サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
朝の光が、机の端を白く削っている。
駒王学園高等部。一年。
黒板に走るチョークの音が、やけに乾いて聞こえた。
普通だ。
――そう、普通だ。
前の席の塔城小猫が、ノートをめくる。音は小さい。けれど、その仕草には無駄がない。視線が一瞬だけ横に流れる。
気づいているな。
俺が、少しだけ違うことを。
この学園には悪魔がいる。堕天使もいる。神器を持つ人間もいる。
宇宙から見れば、異常な星だ。
だから宇宙人は姿を隠す。
擬態は義務。干渉を起こさないための礼儀。
俺も同じだ。
昼は学生。夜は宇宙刑事。
――二つも顔を持つとか、面倒だな。
机の縁に指をかける。木のざらつきが伝わる。
昨日の衝撃が、まだ腕の奥に残っている気がする。投影の反動。装甲越しに伝わった震え。
あれは痛みというより、重さだった。
借りた力の、重さ。
目を閉じると、蒼い火花がよぎる。
そのすぐあとに浮かぶのは、玄関の光景だ。
「帰ってくるよな」
靴紐を結びながら聞いた声。
振り向くと、絶花は真顔だった。
あいつは強い。剣を握る手は迷わない。
けど、あのときの目は少しだけ揺れていた。
「当たり前だろ」
そう返した。
――軽すぎたか?
扉に手をかけた瞬間、わずかに足が止まった。
帰れなかったら。
そんな考えが喉に引っかかった。
飲み込んだ。
王になるって言ったのは、勢いじゃない。
守るって決めたからだ。
――逃げない。逃げたくない。
絶花は、俺が宇宙警察に所属していることを知っている。
それでも同じ家に住むと決めた。
信頼だ。
だから俺も、言葉を裏切れない。
窓の外、空は青い。
あの向こうに指名手配犯がいる。
この街のどこかに、擬態した宇宙人がいる。
でも今は、授業中だ。
ノートを開く。
ペン先が紙を掠める音。
――盤面は静かだ。
静かなときほど、油断するな。
自分に言い聞かせる。
俺は二つの世界の境目に立っている。
どちらかを選ぶんじゃない。
どちらも守る。
それが、俺のやり方だ。
チャイムが鳴る。
日常が動き出す。
俺は立ち上がる。
――帰る。
必ず。
約束したからな。
そんな事を考えていた時だった。
「……寝てないでしょう」
前触れもなく小猫がそう言ったので、思わず苦笑が漏れた。
「いきなり随分と核心を突いてくるな」
「目の下が少し暗いし、動きもいつもより鈍い」
「そこまで観察されているとは思わなかった」
「夜更かし、と言うつもり?」
「まあ、そんなところだ。テストも近いしな」
「嘘」
即断だったが、その声は静かだった。
「どうしてそう言い切れる」
「匂いが違う。金属と焦げた空気が混ざってる」
「物騒な例えだな、それは」
「否定しないなら、やっぱり嘘」
俺は肩を竦めながら、わざと軽い調子で返す。
「余裕がないと困るだろ。王様を名乗ってる身だし」
「その言い方、いつも通り」
「褒め言葉として受け取っておく」
「違う。強がっているときの言い方」
その一言に、胸の奥がわずかに引っかかった。
「強がりでも構わない。倒れなければ問題ない」
「倒れたら?」
問いは短いが、視線はまっすぐだった。
「倒れないと決めている」
「根拠は?」
「ある。俺なりに」
胸を軽く叩くと、小猫は目を細める。
「曖昧すぎる説明」
「信じてくれよ、そこは」
「半分だけ信じる」
「随分と厳しいな」
「全部は信用しない。無理をするから」
その言葉の端が、ほんのわずかに揺れた。
「……心配しているのか」
「していない」
返事は早いが、声は少し低い。
「今のは嘘だろ」
小猫は小さく息を吐く。
「無理しすぎると、困る」
「クラスメイトが困るからか」
「それもある」
「それ“も”ってことは?」
小さく視線が逸れる。
「……それだけじゃない」
教室のざわめきが遠く感じられる。
その瞬間、ポケットの中で短い振動が走った。
「来たでしょう」
「迷惑メールだ」
「嘘」
俺は立ち上がり、スマホを握ったまま答える。
「帰ってくる」
「本当に?」
「約束してる」
小猫は前を向いたまま、小さく言う。
「……なら、いい」
一拍おいて、さらに小さな声が続く。
次回の王は
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