サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
放課後の校舎裏は、人通りが少ない。
自販機の脇、古びたダンボール箱が一つ置かれている。
その中から、ふさり、と尻尾が揺れた。
「……おい」
箱の縁から、短い足がひょいと乗り出す。
現れたのは、どこにでもいそうなコーギーだった。
丸みを帯びた体つき。低い胴体。太い脚。
毛並みは橙と白がくっきり分かれ、胸元はふわりと豊かだ。
黒く湿った鼻がわずかに動き、耳は大きく、ぴんと立っている。
瞳は濃い琥珀色。
陽の光を受けて、やけに澄んでいる。
——見た目はかなり可愛らしいコーギーだが、中身はかなりの駄目駄目叔父さん刑事。時々、ダンボールの中に入っておりなぜか妙に似合っている。
今も箱の中で丸まったまま、こちらを見上げている。
『遅いぞ、王様』
頭の奥に低い声が響く。
渋い。重い。完全に見た目と一致しない。
「第一声が文句かよ」
レオルドは前足を伸ばし、箱からゆっくり出てくる。
足取りはのそのそとしているが、無駄がない。
首輪は赤革。小さな銀のプレートが揺れる。
それは宇宙警察の識別コードを内蔵した通信装置だ。
尻尾がゆっくり揺れる。
『学生生活は満喫しているようだな』
「お前こそ、その姿で威厳あると思ってるのか」
『威厳は声で保っている』
確かに、その声だけ聞けばベテラン刑事だ。
だが目の前には、段ボールが妙に似合う犬がいる。
レオルドは小さく鼻を鳴らした。
『任務だ。今回の標的は、惑星間違法エモルギー取引の中継役。地球に潜伏している』
「場所は」
『駒王市内。擬態は人間型。確率操作系の補助能力を持つ可能性あり』
瞳が細くなる。
さっきまでのだらけた空気が、消える。
——これだ。
酒と女に弱く、給料の大半を遊びに使う駄目叔父さん。
だが、罪の匂いを嗅ぐと目が変わる。
『逃がすな。今回は背後に本部が絡んでいる』
「珍しく真面目だな」
『私は常に真面目だ』
その足元には、ダンボールがまだある。
どう見ても、似合っている。
俺は小さく息を吐く。
「行くぞ、レオルド」
『言われずともだ、太郎』
可愛らしい外見と、渋い声。
このアンバランスが、妙に頼もしい。
レオルドは自販機の影に腰を落ち着けたまま、前足で地面を軽く掻いた。
『さっさと動くぞ、太郎』
「まだ詳細も聞いてないだろ」
『詳細は動きながらでも話せる』
わずかに耳が揺れる。
『……そろそろ、金が入らないと酒も飲めないんだよ』
一瞬、無言になる。
「駄目犬が」
『言うな。胸に刺さる』
「給料どこに消えてるんだよ」
『必要経費だ』
「どの辺が」
『交際費だ』
「女絡みか」
『否定はしない』
尻尾が一度だけ揺れる。
本当にどうしようもない。
——見た目は愛嬌の塊だが、中身は酒と女に弱い駄目叔父さん刑事。
だが、その瞳が細くなる瞬間がある。
『今回の標的は“バイサー”』
空気が変わる。
「原作データにあったあの宇宙人か」
『ああ。本来は流浪の戦闘種族だ』
レオルドは地面に視線を落とし、静かに続ける。
『地球に漂着後、悪魔勢力に接触。転生悪魔として眷属化した』
「宇宙人が悪魔に?」
『この星なら珍しくない』
淡々とした声だが、低く重い。
『問題はそこからだ。制御が効かなくなった』
「暴走か」
『エモルギー反応が異常値だ。眷属悪魔としての力と宇宙由来の因子が干渉している』
琥珀色の瞳がこちらを射抜く。
『地球の悪魔側も手を焼いている。だが、宇宙由来の部分は我々の管轄だ』
「つまり共同案件ってわけか」
『そういうことだ、王様』
軽口の調子は消えている。
『放置すれば、被害は広がる。罪は罪だ。事情があってもな』
「……自分のも含めてか」
一瞬だけ、レオルドの耳が動いた。
『当然だ』
短く、断言する。
『不正は見逃さない。それが警察だ』
その声は、冗談を挟む余地がない。
俺は小さく笑う。
「やっぱり真面目じゃねぇか」
『私は常に真面目だ』
言いながら、ダンボールに後ろ足を引っ掛ける。
「駄目犬だろ」
『黙れ』
だが瞳は鋭い。
『バイサーは既に二件の暴走を起こしている。次は抑えきれない可能性が高い』
「場所は」
『駒王市郊外。結界反応あり』
俺は深く息を吸う。
「行くぞ、レオルド」
『ああ。金と正義、両方取り戻す』
「前者は知らん」
『冷たいな』
尻尾が揺れる。
次回の王は
-
妖怪王
-
機械王
-
怪獣王
-
幻想王