出した。
節の一つ一つが黒く光り、足が石畳を削る。
牙が鳴り、槍の柄へ噛みつこうとする。
「なっ」
曹操が反射で跳ぶ。
跳んだ先の影が、また沈む。
百足の胴が伸びる。
伸びた胴が輪を作り、足と足首へ絡みつく。
締め上げる力が一拍遅れて来る。
「言っただろ、変幻自在だって。だからこそ、こういう事は可能だ」
笑みを浮かべたまま、指先を軽く鳴らす。
影の縁が揺れ、別の輪郭が立ち上がる。
今度は、濡れた手の形。
河童の腕が地面から伸び、曹操の踵を掴みに行く。
掴むだけじゃない。
影ごと引きずり込もうとする。
足元の黒が、落とし穴みたいに口を開く。
「くだらん!」
曹操が槍で地面を叩く。
龍脈の金が爆ぜ、影が一瞬だけ薄くなる。
その隙に足を抜く。
抜いた足が石畳を蹴る。
速度がさらに上がる。
光の残像が三つ、四つと増える。
「へぇ、ちゃんと足首守るんだ」
軽口が出る。
曹操の眉が微かに動く。
影がまた沈む。
今度は、壁が生える。
塗り壁が境内の中央に立ち、槍の突進線を遮る。
そのまま、壁の端から鎌鼬みたいな風が走る。
天狗の影が羽ばたき、刃の風を横へ払う。
風が払うのは空気だけじゃない。
曹操の踏み込みの角度が、ほんの少しだけ狂う。
「っ……!」
狂った角度へ、百足が追いつく。
追いついた胴が槍へ巻きつく。
巻きついた節が一斉に擦れ、火花が散る。
火花の中に、狐火が混ざる。
影から生まれた小さな炎が、目の前をちらつかせる。
一拍だけ視線が逸れる。
「……小細工が!」
「小細工じゃない。手札だ」
笑みは崩れない。
崩さないまま、影を指でなぞる。
なぞった影から、今度は鴉天狗が滑り出る。
高く跳び、上から槍の肩口へ蹴りを落とす。
同時に河童の腕がもう一度、足首へ伸びる。
百足が槍を締め、塗り壁が逃げ道を狭める。
一斉に来る。
一斉に来るのに、闇は音を立てない。
曹操が歯を食いしばる。
龍脈の金がさらに濃くなる。
槍が光の線になり、影を切り裂こうと走る。
それでも、切った先に影がある。
影は形を変える。
千切れた闇が、また妖怪の輪郭へ戻る。
「これは……」
曹操の声が、さっきより低い。
余裕の幅が削れている。
速さで押し切れないと悟り始めている。
「闇を媒介に妖怪を従える。それもまた妖怪王だろ」
肩をすくめる。
影が足元でうねり、次の輪郭を待っている。
「この化け物が」
曹操の吐き捨てる声が、乾いた境内に刺さる。
槍の穂先がわずかに震え、金の尾が揺れる。
「妖怪だよ」
肩をすくめる。
蒼い炎の刃を指先で返す。
刃にまとわりつく影が、呼吸みたいに脈を打つ。
互いの得物が離れる。
遅れて火花が一つ落ちる。
石畳に散った熱が、すぐ冷える。
一歩だけ引く。
足元の影が深く沈む。
灯籠の影も、木々の影も、屋根の影も。
細い糸になって手元へ寄ってくる。
「さて、ここで決めようか」
声は張らない。
張らなくても通る。
握った刃が重くなる。
金属の重さじゃない。
背中に触れる気配の重さだ。
「負けられるかぁ!」
曹操が槍を握り直す。
指が白くなる。
龍脈の金が槍へ集まり、穂先が星みたいに尖る。
空気が乾き、距離の感覚が削れる。
槍が前に出る。
金の線が刺さる。
刃を横へ滑らせる。
受け止めない。
逸らす。
逸らした先へ、影が追いつく。
「ファイナル黒い稲妻」
言い切った瞬間、闇が跳ねる。
刃の周りに漆黒の稲妻が走る。
青い炎の輪郭が一段だけ鋭くなる。
雷鳴みたいな音はしない。
代わりに、耳の奥がきしむ。
踏み込む。
曹操も踏み込む。
槍と刃が正面で噛み合う。
火花が弾け、金と黒が絡む。
境内の影が一瞬だけ反転する。
押し合いは拮抗する。
けれど曹操の腕が先に固くなる。
握りが硬くなり、槍の線がわずかに細る。
「はぁぁぁぁぁ」
息が低く落ちる。
吐いた息に合わせて稲妻が一本に寄る。
刃先の震えが消える。
手首が静かになる。
「なぜだっ……なぜ!」
曹操の声が裏返る。
穂先がほんの少しだけ逃げる。
逃げた分だけ、金の線が遅れる。
「俺は妖怪」
刃を押す。
押した影が槍の光を飲み込む。
「多くの妖怪の闇も、全部背負ってる」
背中の気配が揃う。
揃った瞬間、稲妻が一本の線になる。
一本の線が、槍の金を割る。
「悪いが、お前に――」
言い切る前に身体が先へ出る。
踏み込みが終わる。
刃が通る。
そのまま通り過ぎる。
影が尾を引く。
曹操の背後で、金の光が遅れてほどける。
槍の先が空を切る。
追いつけない。
「負けるかよ」
振り返らない。
振り返る必要がない。
肩の上で影が静かに落ち着く。
一拍置いて、曹操の足が止まる。
槍が落ちる。
光が地の金へ戻っていく。
それが、勝負を決した瞬間だった。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王